例年、東北のダム湖は、6月に入ると大きくその水位を下げ始め、同時にダム湖の釣りも終了します。そしてその後、私たちの釣りは、堰堤プールの釣りやダム湖の減水直後の釣り(居残りイワナ釣り)へとシフトして行きます。しかし、今年は少々様子が異なっています。6月に入ってから、なぜかダム湖で怒涛の釣果が見られているのです。それも、ほんの1週間ほどで釣り上げた大イワナの数が、4月〜5月の2か月間に釣った大イワナの数の2倍以上にも達しているのです。その理由は幾つか考えられますが、釣り場の選択や釣る時間帯・釣り方の工夫にある様です。 【6月2日(日)】 6月に入ると、南東北の多くのダム湖は、梅雨の大雨に備えて大きく水位を下げ始めます。下越のホームグラウンドのダム湖も然りで、つまりそれはダム湖の釣りの終了を意味します。しかし、最近はホームのダム湖での釣果も芳しくなく、近隣の未開拓のダム湖でもロッドを出すようになっています。この日はそんなダム湖のうちの一つに入渓してみました。ただ、写真の様に既に減水を始めていて、なんとかボートを出して釣りは出来ましたが、恐らくこのダム湖の釣期もあと1〜2週間で終了です。ただ、山の奥が深いので残雪も多く、水温も低いので、インレットで大物を期待できるのが魅力でした。
この日はBuuさんに早朝の仕事があるとのことで、遅い時間に待ち合わせ、ボートを用意して10時ころから入渓しました。この時期はインレット付近のワカサギの活動がキーになります。既に産卵活動が終了し、ワカサギが見られなくなっているダム湖もあるからです。このダム湖では、付近でワカサギの泳ぐのを確認はできましたが、午前中は水温が5℃台と低く、魚の活性はイマイチでした。それでも、2人でトローリングをしていると、インレット手前700m付近で、まずはBuuさんに魚信があり、直後に私のロッドにも反応が出て、珍しくダブルヒットとなったのです。どちらも40cmに僅かに足りない38cmと39cm。でもま、この水温なら幸先良しです。
その後、インレットまで移動しましたが、ジンクリアで魚の反応はありません。インレット付近で上陸し、昼食を取ったり写真を撮影したりして時間を過ごし、水温の上昇を待ちました。その後、トローリングなどをしながら、一旦は前線(注)近くまで戻りましたが、16時ころになり、水の色が急激に変化してきました。水温も8℃前後まで上がってきました。どうやら山が深いため、16時ころにならないと雪代が入ってこない様なのです。しかも、非常に透明度の高い渓であるため、雪代は強い濁りでは無く、釣りにはちょうど良い具合でした。これはもう、急いでインレット近くのポイントまで舞い戻るしかありません。 注:前線=釣り仲間で使用している言葉。ダム湖の暖かい水に川の冷水が潜り込む地点。水温が急激に変化し、多くの場合ゴミが溜まっている。
そして、ここからが桃源郷の始まりでした。この時期のこういった場合の一番のポイントは、インレット直下の最初の開き、つまり最初に川幅が広くなる場所で、インレットからの強い流れが急激に緩くなる場所となります。水温が低い間はイワナ達は強い流れに逆らいながら定位するのがつらく、こういった最初の緩衝地帯となる場所に多くの大物たちが集まるのです。そんなポイントに静かに近づきボートを係留し、少しだけ時間を置いてから2人でミノーを投げ始めると、大きなイワナが次々とヒットして来たのでした。ポイントは2m程度の深さでしたが、チャート系のDダイレクトに反応が良く、結局、この1つのポイントで、40cmを超える大物ばかりの5尾の釣果が見られました。久々の夢心地でした。
【6月4日(火)】 ところで私は日頃、株式投資をやっていますが、このところ、株価の乱高下が激しく、日計りばかりで、持ち株を維持することが出来ない日々が続いていました。つまり、昼間はPCを見ているだけで、全くのヒマなのです。そのため、この日は快晴の非常に良いお天気についつい誘われて、午後から県内の某ダム湖へと繰り出してしまいました。ただ、この時期のダム湖は、午後から濁流の様な強い濁りの雪代に見舞われ、釣りにならなくなるダム湖も多いのです。そんな中でも、下写真のダム湖は山が深く、比較的水温が低いこともあって、余程の暑い日でない限り、強い濁りは出ないのです。
昼間は写真撮影などをしていて、入渓したのはもう17時近くでした。それでも1時間半ほどは釣りができるのですが、この時期はこの時間帯がベストであり、早くから入渓しても釣れてくれません。水量は雪代でかなり増えていて、インレット直下は轟音を立てながら流れています。少し下流側にある最初の開きがこの時期のポイントであり、真っ直ぐにそんな場所へと移動。水深1m前後と比較的浅く、又、濁りも有るため、Dコンタクト63Sゴールドチャートを選択。ミノーを対岸ギリギリに投入し、下流側へU字カーブを描きながらゆっくりとリーリングしてくると、1投目でガツンと強烈なアタリが出て、40cmほどのイワナが暴れ始めました。
早朝の透明度が高く水温の低い状況では、イワナの動きが鈍く、また、隅々から魚の暴れるのが見えてしまうため、1尾釣れるとすぐにスレてしまうのですが、適度に雪代の濁りが入っていると、スレるまでに時間がかかります。そのため、少しだけ場所を移動してミノーを投げ続けると、すぐにまた次の獲物がヒットしてきます。そんな風にして、たった1時間半の間に、上写真の7尾もの良型イワナが次々とヒットしてきました。ただ、この釣り場で面白いと思ったのは、ダム湖上流部で盛んに放流が行われているらしく、釣れ上がってくるイワナの色や斑点の大きさが様々な事でした。色んなイワナを放流しているのでしょうね。
【6月6日(木)】 さて、5月中旬まで続いた「季節外れの寒波」による寒冷な気候は、5月下旬になると一転して真夏の様な気候になってしまいました。6月に入っても毎日の様に快晴の良いお天気が続き、14日まで雨が全く降りませんでした。お天気の神様の意地悪には、ほんとうに参っちゃいますね。そして、この日も快晴のとても良いお天気だったため、相場の大引け(午後3時)後に、またまた誘惑にかられて2日前と同じ釣り場に出かけてしまいました。2日前と比べると、この日はダム湖の水位が1mほど下がっていて、2日前に良く釣れた付近は太い流れの川になっていて、岸際を容易に歩いて釣る事ができる状態でした。
インレット下流部の渕でも2尾のイワナが釣れましたが、念のためにと、既に川になっている2日前に良く釣れたポイントでミノーを投げてみると、あれま、立て続けに3尾のイワナがヒットしてきました。イワナはダム湖の水位が下がっても、多くは同じ場所で泳ぎ続けている様なのですね。だからこそ、ダム湖の減水直後の釣り(居残りイワナ釣り)が可能になるのでしょう。そして、この釣り場の特徴でしょうか、この日釣れたイワナたちも色や斑点の大きさに様々な違いが見られました。特にこの日一番の大きなイワナは、妙に黄色っぽい魚体で斑点がとても細かく、他のイワナと明らかに形態が異なっていました。
【6月8日(土)】 前週に良い思いをした私たちは、「夢をもう一度」とばかりに、翌週もまた同じダム湖へと向かいました。Buuさんは通常は土曜は仕事ですが、この日は午前中の仕事だけとのこと。どうせ雪代の入る時間帯しか釣りにならないだろうと、遅い時間に待ち合わせ、ボートを用意して出航したのは、もう15時ころでした。このダム湖も、前週と比べると1.5mほども水位が低下していて、インレットの位置は恐らく数百mも下流側へ移動していると考えられました。出航してインレット方面へトローリングをしながら移動していると、前週よりかなり手前の深い場所でBuuさんに魚信が有り、なんと50cmに数mm足りないだけの「泣き50」が飛び出してきました。
幸先は良かったのですが、あとが続きません。この日は前週よりかなり涼しい日で、16時を過ぎても雪代が殆ど入って来ず、インレットはジンクリアのまま。まるで魚の気配も感じられない状況で、全くの不発でした。ひとしきりインレット下流部でもミノーを投げ続けましたが、まるで反応がありません。そしてあきらめて帰りがけの出来事でした。小さな支流の流れ込むワンドが有り、気になったのでワンドの最奥にDコンタクト63Sゴールドチャートを投げ込んでみると、一引き目でガツンと根掛かりの様な強烈なアタリが有り、下写真の、まるで小錦の様な45cmがヒット。いやはや、凄い馬力で、ランディングに随分と手こずらされました。
【6月9日(日)】 これだけの大物の実績があると、当然の様に翌日も、Buuさんと同じダム湖に向かうことになりました。ただ、釣れるのは雪代の出る夕方だけで、早朝は水温も低く、透明度も高くて、恐らく何も釣れないでしょう。魚は間違いなく泳いでいるのですが、透明度が高いと魚の気配すら全く無くなってしまうのです。そのため、この日も午前中は別の釣り場を見に行ったりして時間を潰し、出航したのは13時を回っていました。この日は快晴でとても明るく暑い日でしたが、13時半の時点では、明る過ぎて下流部の深いポイントでも全く魚信がありませんでした。
雪代の濁りが入ってくるまでには、まだ2時間以上もありましたが、ヒマに任せてどんどんとインレットに近づいてしまい、何の反応も無いままに、インレットに到着。こうなってしまうと万事休すです。仕方なく、浅瀬に上陸してのんびりとコーヒータイムを楽しんだり、写真を撮影したりして、またまた時間潰しです。ただ付近は、目の前に清冽な流れ、周囲の深緑の輝き、上を見れば雲一つ無い青空と、まるで天国の様な場所でした。水量がとても多く、少しだけしか遡行できませんでしたが、インレット上流部の渓でも、反応は全くありませんでした。
そして、16時ころになって再びボートで漕ぎ出すと、ようやく雪代の濁りが入ってきました。水温も8℃と最適です。そして、インレットから200mほど下流の水深が3mと急に深くなるところで、Dダイレクトチャートヤマメがボートのほぼ真下にきた時、40cmのイワナがヒット。この時、ほぼ同時にBuuさんのロッドにも大物がヒットしましたが、目の前で惜しくもバラし。その後、更に下流部で、ワカサギが跳ねるのを目撃したため、すかさず同じDダイレクトを投げ込むと、2投目で下写真の42cmがヒットしてきました。結構な数の魚が泳いでいる様なのですが、透明度が高いと、まるで魚が居ないかの様になってしまうだけの様です。
【6月13日(木)】 さて、ダム湖の釣りもいよいよ終盤です。梅雨の時期にも関わらず、この日の県内は異様な暑さでした。たまらずにまた引け後に某ダム湖へと向かった訳ですが、この日は前週よりも更に減水していて、そろそろこのダム湖の釣りも最後の様でした。とても暑いので久々にフローターを出しましたが、釣り始めるとすぐに40cmジャストのイワナがヒット。その後も良型が2尾ヒットしてきましたが、なぜか17時を過ぎるとパタリと反応が無くなってしまいました。良く見ると暑さのせいで雪代の濁りが強くなり、透明度が50cmほどしか有りません。そのため、少し薄暗くなると視界が利かなくなり、魚たちは休息の場所へと移動してしまったのかも知れません。
さて、このレポートでは6月2日から13日までの6回の釣行で、40cmを超える大物を11尾釣り上げています。これは4〜5月に釣り上げた大物4尾と比べると異様に多い事が判ります。特に県内のダム湖へは過去にも何度か出かけていますが、今回ほどの釣果を見たことはありません。その理由を少しだけ考えてみました。 1.6月以降は釣り場となるダム湖の選択が重要。山が深く高度も高いダム湖で、流入水温の低いダム湖を選ぶ。 水温の低いダム湖では、6月中旬でもワカサギの産卵活動が続いていて、インレット付近に群れを確認できる。 2.多くの釣り人は、早朝の高透明度かつ低水温で釣り人も多い時間帯に入渓している事が多いが、午後の 雪代の濁りを利用してタイムリーに釣る事で釣果を上がる事が可能。透明度は50cm程度でも釣りは可能。 3.濁りの入った状況下では、重いシンキングミノー(Dコンタクト63・Dダイレクトなど)で底を探る必要がある。 イワナにはチャート系のカラーが最適。ニジマスなどが混在していても、イワナだけを選択して釣る事が可能。
考えてみれば、奥只見湖や大鳥ダムでは、6月に入ってからが釣りの最盛期であり、真夏の8月でもイワナが釣れています。残念ながら、山形や下越には奥只見ほどの標高の高いダム湖はありませんので、同じレベルでは語れませんが、場所を選び、時間帯を選べば、結構な長い時間に渡ってダム湖の釣りが可能な様です。そして、ダム湖においても、釣りはやはり、「一に場所、二に時合い、三に回数、四に腕」・・・なのですね。 【今回使用のタックル】 Ueda TroutPluggingSpinGS902H、SensiLiteMG2500、PE2号+シーガーエース1.7号 D-Contact63S/Gチャート、Dダイレクト/Gチャート/チャートヤマメ、他 |