今年もあっと言う間に渓流釣りのシーズンは終わってしまいました。今年も異常気象に悩まされ続けたシーズンの様に思いますが、特にお盆明け以降の後半戦は、山形・下越地方ではスッキリとした晴れた休日は一日も有りませんでした。そのため、常に慢性的な増水と濁りに悩まされ続け、源流部への入渓を阻まれただけでなく、思った様な釣果にも恵まれない状況が続きました。お天気の神様は最後まで意地悪でしたが、しかし、釣りの神様は最後の最後にほんの少しだけですが微笑んでくれた様です。納竿釣行では、久々に源流の主と呼べるツワモノに出会うことができ、なんとなく満足のうちにシーズンを終えることができました。
【9月27日】 例年の最終釣行では、もう釣果などはどうでもよく、ひたすら寂しさの中で山とお魚さんにお別れを告げるのみとなるものです。この日はシーズン最終週の土曜であり、どうせどこへ入っても釣り人で一杯だろうと、殆ど釣り人を見たことのない、とある中流部の魚止の滝の下流部をのんびりと攻める予定でいました。しかし移動中に水戸の風玉さんから電話が入り、この魚止の下へは翌日曜に新潟からBuuさんたちがやってくるとのことを聞いてしまいました。私が釣った翌日に仲間が同じ場所へ入れば、殆ど釣りにならないのは必須です。急遽、翌日はBuuさんたちとのミニオフに変更し、この日は下越地方の、とあるゴルジュ帯にフローターを浮かべて一人のんびりとしようと考えました。
ただ、午後2時ころに目的地へ到着すると、少々がっかりしました。今年はかなり状況が異なっていたのです。お盆明け以降の下越・山形では、週末ごとに常に大雨がやってきて、スッキリと青空の広がる日が一日も無い状況が続いていましたが、この週も金曜夜にかなり強い雨が降っていて、ゴルジュ帯は大増水していたのです。しかもこの時間でもまだ雨は降っています。のんびりプカプカと言う雰囲気では全くありません。それでも一応、フローターを浮かべるだけは浮かべてみたのですが、激流を足ヒレの力だけで乗り切ることは全く不可能であり、結局、入渓地点で小さな小さなイワナを1尾釣り上げただけで終わってしまいました。
【9月28日】 翌日は朝6時にBuuさんたちと待ち合わせ、件の魚止の下流部へと向かいました。メンバーは他に新潟の「たかちゃん」と「もっくん」が加わり、計4人でのミニオフです。この時期、魚たちは産卵のために遡上を繰り返し、ある程度以上の大物たちは既に源流部の魚止の下に集結していますが、渓の途中には落差のある大きな滝や堰堤がある場合が多く、当然そんな場所も魚止となっていて魚影が集まっています。ただ、そんな場所はアクセスも良く、常に釣り人たちに攻められているものですが、幸いにもわれわれはアクセスの悪い釣り人の少ない中流部の魚止を幾つか知り得ているものです。この日はそんな釣り場の一つに入渓したと言う訳です。
釣り場へは長い時間の歩きを要求され、しかも最後は強烈な藪こぎと崖下りが待っています。でもまぁ、この時期に人のあまり入らない釣り場と言えば、そんな悪条件が整っていなければ存在しない訳であり、仕方がありません。そして崖を下り河原に到着すると、今度は激流が待ち構えていました。毎週の雨で濁りは殆どありませんが、前夜の雨でかなり増水していて、もう少し水位が高ければお手上げになってしまうところでした。こんな状況下で釣りになるのかと心配しながら、私がパイロットでルアーを投げてみると、あっさり2投目でイワナがヒット。すぐにバレてしまいましたが、同じ淵で更にルアーを投げ続けると、数投目で写真右上の26cmがヒット。どうやら人は入っていない様です。
本命は入渓地点よりほんの少し上流にある巨大な滝壺なのですが、その下流部にも滝壺からアブれた魚たちが相当数入っているものです。狙わない手は無い訳で、4人で順番にそんなポイントを狙いますが、なにせ激流で思うようにルアーが泳いでくれません。3尾ほど釣果がありましたが、すぐに滝壺に到着してしまい、今度は全員で一斉に滝壺の中へルアーを投げ込みます。しかし、激流は滝壺の下流部でも同じで、いつもは魚が付いているポイントに全く魚影が見られません。それでもしつこく皆でルアーを投げ続けると、やがてポツポツと反応が表れ、もっくんに尺イワナ、Buuさん・私にも良型がヒット。激流のため、どうやら滝壺奥の流れの巻いた流速の弱い部分に魚たちは集まっているようです。
そして、ひとしきり皆でルアーを投げ、スレてもうそろそろおしまいかなと思われた時でした。滝壺直下は瀑風としぶきで台風の様な状況なのですが、雨具を持ってくるのを忘れてしまったため、少し下流部に陣取っていたたかちゃんのロッドに変化が現れました。ポイントまで遠く、また流速が早いためルアーが底まで沈んでくれないからと、たかちゃんはヘブンの重いスプーンに代えて大遠投してみたとのこと。滝壺の底にいてこれまで反応しなかった大物がヒットしてきた様なのです。それほど引きも強くはなく、まずまずのサイズかと思われたその獲物は、足元まで引き寄せてくると予想を遥かに超える大型で、掛けた本人が一番ビックリしていました。
そのイワナはジャスト40cmの大物でした。しかも、斑点がとても細かく強烈な鼻曲りになっていて、まさに源流の魚止の主と呼ぶにふさわしい、素晴らしい魚体の大イワナでした。今年の後半戦は、ロクな獲物に出会えなかった我々ですが、釣りの神様もアジなマネをしてくれるものです。最後にこんな素晴らしい獲物をプレゼントしてくれるとは、誰も想像していませんでした。しかし、なんですね、最後の最後にこの様な立派な大物を釣り上げることのできた「たかちゃん」は、本当に幸せものですよね。なにせ、来年の解禁までの半年間、この素晴らしい魚体を思い浮かべながら、美酒にひたり続けることができるんですから。んーー、なんともうらやましい。
こんな大物を見せられてしまうと、他のメンバーも気合を入れなおしてルアーを投げるしかありませんが、主を釣り上げてしまった後では、そうは問屋が卸してはくれない様です。その後もしばしの間、皆でルアーを投げ続けましたが、残念ながらもっくんにまずまずのサイズが来ただけで終わってしまいました。ただ、この滝壺では4人全員に釣果が見られ、その合計は7尾を数え、期待通りの釣果に皆が大満足でした。帰り道もまたまた長い歩きを要求される苦難の道のりでしたが、ほどよい疲れと満足感で苦にはなりません。あたりを見回すと、周囲の森には、早くも色づき始めた広葉の木々が風に揺れていました。
午後からは用事があるとのことで、たかちゃんだけが先に帰られましたが、残った3人は少し移動して別の渓に入っています。この時期は堰堤の下や魚止の滝壺を狙うのが定石ですが、今度は、とある上流部の堰堤の下を狙っています。ただ、時間が午後1時ころであり、アクセスも良く既に朝から何人かの釣り人に攻められた後であろうことは間違いなく、釣れたのは写真下中央のおチビちゃんが3尾だけ。この堰堤下には40cmオーバーも間違いなく入っている筈なのですが、まぁ、禁漁直前の一番人の多い日の午後ですから、そんな大物が出てきてくれる筈はありませんよね。
午後3時ころからも更に少し移動して、3人でまた別の渓に入っています。ただ、残念ながら途中でうっかりとデジカメを水没させてしまい、その後の写真が残っていません。加えて、どこへ入っても釣り人だらけの状況は全く変わらず、釣果の方も言わずもがなでした。しかし、既に心中には釣果などどちらでも良くなっていた我々にとって、残されたその僅かな時間は、渓の魚たちと山の神々に来年の春までのお別れを告げる儀式の時間としてしか存在していませんでした。そして、帰りの道にふと空を仰ぎ見ると、遠く飯豊の山々の頂きが白く輝いていて、やがて来るであろう白い季節の早い訪れを予感させました。
【今回使用のタックル】 Wellner 8ft TroutRod、Shimano SensiLite MG2500、Kureha SeagerAce1号(6lb)、 DensMinnow37S緑、D-contact50S鮎/TS/緑、他 |