今年の南東北は、カラ梅雨でした。とにかく雨が少なく、渓はどこも渇水状態が続き、峪師たちを嘆かせました。この時期、私はもっぱら堰堤プールのルアーフィッシングを楽しんでいますが、カラ梅雨の影響は堰堤プールに生息するイワナたちにも色濃く表れていた様です。今年1度も豪雨の無かった6月〜7月、魚たちは一体どんな行動を取っているのでしょうか? そんなナゾを解きたい目的もあって、とある堰堤プールに通い続けました。そこには思いがけない釣果が待ち受けていました。 (本レポートに掲載の野草花は、7月21日「月山」登山時に撮影した高山植物です。本レポートの内容とは直接の関係はありません。)
【7月5日】 今年の南東北は、例年にないカラ梅雨で、特に山形県内では平年の降水量の50%以下の観測地点がかなり多くみられました。これは過去にもあまり例を見ないほどの少雨だった様です。とにかく雨が少なく、渓はどこも渇水状態が続き、6月の雪代消失を待ちわびていた釣り師たちをガッカリさせました。早春の低水温の雪代が源流部からイワナたちを下流部へと運び、梅雨の豪雨による増水がイワナたちを再び源流部へと遡上させると考えていますが、この考えが正しければ堰堤プールの釣りは例年以上に長く楽しめるハズではないか? この考えが、今シーズン同じ堰堤プールへと何度も足を運ばせるきっかけとなりました。
この堰堤プールへは昨年から通い始め、超大型は出ないものの数釣りの楽しめる堰堤プールとして、既に何度も楽しませて頂いています。ただ、昨年は6月30日に県内全域で豪雨があり、その直後に魚影が極端に薄くなり、急に釣れなくなった記憶があります。増水が一気にイワナたちを源流部へと遡上させたのでしょう。そして、今年も6月に訪れていますが、昨年同様に45cm程度までの中型のイワナの数釣りを楽しませて頂きました。今年も6月29日にちょっとした雨が降りましたが、県内では20〜30mm程度と大したことはなく、残念ながら、増水と言えるほどの水量にはなりませんでした。
7月に入ってもまとまった雨は降らず、この日7月5日は早や真夏の陽気でした。前日に少し雨が降っていたため、透明度はいつもになく高く、少々手こずらされましたが、それでも39cmを最大に尺上7尾の釣果。やや魚影は薄くなっているものの、6月中旬と比べてそれほど極端な変化ではありませんでした。堰堤プール上流部の満水線までの区間の渓も試し釣りしていますが、尺オーバーの斑点の大きなイワナが数尾釣れていて、魚たちの源流部への遡上がまだそれほど起きていない様子でした。この日は翌日に天童市の「かのかの虫」さんが来られるかもしれないと言うことで、魚をあまりスレさせない様にと、10尾で釣りを止めています。
【7月6日】 翌日は残念ながら「かのかの虫」さんがお見えにならなかったため、この日も結局、私一人の単独釣行となってしまいました。こういった堰堤プールでは、魚たちは泥底に涌く水生昆虫やミミズの類を餌にしているため、案外早朝には魚が動いておらず、日の高くなり水温の上昇したころから活性が上がることが多いものです。そのため、私一人でもあったため、のんびりと10時ころからの入渓でした。ただ、この日は更に透明度が上がりプール底が丸見えの状態で、しかも水位もやや下がっていて、非常に釣り辛い状況でした。最初はイワナが追いかけてくるものの、全くヒットなし。しかしこういった状況下でも、釣り方はちゃんとあるものです。
それは、以前にも何度か紹介した、緑のマジックインキを使った方法です。写真上中央の様にDコンタクト50Sを緑のマジックで塗りつぶしたものを遠投し、底ギリギリを非常にゆっくりとした、しかしトリッキーな動きでトレースすることで、釣果を上げることができるのです。こんな方法で昼過ぎまで粘り、なんとか40cmを頭に35cmオーバー4尾をゲットできました。午後からはちょっとした夕立ちがあり透明度が下がってくれたため、その後は普通のDコンを使って入れ食いを楽しめ、この日の釣果は結局、最大40cm2尾、以下39,39,39,38,36,32cm、全部で15尾となってくれました。
【7月19日】 二週間開けて翌々週の土曜は、完全に真夏の陽気でアブも発生していました。幾らなんでももう釣れないだろうと思いながらも、気が付けば前回と同じ堰堤プールに車を走らせていました。既に釣果などどうでも良くなっていましたが、このプールが完全に釣れなくなる状態を見届けないと気が済まなくなっていたのです。現場に到着するとプールの水位は最低レベル、面積も1/4程度となっていました。ぬかるんで歩けないためフローターを浮かべましたが、一番深いところでも足ヒレが泥底に当たるくらいの浅さしかなく、もう堰堤プールとは呼べない状態でした。
おまけに水位低下とともにインレットの泥が巻き上げられ、透明度は50cm程度の泥水状態であり、異臭までする有り様でした。こんな状況下で魚は生息しているのでしょうか? しかし、釣り始めてすぐに結果は出てくれました。水深50cmほどの泥濁りの中にミノーを遠投すると、着水してすぐにラインが引き込まれ、まずは35cmの良型がヒット。その後もポツリポツリとヒットがあり、5尾目で写真上の42cmが飛び出してきたのです。これには驚きました。こんな悪条件の中で、なぜ彼らはプールに止まり続けているのでしょう。もっと生息環境の良い源流部がすぐ上流にあるのに、こんなヘドロの中で棲み続けているのは、全く理解ができません。
例年であれば7月の中旬を過ぎると多くの堰堤プールが干上がり始め、ほとんど釣れなくなってしまいます。しかし今年はこの時期になっても魚影が残っていて、どうやら当初の予想は大幅には間違っていなかった様です。今年の梅雨は雨が少なく増水が無かったため、彼らの遡上の機会が阻害されてしまい、泥の様なプールにも関わらず、大物たちがいつまでも残っていたと考えられるのです。ただ、この日朝から源流部へ入っていたルアーマンに話を聞いたところ、40cmオーバーのイワナが堰堤プールの上流数kmのところでも何尾かヒットしていたとのこと。全てのイワナがプールに止まっていた訳ではなく、一部のイワナたちにその変化が起きていた様です。
【7月20日】 翌日も懲りずに私はこの堰堤プールに向かっています。しかし現場に到着して非常に驚かされました。写真下の様に、たった一夜にしてプールが干上がってしまっていたのです。どうやら金曜に降った雨で土曜にプールが一時的に復活していただけで、その更に数日前にもプールは干上がっていたのではないかということが、プール底の地形の変化から伺えました。それにも関わらず、前日は結構な釣果が見られた訳であり、どうもプールが消失してしまっても、大物たちは付近に残っていた様なのです。見ると確かに周辺には非常に浅い濁った水溜まりがあちこちにあり、そんなところでイワナたちはじっと我慢をしていたのでしょうか。
ただ、こんな風に干上がってしまっては、フローターを浮かべることも不可能です。歩いて堰堤を横切ることもできそうな雰囲気ですが、実は底は非常に柔らかいヘドロが堆積していて、一歩足を踏み入れると底無し沼状態なのです。脇の浅い水溜まりにイワナたちが潜んでいるのではないかと想像できましたが、これでは手も足も出ません。どうやら今回のこの堰堤プールの釣りも、昨日が今年最後のチャンスだった様子。来年初夏までこの地を訪れることも無くなってしまった様です。でもま、今年も十分に楽しませて頂いたこの堰堤プールですので、心の中で深々と頭を下げ、釣り場を後にしました。
そして、今年最後の堰堤の釣りをのんびりと楽しもうと、午後からは大きく移動して、別の堰堤プールへ入渓しています。こちらのプールは堰堤の穴が完全に塞がっていて、決して水が枯れることはありません。しかも透明度は高く、また周囲が森に囲まれていて、フローターを浮かべていてもすこぶる気持ちが良いのです。ただ、上流の渓の水量がとても少なく、釣れるのは小物しかいないことも判っています。しかし今、私の心中には既に大物は無く、また来年堰堤プールのルアーフィッシングの季節がやってくるまでの、区切りの行事でしかありません。多くの堰堤プールで、来年もまた大物たちが迎えてくれることを期待しながら、最後の堰堤プールの釣り場を楽しませて頂きました。
【今回使用のタックル】 CreekCompany The Original U-Boat、Wellner 8ft TroutRod、Shimano SensiLite MG2500、 Kureha SeagerAce1号(6lb)、D-contact50S鮎/TS、他 |