広大な湖やダム湖で超大物を釣るのであれば、レイクトローリングに限ります。この釣りの全般についてと、自作の潜行板を使ったレイクトローリングの方法について紹介しています。 1. レイクトローリングとは 大きな湖やダム湖では、冷たく重い渓水は湖底を這う様に流れて行くため、表層の水が大きく移動する事はほとんどありません。そのため、夏が近づくにつれ表層水温がどんどん上がり、冷水性の魚であるトラウトたちは、水の冷たい沖の深い場所へと移動して行きます。概ね表層水温が18℃を超えると、岸から釣る事はできなくなります。 真夏の高水温時のトラウトたちの泳層は、概ね深さ10〜15m程度が多く、ボートで沖へ出て、ルアーを10mも沈めることができれば釣りが可能となります。湖水において、何らかの方法でルアーを深く沈めたまま、ボートで引きながら釣りすることをレイクトローリングといいます。 1.1 レイクトローリングの適する条件 大きな湖の表層水温が18℃以上となるのは、北海道では概ね7月中旬から9月末頃までとなります。表層水温は夏至から約2か月後に最も高くなるからです。また、小さな湖やダム湖では、表層水温の上がり下がりが比較的早く起きるため、実際の水温を測定して、釣り方を判断することになります。 ちなみに湖の表層水温が概ね18℃程度以下であれば、トラウト達は岸に近い浅い層を泳いでいるため、岸からのキャスティングで普通に釣る事ができます。また、ボート釣りの場合も、普通のキャスティングロッドで単にルアーを引くだけ(ハンドトローリング)でトラウト達を釣る事が可能です。 なお、レイクトローリングは遠くの魚からルアーが視認できる必要があり、湖水の透明度がある程度(数m)高くないと釣りになりません。北海道の道北地方や釧路南部など、低層湿原の茶色く濁った湖水の地域や、雨後の濁りの出た状況下は、レイクトローリングには向きません。 1.2 トローリングでルアーを深く沈める4つの方法 1.潜行板:金属や樹脂製の板で水圧を利用してルアーを沈める方法。 竿に大きな水圧がかかり負担が大きい。魚がかかると水圧を受けなくなる様に工夫されている。 海釣りでは潜水板やヒコーキなど、数種類ある。 2.レッドコア:細い鉛の仕込まれた重いラインを後方に長く出して沈める方法。 仕掛けが重い、小さな魚とゴミの区別が付かない、バックラッシュなどの問題がある。 潜行深度はボート速度に反比例するため、高速走行に向かない。 3.ダウンリガー:巨大な錘をボートの真下に沈め、錘に付けたピンチにリーダーを挟んで固定してルアーを沈める方法。 魚がヒットすると、ピンチからリーダーが外れ、ロッド・リールでやり取りできる。 4.錘直結型:リーダーの途中に数100gの錘を取り付け、その先にルアーを接続して沈める方法。 非常に簡単で費用もかからないが、早く走行できない、魚とのやりとりが難しいなどの問題がある。 漁業で使われている日本式の「潜水板」や「ヒコーキ」は、実際に使ってみると3〜5m程度と、思ったほどは沈んでくれません。10m以上も沈めるには、ビシマという錘の入ったロープを使うか、ビシ錘をラインの途中に沢山取り付けなければならず、トラウト釣りには全く使えません。また、そのサイズが15〜30cm程度と、大き過ぎます。 海外では潜行板やダウンリガーを使う釣り人が多いと聞きますが、なぜか日本ではレッドコアを使う人が圧倒的に多い様です。その理由は良く判りませんが、一つ言えることは、レッドコアの方がタックル類が遥かに高価であり、なおかつ、有名作家の手作りミノー(1本数万円)や、貝や角を使った非常に高価なルアーがセットで販売されていて、釣り業界には都合が良いのでしょう。今やボートユーザー=大金持ち、と言う図式は時代遅れです。潜行板であれば、安いサケ釣り用の仕掛けと普通のルアーで十分です。 1.3 潜行板とは 潜行板が良く沈むのは、下図Aの様に斜め上向きの水流を作って、自身は下向きの力を受けるからです。錘を付けてあるため、ラインテンションを緩めると下図Aの様にスナップがL字の部分に移動し、水圧を受け始めます。一定の速度で引き続けると、安定して一定の深さを保ってくれます。後方に出すPEラインの長さと潜行深度はある程度比例するため、ラインを長くすることで深く沈ませる事ができます。一方で、ボート速度を変化させても深度はそれほど変わりませんので、高速でのトローリングも可能となっています。 魚が掛かるとラインが後方へ引っ張られ、下図Bの様にスナップが先端部分に移動し、水圧を受けなくなり、浮き上がってきます。この場合、ラインに魚の引きが直接伝わってくるため、レッドコアの様にゴミなのか魚なのか良く判らない、等と言うことはありません。また、一般的なスピニングリールとML以上の硬めのロッドを使うため、レッドコアよりも遥かに手返しが良く、バックラッシュの心配も殆どありません。
遊泳速度の比較的遅いアメマスなどでは、ボート速度は2〜3km/h程度でも十分ですが、クリアな水系でニジマスやサクラマスなど、高速に泳ぐトラウトを狙う場合は、往々にしてルアーを見切られてしまいます。そのため、ボート速度を早くする必要があります。曇天であれば5km/hでも構いませんが、快晴の明るい日は8km/h程度まで上げて釣ります。この程度の速度になると、レッドコアでは後方に18lbラインを100ヤード出しても、3〜5m程度と思ったほどは沈んでくれません。 実際の阿寒湖や支笏湖での釣行では、概ね潜行板の方がレッドコアを使用した場合よりも、良い釣果が見られています。釣果の良くなる理由として、以下の事柄が考えられます。 1.時速8km程度まででは、ボートの速度にあまり関係なく、確実に安定して深く潜る。 2.高速走行が可能であり、高速に泳ぐトラウト達に、ルアーを見切られにくい。 3.普通のスピニングタックルを使うため、手返しが早く時間の無駄が少ない。疲れが少ない。 4.ステンレス製の潜行板自体が良く光り、ドジャーの代わりとなっている可能性がある。 1.4 潜行板の自作
下表の潜行深度は、PEラインを後方に50m出した状態で、ボート速度5〜6km/h程度で引き続けた場合の、潜行板の潜る深さです。実際にボートを走行させ、湖底に潜行板を接触させて、その深さを魚探を見て推測しています。4種のうち、特大サイズは引き抵抗が大き過ぎて使い辛く、この程度のサイズが限界の様です。PEライン50m送出時の潜行深度は、概ね下記計算式の通りとなる様です。面積が大きくなる程、深度はそれほど増えなくなります。 潜行深度(m)= (潜行板の面積cm2 ÷ 2)± 10% また、深度は送出ラインの長さに概ね比例しますが、長くなるほど深度はそれほど増えなくなります。PEラインを100m送り出しても、50mの場合の1.5倍程度しか潜ってくれません。また、ディープダイバータイプのミノーを使用することで、下表の潜行深度よりも更に2〜4m深く潜ります。私見ですが、サイズ大+ライン50mの組み合わせだけで、晩夏の高水温時でも十分に釣りになります。そのため、中サイズと大サイズがあれば、殆どの釣りをカバーできると考えています。
下記材料と、ごく普通の道具類があれば、上記の潜行板は簡単に自作することが可能です。 材料:0.5mm厚ステンレス板、2.0mmΦステンレスワイヤ、丸錘2〜3号、ステンレス用ハンダ、ステンレス用フラックス強酸性 道具類:2mmドリルビット、電気ドリル、ハンダごて、金切りはさみ、ものさし、ラジオペンチ、ニッパー、ヤスリ 1.5 推奨する釣り具(手元からの接続順) 1.ボート:ニジマス・サクラマス狙いの場合は5km/h以上の速度が必要。2馬力以上の船外機を有するミニボート。 ジンクリアな湖水では、エレキのみではウグイばかりが釣れる事になる。 2.ロッド:引き抵抗が強いため、サケ釣り用、シーバス用など、9ft以上のミディアムライト以上の硬さのもの。 ライト(L)を推奨。 3.リール:ロッドに適応したスピニングかベイトリール。スピニングの方がラインを出し易く簡便。 4.ライン:25lb以上のPEライン。最低でも50m、可能であれば100m以上を巻いたもの。 5.上部リーダー:25lb程度のものを2m程度、PEラインに接続。先端にスナップスイベルを接続。 6.潜行板:表層水温により魚の泳層を推測し、潜行深度の見合ったものを選択。 7.下部リーダー:20lb程度のものをロッドの長さ程度用意し、片方にスナップスイベル、もう片方にルアーを接続。 8.ルアー:ミノーかスプーン。潜行板は横方向には殆ど動かないため、ルアー自身がウォブリングする必要がある。 9.(魚群探知機):湖底までの深さを知る事が主な目的。深さが判らないと根掛かりが頻発する。 ワカサギの魚群や湖底の障害物の認識も可能。トラウトも単体で映る事がある。 ドジャー(集魚板)を取り付けるには、潜行板の後方1m程度にドジャーを接続し、その後方にリーダーとミノーを接続します。潜行板からルアーまでの長さはロッドの長さ程度とします。ただし、水圧を強く受ける大判のドジャーは、潜行板を反転させてしまうため使えない場合があります。もっとも、ステンレス製の潜行板自体が良く光りながら移動するため、ドジャーの代わりになっている可能性があります。 1.6 潜行板によるトローリングの方法 1.6.1 大きな湖水での渓魚の時合い 渓流では、夏の昼間は渓水温が高くなるため、虫の羽化も早朝と夕暮れ時に集中し、昼間はほとんど釣りにならない事が多いものです。しかし、大きな湖水では、トラウトも餌となるワカサギも、水深10m超の水温15℃以下のエリアを泳いでいます。そのため、早朝や夕方が良い時合いになるとは限りません。これまで、夜明けと共に出航してみたものの、結局9〜10時ころまで何も釣れなかった事が何度も有ります。 アメマスやサクラマス・ブラウントラウトでは、夜明け後の比較的早い時間から釣れ始めますが、ニジマスは虫を主食とする魚であり、時合いは虫の羽化時間に大きく左右されます。ワカサギの活動も、餌となる虫の羽化時間に左右されています。湖の深い場所では、渓水と異なり、太陽の明るく差し込む9〜12時頃に虫の羽化が盛んに起こり、時合いも同様となります。寒波の入らない暖かい日は、午後からも虫の羽化は続き、夕刻の1〜2時間ほどが絶好の時合いとなる事も多いものです。 1.アメマス・サクラマス・ブラウンでは、夜明けからの数時間。その後、9〜12時ころまでと夕刻の1〜2時間。 2.ニジマスの場合は、午前9時〜12時ころまで。暖かい日は夕方の1〜2時間。 1.6.2 レイクトローリングのポイント 多くのトラウトは、半島の先端の掛け上がりや、湖底の馬の背など、ワカサギが回遊中に集中して通る場所に定位して、獲物の来るのを待っています。特に湖底ギリギリに定位するアメマスではその傾向が強い様です。夏季の泳層の深い時期でも同様で、多くのトラウトが半島先端沖や深い馬の背の、水深10〜15m付近に定位しています。 しかし、大型のニジマスやサクラマスでは、体力維持のために、ごく短い時合いの間に、効率良く大量の餌を捕食しようとします。そのため、餌を待つのではなく、広く湖水内全体を高速で回遊して、能動的に餌を探しながら捕食します。そういうトラウトのポイントは、湖面全体の、しかもかなり深い場所にまで及びます。ポイント移動中の何でもない様な非常に深い場所で、突然、大型のニジマスやサクラマスがヒットしてくることが良くあります。
大量にワカサギの放流されている湖では、魚探に直径5〜20m程度の非常に大きなワカサギのベイトボールが映ることがあります。そういった場合はそのすぐ周辺を、ニジマスやサクラマスが取り囲むように泳いでいて、付近をトローリングで通過すると、大型魚が良くヒットしてきます。ベイトボールの見られるポイントは、季節により大きく変化しますが、概ね、砂地の遠浅の地形が多く、そういった場所が良いポイントになります。 1.半島の先端沖や深い馬の背の上。アメマスでこの傾向が強い。 2.大ニジマスなどの高速魚は、沖合のニジマスの回遊ルート上、或いはベイトボールの出来やすい砂地の遠浅の浜の沖合。 なお、日の入りの直後に、見えていたベイトボールが突然バラけて、魚探には星空の様に映る場合があります。これは大型魚が眠りに付くため、ベイトボール周辺から立ち去った事を意味していて、納竿のタイミングとなります。 1.6.3 ニジマス狙いの場合のミノー、スプーン 北海道の野生化ニジマスは、非常に俊敏でパワフルです。ヒットした瞬間にジャンプや体の縦回転を繰り返し、フックを外そうと大暴れします。そのため、大型のニジマスでは、通常のトリプルフックではバレる可能性が非常に高くなります。また、阿寒湖ではシングルフックバーブレス(SBL)を規定していますが、シングルフックを尾部に直結しただけのミノーでは、ほぼ100%の割合でバレてしまい、釣りになりません。 管理釣り場では下左写真の右側の様な、ペレットフライとフックを10cmほど離してラインで接続したもの(注:多くの管釣りでこの仕掛けは禁止されています)を考案しています。この様なフックでは、一見、フッキングしないのでは?と思われるかも知れませんが、実際に使ってみると、従来のペレットフライよりもフッキング率が高く、しかもバレる事が殆どありません。魚の歯にラインが引っ掛かったまま引っ張られ、口の外側へフッキングします。筆者は都内の管釣りで、このフライで6時間85尾(通常は6時間10尾前後)と言う記録を持っています。
フック外れによるバレは、ミノーが魚体に接触した状態で、回転力が加わることで起こるため、フックを紐などでルアー本体から離して接続することで、バレが激減します。トローリングにおいては、ロッドをボートに固定して走行する事から、「合わせ」が不足してバレる事が多くなります。そのため、上中央の様なダブルフックを使用する事でバレを無くします。阿寒湖でも紐で接続したシングルフックを使うことで、バレを3尾に1尾程度に抑えています。 1.大ニジマスでのおおよそのバレる確率(私見です)は、シングルバーブレス(BL)直結=ほぼ10割、 トリプルBL=9割、シングル=7割、トリプル=5割、紐付シングルBL=3割、ダブルフック=1割。 2.通常はバレの最も少ないダブルフックに変更しておく。 3.SBLの制限のある釣り場では、紐の付いたシングルバーブレスフックに変更しておく。 4.意外にも、ダブルフックや紐付きのシングルフックの方が、ヒット率も高く、バレも少ない。 1.6.4 釣り方、注意点 潜行板はそれ自体が動いたり振動したりすることは無いため、ミノーの場合には確実にウォブリングする必要があります。3km/h程度までの低速では、多くのリップ付きミノーはウォブリングしませんので、ペンシルベイトやスプーンを使用します。逆に6km/hを超える様な高速では、スプーンは回転してしまう事が多く、通常のリップ付きミノーが適しています。ニジマス狙いでは、高速走行でワカサギを模したリップ付きミノーを良く使います。 大ニジマスがヒットした場合、多くの場合、ボートの近くに寄せてくるまで魚はほとんど暴れません。そのため、大物か小物かの区別が付かず、ボート脇で大暴れされてバラシてしまう事が多くなります。また、魚から釣り人が見えた瞬間に、ニジマスは真下にフルスピードで潜るため、スレ掛かりした魚と同じ様にラインに強いテンションがかかり、ライン切れを起こすことが多くあります。ラインは1ランク太いものを使用します。 レイクトローリングの世界では、手作りのペンシルベイトや、角や貝で作られた非常に高価なスプーンが販売されています。あくまで私見ですが、高速ではごく普通のミノーの方が遥かに釣果が良いと考えています。角や貝が特有の波長の光を発するから、などと理由付けされていますが、何の科学的な根拠もありません。高速でウォブリングするミノーの方が、魚から見切られづらく、釣果が上がると考えています。 1.速度3km/h程度までは、ペンシルベイトかスプーン。 2.速度6km/h程度以上では、リップ付きミノー。 3.魚とラインの角度の関係で、岸釣りよりも強いテンションが掛かるため、ラインは1ランク太いものを使用。 4.釣りの世界では、超高価な道具は釣果が良い、などと言う事は殆ど有りません。 |