今年も夏らしい夏がやってきました。雪不足から心配された夏の渇水もそれほどでもなく、飽きずに一人で源流部を釣り歩いています。釣りブームも遠く過ぎ去り、今年もどうやら釣り人の数はかなり少なく、逆に渓流・源流の魚影は十分に濃い様です。それほどキツくも無いちょっとした源流で、小型中心ではありますが、気持ちの良い釣果を上げることが出来ています。なお、本レポートに掲載した野草花の写真は、7月28日の月山登山時の高山植物です。夏本番の今、源流に山に、最もアウトドアの楽しい時期となりました。
【7月21日(土)】 今年の南東北は空梅雨ぎみではありますが、雨の日数は比較的多く、安定した多めの水量が保たれている様です。豪雨と呼べるのは6月末の1回だけで、峪が荒れることもありませんでした。8月に入り、気温の非常に高い状態が続いていますが、それでも時折の雨が大地を潤し、峪の水量はまずまずの様です。加えて、ここ数年はいわゆる釣りブームが姿を消し、源流や渓流での釣り人の数も激減したままの様です。山で釣り人に会う機会に反比例して魚影は豊富であり、本当に渓流釣りの好きな人には、至福の夏の様です。
このところ、堰堤プールとその源流部での釣果の関連に注目しています。以前にも同様の調査をした経験があり、「○○川釣行記(山形県渓流釣りフォーラム)」にまとめてはいますが、たった一箇所の堰堤の上流を見ただけであり、未だに良く判らないことが多いのも事実です。幾つかの堰堤プールとその上流を釣ることで、さまざまな新しい発見もあるのではないか? そんな気持ちで今夏は釣り歩いています。7月の21日は、昨年見つけた新しい堰堤プールのうちの一つの、数km上流部へ入りました。
この日は7〜8寸の源流育ちの特徴(=小斑点・オレンジ色・縦筋状のパーマーク)を持つイワナたちが、良く釣れてくれました。ここぞと言うポイントでは必ずと言って良いほど魚影が走るのですが、いかんせん、型はいまいちで大物が出てくれません。しかし、ちょっとした堰堤の下で1尾だけ、中型と呼べる個体(写真上)が釣れてくれました。この個体だけは源流育ちの特徴が無く、明らかに堰堤プールで育ったものの様でした。ただ、斑点は大きく顔つきも幼いのですが、腹部に近い部分の白斑点がややオレンジがかっていました。堰堤で育った魚も、流れの中で水棲昆虫などの餌を取り始めると、色だけは源流の特徴をかもし出し始める様です。
【7月22日(日)】 翌22日は、ラストチャンスの堰堤プールの釣りを試みています。梅雨明けを間近にした堰堤は、この時期どこも減水を始めています。プールは小さくなり、インレット部に溜まったヘドロが水位低下に伴って流れ出すため、透明度は極端に低く、ヘドロのいやな匂いも漂っていたりして、あまり楽しい釣りではありません。しかし最後の大物のチャンスでもあり、ついつい出かけてしまうのです。この日夕刻から入った堰堤は、やはり最近新しく見つけたものであり、盛期には、行けば中型が2桁以上の釣果を見ていました。
予想通りに大きく減水を始めていたプールですが、案外濁りもそれほどでもなく、釣り始めてすぐに31cmの、渓流ではなかなか釣れないサイズが簡単にヒットしてきました。これに気を良くしたものですが、しかし、あとが続かず、結局この日は36cmと30cmを追加して2時間半ほどで3尾のみの釣果。40cmオーバーが居てもおかしくない状況にも関わらず、ちょっと寂しい釣果となってしまいました。 私の最も頻繁に通っているホームの堰堤では、夏季にプールが干上がってほぼ消失してしまうため、堰堤プール内で1年を過ごす個体は殆ど居ないと考えています。そのため、釣れ上がってくる魚たちは、ごく小さなサイズを除けば、斑点の大きな白いイワナはあまり釣れません。中型以上のものは、ほぼ間違いなく源流育ちの特徴を備えています。
しかし、今回のこのプールで釣れる魚たちは、ほぼ全てが写真の様に斑点が白く大きく、腹部は真っ白です。この堰堤プールは真夏でも完全には干上がらない様であり、堰堤プール内で1年を過ごす個体が結構な数、存在する様に思えました。ホームの堰堤プールでは50cm近い源流育ちの特徴を持つ個体が時折釣れますが、逆にこういった、真夏でも完全に干上がらない堰堤プールでは、なぜか源流育ちの大物は姿を見せてくれません。競争の関係で源流部からの魚の排除などが有り得るのかも知れません。或いは、源流育ちは人や獲物に対してより狡猾であり、先に堰堤育ちのウブなイワナがヒットしてしまうのかも知れません。
【7月28日(土)】 既に堰堤プールの釣りは終了したと考え、翌週はぐっと趣きを変えて、小さな源流に入りました。源流と言うより沢と言った方が適切なくらいの小河川です。にも関わらず、下写真の様な巨大なスリット堰堤が道路から2kmほどの地点に立ちはだかっていました。山形県では環境に配慮して、数年前から堰堤にスリットを入れる工事をしています。また、新規に作られる堰堤は殆どが写真の様なスリット堰堤となっています。しかし、この堰堤を見てガッカリしました。スリットの最下部は川床から垂直に3m以上も高くなっていて、しかも魚道が無いのです。これでは魚の流下は有っても遡上は有り得ません。どこが環境に配慮していると言えるのでしょうね。
県内の多くのスリット化された堰堤も新規の物も、実は魚の行き来が殆ど期待できない様な形状に作られています。本来のスリット堰堤の目的からすれば、スリット最下面は川床と同じ高さにすべきかと思われるのですが、なぜか異様に高く設定されていたり、下部に高さ数mのボックス状のプールが作られていたりします。魚の事など全く配慮無しです。堰堤プールの釣りをする私自身も、堰堤のスリット化にはかねてより大賛成の立場を取っていますが、こういった配慮に欠けるスリット化には、全くの疑問を感じてしまわざるを得ません。渓と魚をめぐる環境は、今もさして変わってはいないのです。
ちなみに、このスリット堰堤の下流では写真の様な7〜9寸クラスの白っぽいイワナが数尾釣れ、最大は29cmとまずまずの結果でした。しかし、スリットを超えて奥に入ると、まるで釣れなくなってしまいました。20cmにも満たない小さなイワナが時折追いかけてくるだけで、殆ど魚影が無いのです。これは一体どういうことなのでしょう? 実はこのスリット堰堤の下流部にはもう一つ別の堰堤があり、小さなプールが残っているのですが、どうやらそのプールに温存されていた魚たちがスリット堰堤の下部までの間を行き来していただけ・・・の様に私には思えました。なんだかとても残念な気持ちでした。
【7月29日(日)】 さて、気温も急上昇し始めた29日は、やはり下流部に中型の堰堤プールを擁する、とある河川の源流部へ入渓しています。さすがに7月末ともなると、雪代は完全に消え去り、透明度は非常に高くなっていました。下流部の堰堤プールの少し上流部から釣り始めましたが、最初はまるで魚影が見えません。しかし、汗だくになりながら1kmほども釣り上がったあたりから、型は小さめではありましたが、急にイワナの姿が見える様になりました。いずれも源流育ちの特徴を持つ、オレンジ色の濃いイワナ達でした。堰堤プールのすぐ上流部は、釣り切られているのか、或いは遡上の関係からか、どうやらこの時期、魚影は薄い様です。
しかしそれにしても、この時期の源流は気持ちの良いものですね。曇空でしたが、気温は25℃を超えていて、ウェーダーを履いての歩きは汗だくです。アブやブヨはまだ少ないのですが、時折顔面を攻撃してきます。普通の人から見れば、まるで我慢大会の様な状況なのですが、それでも実際に峪を歩くと、文句無しに気持ちが良いのです。恐らく、人の進化の過程における数億年の間、こういった森の風景や空気の中に我々の祖先たちは佇んでいたのでしょう。そして森や川の成分が、我々の感じ得ない人の体の奥深い部分・・・それは恐らく遺伝子のレベルで、人に快適に感じさせる様に仕組まれているのではないか・・・。
昨今の問題となっているメタボリックシンドロームも、考えてみれば現代人だからこその病気でしょう。人は何億年もの歴史の中で、やはり原始の森・原野に暮らしながら、過酷な運動のもと、自らの手で獲物を採取し、常に空腹に晒されながら生きてきました。運動と空腹には実にうまく耐え得る方法を、遺伝子のレベルで身に付けてきた人という動物は、ある日突然、不動と満腹の世界に突入してしまったのです。それに耐え得るすべを知らないのは当たり前なのでしょう。そして、どれだけ科学技術が進歩しようと、人には森や川は不可欠なものであり、守っていかねばならぬものなのではないか・・・そんなことを考えながら、峪を歩き続けていました。
そして、2kmほども釣り上がったころ、一尾だけ、これまで釣れてきたイワナとは明らかに異なる個体が釣れ上がってきました。この峪でもやはり、下流部の堰堤プールからの魚が数キロ上流まで、遡上しているのは間違いありません。下流部の堰堤プールと言う擬似の海と、源流部の沢とは、紛れもなく彼らの世界では一体となって連続しています。防災の名のもとに乱造された堰堤群は、魚たちの産卵活動を強く阻害する働きを持つ一方で、実は彼らを非情な釣り人から守る役目をも、同時に持ち合わせている様にも思いました。
さて、8月に入って猛暑の続く日本列島ですが、今年もイワナたちにとって最も過酷な時期がやってきました。釣り人のみなさんは、このお盆の連休をどう過ごされるのでしょうか。堰堤の存在や山林開発による自然災害の巨大化で、源流のイワナ達は痛めつけられ続けています。せめて我々源流の釣り師たちだけでも、森と川、そしてイワナたちに、優しく接して行きたいものだと考えています。そんな思いを胸に、今年も峪を思い存分楽しんで頂きたいものだと、心から願って止みません。
【今回使用のタックル】 源流の釣り:KenCraft SuperTroutSpecial60LT(Telesco.PackRod)、Shimano SensiLite MG2500、Kureha SeagerAce1号(6lb)、D-contact50Sヤマメ/TS/緑、他 堰堤プールの釣り:Wellner 8ft TroutRod、Shimano SensiLite MG2500、Kureha SeagerAce1号(6lb)、D-contact50/63S/鮎/ヤマメ/TS/緑、SuperSinkingMinnow50S/緑、他 |