ダム湖や堰堤プールの大物が期待できないお盆明け以降のこの時期は、毎年、どうしても源流への釣行が多くなります。今年は初夏にかけて源流域での魚影が比較的濃かったため、桃源郷を期待して、渓遊会のメンバーと、とある源流の魚止めを目指しました。しかし、この8月後半は例年に無い高水温と渇水状態が続いています。峪では予想外の展開に四苦八苦するも、最後には桃源郷を垣間見ることができました。 (北海道遠征レポート(2)(3)は、後日の掲載となります。) 今年の夏も異常な気候だった様です。7月までは全国的にとても涼しく、冷夏になりそうな気配だったにも関わらず、8月に入ると逆に随分と暑い日が続きました。お盆を過ぎても残暑はきつく、9月初まで真夏の様な気候が続きました。この様な年はどこへ行っても、高水温・高透明度・渇水、それにアブの猛攻に苦しめられる羽目になってしまいます。お盆休みは北海道で乗り切りましたが、翌週は結局釣りには行かずじまい。それでも、9月に入ると釣りの虫が騒ぎ出し、渓遊会の会長さんからの電話に2つ返事でOKを出してしまいました。
メンバーはいつもの渡邊会長に佐谷名人、それに私K++の3人です。もう一人のメンバーの福島のS氏は、春ころから酷い腰痛に悩まされていて、今季は断念状態のまま。ちょっと残念です。会長さんの話では、今回の釣り場は、なんでも20年ほど前に入渓したことのある懐かしの峪だとかで、当時はイワナの入れ食いで、正に桃源郷の様な峪だったとか。今年は初夏にかけて源流の魚影が濃い状態が続いていたため、まぁ、なんとか釣りにはなるだろうと、話半分に聞いて集合場所に向かいました。9月1日夕方、集合場所の車止めに到着すると、見知らぬ登山客の人とも仲良くなって、ひとしきり明日の峪への期待が膨らみます。 翌朝は珍しく5時キッカリに歩き出しました。既にアブのピークは過ぎていて少な目で、渓は歩くにはちょうど良い水量と水温です。早朝の澄んだ空気が気持ち良い中、遡行を開始しました。20年前は2時間ほどの仙道が有り、魚止めの手前2時間ほどの距離まで一気に移動できたらしいのですが、残念ながら今回は道が崩れて無くなっている様子。仙道は1時間ほどで終わり、途中から河原を遡行し始めたのですが、はて、渓を渡っていても何だか変なのです。・・・魚影の豊富な渓であれば、足元から逃げるイワナの陰が走るものなのですが、静か過ぎるのです。
車止めから3時間も歩いたところで、会長さんから小さな魚影の走るのが見えたとの声。そろそろロッドを出してもよいかと試し釣りをしますが、暫くは魚は現れず、倒木で出来たちょっとした滝の下で、15cm程のチビイワナがルアーを追いかけてくるのが見えました。そして更に10分ほど歩いたところの小さな淵で、やっとの思いで釣ったイワナが写真下右の18cmでした。普通、4時間近くも歩けば桃源郷とは行かないまでも、魚影はそれなりに豊富になり普通に釣れるものですが、はて・・・この奥にははたして桃源郷はあるんでしょうか?
佐谷名人はと言うと、本流では何も釣れないとみて、小沢の入り口付近にある魚止めになった小さな滝の下を攻めています。この峪は小さな沢が何本も入っていて、そんなポイントが次から次へと現れます。幾つかの沢を餌釣りで攻め、見事に28cmほどのイワナを仕留めていました。それを見た我が会長さんも餌で攻めますが、見えているイワナがちっとも餌に喰い付いてくれません。業を煮やして最後はご覧の様に岩の下に手を突っ込んで、手掴みを始めてしまいました。・・・しかしいるもんですね、殆ど水の流れの無いような滝の下なのですが、写真下の様にイワナが何尾も入っていました。
この時点で既に時間は9時半を回っています。歩き始めて4時間半、魚止めの大きな滝まではあと1〜2kmまでの距離に来ています。峪はやや険しさを増し、飯豊・朝日山系特有の非常に美しい渓相が続きます。イワナはさして釣れませんが、お天気も非常に良く、気分は最高です。流れが細くなってルアーでは少々きつくなってきたため、もっぱら会長と佐谷名人が餌で攻めていますが、釣れてくるイワナはどれも小ぶりの20cmくらいまで。それでも飽きない程度には釣れ始め、ようやく源流釣りの雰囲気が漂ってきます。・・・それにしてもここまで5時間近く・・・沢山のイワナ達はどこへ行ってしまったのでしょうね。
歩き始めて既に6時間近くが経過した11時前、小さな滝の下で尺クラスを含む複数のイワナが走るのが見え始めました。どうやら魚止滝が近い様です。しかし魚たちは餌にもルアーにもさっぱり反応が鈍く、たまに釣れるのは小魚ばかり。どうやら高水温と渇水で、魚は居るのですが、ベイトに反応しない様なのです。しかも高透明度で、遠くから釣り人が丸見えの様子。思えば長い間雨が降っていません。魚たちも岩陰で雨による餌の流れてくるのを、暑い中でジッと耐えて待っているのかもしれません。
そうこうするうちに、とうとう魚止めの滝に到着してしまいました。時間は11時10分。歩き始めて6時間以上です。滝壺は直径30mほどもある立派なプールとなっていて、強い太陽の日差しでエメラルドグリーンに輝いています。深さも3mくらいは有りそうで、如何にも大物が潜んでいそうです。さて、ルアーを投げて探ってみるか・・・と思っていたら、いつのまにやら会長さんが餌竿を置いてルアー竿に代えています。またまたやられてしまいました。こう言う場面では一番に投げたルアーに一番の大物が来るものです。あっと言う間に先に釣られてしまい、本日の一番の大物は会長さんの手に・・・。いつもこのパターンですなぁ。
1尾釣られてしまったらもうおしまいかと、ガックリとしてしまいましたが、ここで意外なことがおきました。晴天の非常に明るい太陽下で、しかも高透明度の条件下では、1〜2尾釣ると魚がいてもあとはサッパリ釣れなくなるのが普通です。しかし、この滝壺は違いました。ほんの15分ほどの間でしたが、会長さんと私のルアーに20〜25cmほどの小ぶりではありますが、イワナが次々とヒットし続け、あっと言う間に10尾ほどのイワナが釣れてしまいました(写真下)。
この滝壺には大小の沢山の石が沈んでいる上に、プール脇は複雑に入り組んだ形をした岩盤で出来上がっています。恐らく下流側に立つ釣り人の姿が見えない様な石や岩の陰に、想像以上の沢山のイワナ達が隠れていて、そういったイワナが次々とミノーを見つけては喰い付いてきたのではないかと思われます。つまり、この滝壺には釣れた10尾だけではなく、恐らくその数倍の数のイワナ達が棲み付いていたのではないかと思われました。高水温の影響で想像以上に早い時期からイワナ達は遡上を開始し、この滝壺に集結していたのでしょう。そうです、ここは「最後の桃源郷」でした。(・・・「最後に桃源郷」の方が正しかったかも知れませんが・・・)
本当を言うと、この日は源流部でキャンプをして、沢山ある沢を次々に攻めようか・・・と言った話もあったのですが、しかしこの状況では翌日曜朝もほとんど期待は出来ません。その後、もう一本の大きめの沢を途中まで攻めてはみましたが、やはり魚止め滝付近まで行かないと魚たちは出てきてくれそうも無く、結局、この沢では1尾のイワナも釣り上げることはできませんでした。この時点で時間はもう1時を回っていて、仕方なく下山することになりました。
帰り道は、ご覧の様な時折現れる非常に明るいブナ林の中を、早足で駆け下りてきました。結局、この日は朝5時から夕方5時まで、12時間にわたってほとんど歩きづめでしたが、私のロッドに来たイワナは滝壷の5尾とその下流部の2尾だけ。こんなに疲れたのは久しぶりでしたが、それでも源流の風景や空気は何物にも代え難く、十分に満足して釣り場を後にしました。この日は余りの疲れにそのまま帰路に着く元気がなく、3人で車止め付近でそのままキャンプになってしまいました。桃源郷で釣り上げたイワナ3尾を有り難くご馳走になりました。
【今回使用のタックル】 KenCraft SuperTroutSpecial60LT(Telesco.PackRod)、シマノSensiLiteMG2500、 呉羽シーガーエース1号(6lb)、Wavy50Sヤマメ、D-contact50Sアユ/ヤマメ/TS、他 |