今年の夏も異常気象に泣かされました。お盆休みの後半以降の山形の休日は全て雨。本来ならば源流の釣りに移行する季節ですが、増水の危険が無視できず、道路に近い釣り場を選んでの拾い釣りが中心になってしまいました。道路脇であっても、イワナ達は釣り切られずにちゃんと残っているもの。そんな残り物の釣りを雨の濁りが逆に助けてくれました。お盆を過ぎたころからは、産卵のために遡上したイワナたちが魚止めの滝や堰堤の下に集結し始めています。豪雨の合間を縫って、そんな釣りを楽しんでいます。 (高山植物の写真は、8月9・13日の「熊野岳」「月山」登山時に撮影したものです。本レポートの内容とは直接の関係はありません。) 【8月14日】 近年の気候は、異常でないことが異常である様です。今年の夏も本当に異常な気候に泣かされました。6月後半以降はさっぱり雨が降らず、全くの空梅雨で終わってしまいました。このまま乾燥した秋に突入するのかと心配していたところ、お盆の半ば8月14日以降の休日は、逆にことごとくの雨で釣り場は毎週決まって濁流になってしまいました。体調が悪く夏休みの前半まで釣りを自粛していた私にとって、大いに楽しみにしていた8月後半の源流の釣りも、増水が心配で全く奥へは入れずじまい。なんてこったい!!
しかしそんな中でも釣りが全く不可能な訳ではありません。むしろ豪雨は普段釣りにならない様な場所での釣りを可能にしてくれるものです。まぁ、何と言うか、ある意味セコい釣りではありますが、釣りの虫のうずくのを止められない私としては、背に腹を代えられず、雨の中を顧みず出かけてしまうのでした。この日訪れたのは、山形の自宅から1時間ほどの、しかも大型車が頻繁に通る国道のすぐ下の源流でした。東北には標高の高い所を通る国道が沢山あり、普段は水量が少な過ぎて釣りにならない様な最源流部に、増水時だけ釣りになる様な場所が幾つかあるのです。もっとも、そんな場所でも餌釣り師は頻繁に入っていて、かなり釣られてはいます。しかし、イワナ達は完全には釣り切られず、しっかり残っているものなのです。
もっとも、お天気には細心の注意が必要です。最近はネットで雨雲の動きが随時確認できますので、レーダー画面で豪雨が来ないかを確認しながらの釣りです。今後2時間程度は雨雲が近づいてこないことを確認出来た時だけ、そして、いつでも道路上に逃げることができそうな場所だけを選んで、こんな釣りが可能になります。一歩間違えれば、命にも関わりかねないことですので、十分に注意が必要です。そして、この日は夕方から出かけ、道路から土手を降りたすぐ目の前の小淵で22cmのイワナをヒット、その後500mほどの間に20〜29cmまでを10尾ゲット。すぐに魚止めの滝の下に到着してしまい、釣りの時間はほんの1時間ほどでしたが、まぁ、それで十分に満足でした。
【8月16日】 8月に入り体調不良で自粛していた釣りですが、16日だけはちょっとした用事もあって、秋田県まで足をのばしています。転勤でこの地を担当していたころ、秋田県北地方は私の漁場でした。あのころ最も頻繁に通っていた釣り場は、電力会社の資金による放流が確実に続けられていて、今も全く健在でした。この日も前日にかなりの豪雨があったらしく、釣り場に降り立つと、岸部の植物がことごとくなぎ倒されていて、水位が1m以上も上がっていたことを想像させてくれました。朝一番で入渓しましたが、まだまだ濁りは強く、深みでは水の色は茶色っぽく、透明度は30cm程度。これで釣りになるのかと少々心配もさせられました。
しかし、釣り初めてすぐに魚影の健在なことが判りました。こういった強い濁りの状況下では、恐らく魚からルアーが十分に見えないからでしょうか、普通にルアーを投げてもなかなかヒットに繋がりません。足元まで追いかけてくるイワナの姿が見えますが、バシャっと水を跳ね上げて反転して流れに戻って行ってしまいます。こんな時はどうやって釣るかと言えば、むしろ簡単です。竿先にルアーを50cm〜1m程度に垂らし、岩陰や倒木の脇をロッドを左右に動かしてミノーを流してやるのです。一度では喰いつけないイワナも、目の前でゆっくりと何度もミノーを泳がせてやると、やがて喰らい付いてくるものです。
そして2時間ほども釣り上がったころには、あたりは十分に明るくなり、透明度も一気に上がってきました。この日のこの地の天気予報は幸いにも「曇り時々晴れ」であり、雨の心配はまずありません。あとは透明度が上がり続けるだけで、当初はイワナばかりがヒットしていた同じ渓で、気が付けば良型のヤマメがヒットし始めていました。透明度が上がればごく普通にミノーを遠投し、中層に浮かびはじめていたヤマメを次々にヒットできます。同じ日に同じ渓で良型のイワナとヤマメを時間差で多数釣り上げることができ、久しぶりの秋田の渓を大満足のうちに後にしました。
【8月23日】 さて、お盆の次の週も大雨でした。どうやら秋雨前線が日本列島の北から南までを縦断するように居座ってしまった様です。この週は関東や中部地方で豪雨による大きな被害が報じられていました。まぁ、こういった日は自宅でのんびりと過ごすのが一番なのですが、午後から晴れ間が見えてくると、もう我慢が出来なくなってしまいました。天気予報を念入りにチェックし、午後からは豪雨がやってきそうもないことを確かめると、いそいそと車を走らせてしまっていたのです。この日は久しぶりに県南部の、とある薮沢に向かいました。車で1時間少々の距離にあるこの沢も、最近は釣り人の増加でさっぱりで、3年ぶりの訪問でした。
この小さな沢ですが、ご覧の様に木の枝がトンネル状になっていて、餌釣り師にはとても辛いのです。春先には水量もほどほどにあって、木の枝の隙間から餌釣りでも釣れるのですが、夏になって鬱蒼と枝が伸びてくると、水量も激減して、誰も見向きもしなくなる様な沢になってしまいます。しかしそんな場所こそが雨の降ったときの狙い目となります。道路脇の沢のため豪雨でも安心ですし、加えて藪の中は普段は平安の場所なのか魚たちはスレていません。濁って見通しの悪いのを良いことに、上流からミノーを数mほど流し込んで誘ってやると、ご覧の様な結構な良型のヤマメが次々とヒットしてきました。濁っていなければ人影を見破られてしまい、まったく釣りにならないところですが、こんな時ばかりは雨に感謝となる訳です。
【8月30日】 そして、その翌週もまた大雨でした。この日も中部地方で大きな被害と死者まで出たとの報道が、TVを賑わせていました。山形県内でも朝から手の付けられない様な豪雨があり、川はどこも濁流と化してしまいました。ただ、午後からはやはり晴れ間も見え、一旦は秋雨前線が南下してくれた様子。本当はこの日、とある源流に入りたかったのですが、豪雨の予想はせいぜい2〜3時間先までしか確度が高くなく、ピンポイントの場所での丸1日の雨の状況を見極めることは殆ど不可能です。泣く泣くあきらめた私は、またまた標高の高い道路沿いの源流部へチョイ釣りに入りました。
お昼頃に自宅を出発していますが、さすがに豪雨の直後とあって、最源流部に近い場所とは言え、写真上左の様にミルクコーヒーの様な泥濁りでした。しかし心配はいりません。ルアー釣りではこの程度の濁りでも平気で釣れてしまうものなのです。先に紹介した様に、ロッドの先50cmほどにミノーを垂らし、写真の小淵の岩陰や泡の脇などイワナの定位していそうな場所を通る様に、ゆっくりと小刻みな動きをさせながらミノーを流してやると、3回ほどロッドを往復させたところで、写真上中央の25cmほどのイワナがヒットしてきました。岩陰に隠れているイワナからはこの濁りで人影が殆ど見えないため、こんな釣りが可能な訳です。普段は釣り人が沢山入っていて見向きもしてくれないイワナも、豪雨のあとはお腹もペコペコでウブになってしまう様です。
ほんの1時間ほど道路脇のチョイ釣りを楽しんだ後は、なんとなく付近の釣れそうな渓を探索していましたが、偶然にも写真上中央の巨大な堰堤を発見。後方へ回り込んで見ると、穴がまだ下のほうしか詰まっておらず、完成してまだ間も無い様子。それでも付近の木々の枯れ具合から、春には深さ2〜3m・長さにして200m程度のプールが存在していたことが伺えました。問題はこの渓にどれほどの魚が生息しているかですが、それは翌日に確かめることにして、とりあえず堰堤の下を釣ってみることに・・・、20cm前後のチビイワナではありましたが、何尾かの魚影が確認でき、この堰堤上のプールでの釣りも可能かも知れないと思えました。
【8月31日】 そして翌日はその大堰堤の源流部を探索しています。この渓は、途中はゴルジュ帯で道路も無く入渓はほとんど不可能ですが、幸いにも上流部には道路が付けられていて、最源流部へは容易に入れます。この日は小雨模様ではありましたが、ネットでレーダー画面をチェックすると、暫くはもう強い雨の来ることは無さそうであり、またまた道路脇の疑似源流釣りを楽しむことにしました。この釣り場も入渓が簡単な分、相当な数の釣り人が入っている様子であり、30分ほど釣り上がりましたが、釣れてくるイワナは20cm足らずのチビばかり。ただ、魚影はかなり濃く、この地の釣り人たちがリリースサイズを厳格に守っていてくれる様子が見て取れました。
通りがかりの人に伺ったところ、道路が付いているとは言え、この辺りは標高がかなり高いらしく、この沢の魚止めの滝は車止めからしばらくの所に有るらしいのです。小さいながらも魚たちは今、産卵の時期を控えていて遡上中であり、魚止の滝の近くに数多くのイワナたちが集まっている様子でした。ただ、大物は最源流部の流れでは餌が足らないためか、中流部の大きな淵などにも多く生息し産卵活動をしているものと想像しています。恐らく件の大堰堤上のプールには、早春に多くのそういった大物が流下してくるだろうことが想像でき、来春以降のその堰堤プールでの釣りが大いに期待できるだろうことを確信しました。
さて、この日の夕方は大きく移動し、かねてより狙いを付けていた、とある堰堤の下へと入渓しました。この釣り場は実はこの時期必ず訪れる場所なのですが、毎週末の大雨で濁流と化していて、入渓したくても立ち入る事が不可能だったのです。堰堤には工事のための道路が廃道となって残っていて、豪雨が来てもいつでも逃げることができます。そして、この堰堤は下流部に長いゴルジュ帯を擁していて入渓が難しく、比較的魚影が保たれているのです。この時期、魚たちは産卵のために遡上しますが、途中にこの様な堰堤があると、そこが魚止めとなり、堰堤下の狭い範囲に多くの魚たちが集結することになるのです。そのため、8月中旬を過ぎるころからは、こういった人口の魚止の下を釣るのがひとつの定石となるということは、皆さんも良くご存じでしょう。
そして、お盆の後半からは豪雨でこの堰堤下には殆ど誰も入渓していないハズであり、雨後の適度な濁りも手伝って、この釣り場は正にパラダイスでした。釣り場に到着した時間が遅く、あたりは薄暗くなっていて30分ほどしかロッドを振れませんでしたが、31cmを頭に8尾の獲物が入れ食い状態でヒットしてくれました。今年も禁漁まで残すところ1ヵ月足らずとなってしまいましたが、源流の魚止めの滝を目指すも良し、中流部の人口の魚止の下を釣り歩くも良し、いずれにせよイワナ達の多く集まる場所を見極めて釣れば、まだまだ楽しい釣りが可能の様です。あと1ヶ月足らずを、存分に楽しんでみたいと思っています。
【今回使用のタックル】 Wellner 8ft TroutRod、Shimano SensiLite MG2500、Kureha SeagerAce1号(6lb)、D-contact50S鮎/TS、他 |