梅雨が空け、イワナ達は源流へ遡上を開始しています。しかし、今年は太平洋高気圧の勢力にムラが有り、7月末に「戻り梅雨」がみられ、新潟県内では300mmを超える集中豪雨により、甚大な被害に見舞われました。被害を出すほどの豪雨は困りものですが、一方で、この時期の豪雨は大物釣りのチャンスを与えてくれる場合も有るのです。天気予報と二次災害には十分に気を付けながら行動しなければなりませんが、場所とタイミングが合えば、大イワナがお相手をしてくれるかも知れません。年に一度有るか無いかの、そんなチャンスを求めて、下越地方の釣り場へと出かけてきました。
【7月30日(土)午後】 今年の戻り梅雨は、新潟・福島の両県に甚大な被害を与えました。7月28日木曜から降り始めた雨は、30日土曜の朝まで降り続き、その合計雨量は場所により300mmを超えました。特に新潟県三条市では、340mmにも達する集中豪雨により河川の決壊が相次ぎ、多くの家屋の浸水を招きました。被害に遭われた皆さまには、心よりお見舞い申し上げます。しかし、30日(土)朝の天気予報では、梅雨前線が南下し、新潟では土・日曜は良く晴れる見込みとのこと。今回被害の出ていない下越地方の釣り場へ、或る思惑を抱きながら出かけました。
ただ、下越地方でも直近3日間の雨量は相当なもので、まだ多くの河川の濁りは、土曜午後になっても取れてはいませんでした。仕方なく、いつもはジンクリアで釣り辛い堰堤プールへ入渓することにしました。多くの堰堤プールでは、梅雨が空け水温が急上昇すると大型のイワナ達は源流へと移動を始めるため、釣れなくなってしまいます。しかし、この堰堤プールは他より水温が比較的低いため、堰堤プールの釣りの、いわば最後の悪あがきを試みた訳です。夕方15時半ころ現地に到着すると、透明度は最適な笹濁りの状態で水温も15℃とギリギリの状態。久しぶりにフローターで漕ぎだしました。
しかしながら、釣果の方はほぼ予想通りでした。世の中そう甘くはない様で、ヒットしてくる魚は、産卵活動に参加しないおチビちゃんばかり。イワナのお父さんやお母さんたちは産卵の準備で忙しいらしく、既に留守の様でした。それでも、ポツポツとヒットがあるのを良いことに粘っていると、もうすっかり薄暗くなった18時ころ、これまでとは明らかに異なる強い引きがあり、下写真の36pが釣れました。しかしなんなんでしょうね、このイワナ君。源流への移動途中に大雨で堰堤プールへと引き戻されたのでしょうか。なぜか体中が擦り傷だらけで、なんだかお疲れの様子のイワナ君でした。
【7月31日(日)午前】 さて、今回のレポートの本番はここからです。翌朝は4時に目覚め、薄暗いうちから臨戦態勢を整えていました。この日、目指したのは、下越地方のとある河川の上流部にある滝の下のポイントです。中越地方では集中豪雨で河川が氾濫していましたが、この地では被害が出るほどでは無かったものの、やはり100mmを超える大雨が降った様で、下写真の様に川岸の植物が大きく薙ぎ倒され、3m以上も増水したことを示していました。ただ、雨が降り止んでから20時間ほども経過しているにも関わらず、透明度は50p程度と、釣りには少し難しい状況でした。仕方なく、付近が明るくなるまで待つ事に・・・二度寝をしてしまいました。
そして、9時ころ目覚めると、辺りはすっかり夏の日差しとなり、太陽がギラギラと輝いていました。水面にも太陽が差し込み、透明度も1m近くまで上がっていて、底石がところどころで見える程になっていました。どうやらチャンスが到来した様です。この日は大物狙いで最初から一回り大きいDコンタクト63TSを選択。狙ったポイントに投げると、2投目ですぐにヒットがあり、恐らく45cm前後の大物の様子。しかし、流れが非常に早く、あっと言う間に下流の岩の陰に流されてしまい、大バラシ。立ち位置の選択が悪く、下流に走られると取れなくなる様な場所に陣取っていた私の失敗でした。立ち位置を少し下流側に変え、仕切り直しです。
透明度が上がって来ているとは言え、豪雨の翌日ですので、滝の直下はゴウゴウと白い泡を巻き上げながら流れていて、こういった場合には滝直下には魚は殆どいません。滝壺よりかなり下流部の緩い流れの中で、そこにカケアガリや大岩があれば、大物が待機している可能性が高いのです。また、全体の流れがキツい場合には、足元や対岸の木の茂みの下(写真右上)などにも魚が待機している様です。そんな幾つかの場所に再度ルアーを投げ続けると、ガツンと強烈なアタリがあり、45cmの丸々と太ったイワナがヒット。濁っているため、ミノーを1mほどの間隔を空けて投げ続けると、今度は48cmの見事な大イワナがヒットしてきました。
2尾釣り上げたところで大物の気配が途絶えたため、この時点で写真撮影などをして、場を休ませました。そして10時半ころ、再度ミノーを投げ始めると、今度は1投目でいきなりヒットがあり、どう見ても45cm以上の魚体が一瞬反転したのが見えたのですが、これは惜しくもバラし。引き続きポイントを変えミノーを投げ続けると、今度は40cm強くらいのイワナのトレースが見られましたが、残念ながらこちらもヒットせず。そして、更に10回ほどミノーを投げ続けたところで、今度は40cmジャストの非常に綺麗なイワナがヒットしてきました。
それにしてもなぜ、この釣り場ではこんなに沢山の大物の魚影が見られたのでしょうか? バラシとトレースを含めると、40cmを超える大イワナが最低でも6尾、この場に泳いでいた事になります。その訳は、豪雨と上流の地形にある様なのです。 実はこの釣り場の上流には、長大な深いゴルジュ帯が有り、魚たちはその深い淵に守られ、釣り人の脅威にさらされることなく生活しています。しかし、年に1度有るか無いかの豪雨に見舞われた時、ゴルジュ帯のイワナ達は、強い濁りと強烈な流れに耐えられず、下流部へと流されてくる様なのです。水温の低い春先であれば、下流部の堰堤プールなどに魚たちは留まるのですが、この時期は産卵の準備が始まっており、彼らはすぐに上流へ向かって泳ぎ出します。その結果、遡上止めの直下に、大物たちが数多く溜まることになるのです。
しかし残念ながら、こういった釣り場は山形県内には殆どありません。釣り人が簡単には入れない様な深くて長いゴルジュ帯を有する様な渓は、山形には少ないのです。しかし、新潟県下越地方には、海までの距離の短さと落差の大きさにより、極めて稀な地形を作っていて、上記の条件に叶う釣り場が沢山存在する様なのです。また、こういった遡上止め直下の釣り場は、せいぜい1〜2週間で餌釣り師たちに釣り切られ、釣れなくなってしまう様です。加えて、堰堤下は釣り禁止になっている場所も多く有りますので、お気を付け下さい。
最後にお願いですが、集中豪雨で被害の出ている様な河川への入渓は厳禁して頂きたいのです。なぜなら、こういった釣り場は、たとえ晴れていても地面には大量の水が含まれていて、土砂災害の危険性が数日間は残っているからです。それに何よりも、その様な釣り場への入渓は、被害に遭われた地元の人達の気持ちを逆撫でしかねない非常識な行為に、ほかならないからです。数mの増水があれば、この様なチャンスが訪れてくれる様ですが、増水し過ぎた河川は、危険なだけで釣りの対象には成り得ません。そして、午後も粘ればまだまだ釣れたと思われるのですが、この日は十分に満足し、大雨の贈り物に感謝しながら竿を納めました。 【今回使用のタックル】 AlphaTackle LakeMarquis80H、SensiLiteMG2500、PE0.8号+Kureha SeagarAce1.2号、 30日:D-Direct鮎、WiseMinnow50FS鮎、DENS50ヤマメ、31日:D-Contact63TS |