クラブ釣行レポート

天上の楽園(8月27・28日)


仕事に忙しく、夏の1ヶ月はほとんど活動できなかった私ですが、一息ついた8月の末になって、渓遊会の渡辺会長と2人で、登山を兼ねて釣りに出かけました。どちらかと言うと登山がメインの源流行でしたが、2時間以上も歩くとそこには大物こそ釣れないものの、驚く様な魚影の濃い源流部が広がっていました。そして、やがて頂上近くまで登り詰めると、そこには雄大な山岳の景色と素晴らしいお花畑、それに渓魚の釣れる美しい沼が有りました。そこはまさに天上の楽園でした。

注:場所の特定を防ぐため、風景画像の一部に大幅な修正を加えるか同イメージの別の写真を使用しています。


このところ仕事が非常に忙しい私ですが、8月のお盆明けにちょっとした大仕事が入っていたため、この1ヶ月ほどはほとんど釣りに出かける機会がありませんでした。お盆休みも半ば返上の形でしたが、近くの渓流に出かけたもののアブの猛攻に会い、短時間で退散させられてしまう有様でした。お盆明けの大仕事が一段落した8月末の土日に、渓遊会の会長さんから「登山もできて釣りもできるところが有るけど、行かない?」と有り難いお誘いがあり、二つ返事でOKを出してしまいました。


渡辺会長はこの4月から岩手県に転勤になり、彼は早速、県内の渓流や山を探索していた様です。最初は登山目的で行ったらしいのですが、地元の人から情報を得て、高層湿原の沼で渓流魚が狙えるらしいことを突き止めた様です。調査したところ、途中にある源流部は漁業権が存在していてもちろん遊漁券が必要ですが、高層湿原の沼には漁業権が存在しないため、誰が釣っても良いとのこと。ただ、高層湿原には自然保護区が設定されている区域があり、その場合には「原生の動植物を採取・捕獲・虐待してはならない」ゆえの法的規制があります。しかしながら今回の沼は実は地元の人により渓流魚が放流されているものであり、釣りは可能とのことでした。

ヤマトリカブト チョウジギク タケシマランの液果

26日金曜の夜遅く登山口の駐車場に到着した我々は、仮眠を取って翌朝に備えました。山小屋か途中の源流部のどこかで1泊する予定だったため、登山口からは重いザックを担いで2時間あまりの登山道を歩かなければなりません。しかし8月の末ともなると心地よい秋風が吹き始めていて、それほどキツク無い登山道はむしろ快適でした。のんびりと登山道を歩くと、雑木林からやがてブナ林に変わり、清々しい気分に包まれます。私はとりわけブナの林が大好きで、良く壁紙にも取り上げているのはそのためです。ブナ林を歩くと日ごろの仕事の忙しさが、知らず知らずのうちに薄らいでゆきます。


2時間あまり歩くと、やがて写真の様な小さな源流が現れました。あまりにも小さな源流のため、ルアーを投げてみましたが、これがなかなか釣れてくれません。ルアーをトレースしてくる魚影はもの凄く濃いのですが、いかんせん、魚体が小さすぎて、ルアーに喰い付くまでには至らないのです。やはり大物は大きな川にいる様で、ここまで登り詰めてしまうと、生まれたばかりの小物ばかりになってしまう様です。そこで会長が餌釣りで試してみると、釣れるわ釣れるわ、ポイントごとに必ず小さなイワナが喰い付いてきます。


私にもルアーで釣果はあったものの、ご覧の様なおちびちゃんばかりで、よくぞ5cmもあるWavyを咥えられたものだと感心させられてしまいました。それにしても、ルアーを投げるたびにおちびちゃんたちがゾロゾロと追いかけてくる様は、なんとも言えない微笑ましさが有って、ちっとも釣れてはくれませんでしたが結構楽しめました。なにせルアーをちょっとしたポイントに送り込むと、必ずと言って良いほど、小さな陰が走るのです。それも腹部の赤いみごとな居付きのイワナ達ばかりなのです。

ウメバチソウ オニシオガマ ツバメオモトの液果

釣りはもっぱら渡辺会長の餌釣りに任せて、私は途中から姿を見せ始めていた高山植物の写真撮影に没頭しはじめていました。まだ源流がすぐ横に流れているのですが、この辺りは噴火口跡が多いらしく、ところどころに窪地があってちょっとした湿原になっています。そんなところに必ずと言って良いほど、ウメバチソウやオニシオガマなどの比較的低山にも生える高山植物が次々と姿を現します。しかしこの山は花が見事でした。もう8月の下旬ともなると、月山や蔵王山の高山植物は殆どが終わっていて、枯れた実ばかりが目立つのですが、この山の高山植物は、この時期でも赤・ピンク・紫・黄・白など、様々な色を湿原に散りばめてくれていました。


そしてやがて森林限界を超えるあたりまで登ってくると、これまでの左右を覆っていた唐松林は姿を消し、高層の広々とした草原地帯が突然姿を現します。会長は相変わらず餌釣りで頑張っていましたが、この源流は森林限界を超えてもなおイワナが生息している様で、ちょうど唐松林が消え草原地帯に変化するあたりにあったポイントでも、ご覧の様な実に綺麗なイワナが釣れています。途中に堰堤などの人工の邪魔物が無ければ、イワナ達はこんな標高の高いところまで、実に逞しい生命力を見せてくれるものなのですね。

ソバナ ツリガネニンジン ツルリンドウ

草原地帯に入るとさすがの会長さんも釣りをあきらめた様子で、今回のもう一つの目的である沼地へと歩を急がせます。途中の源流脇でもそうでしたが、このあたりは造山運動のまだ激しいころ、山腹のあちらこちらから小さな沢山の火山の噴火が有ったのでしょうか、高層の草原の中にも幾つかの窪地と沼が散らばっていました。辺りは高山植物の実に美しい花々が咲き乱れ、周辺の山岳の雄大な景色とあいまって、ただ眺めているだけでも幸せな気分になってしまいます。加えて、付近の沼の幾つかには渓流魚が放流されていて釣りも楽しめるとなると、これは正に「天上の楽園」そのものでした。


そして二人して早速釣り始めましたが、ここで又しても会長さんにやられてしまいました。渓流魚が釣れると言っても、高層湿原の沼ゆえに透明度が一般の湖などとは比べ物にならないほど異常に高く、ルアーを数投すると沼の隅々にいる魚たちに覚えられてしまう様なのです。そのため、釣れるのは最初のほんの数投だけであり、あとはサッパリ釣れなくなってしまいます。そうです、一番良いポイントを会長さんにサッサと釣られてしまったのです。ただ会長さんに釣れてきたのは写真上の40cmのヒレピンのニジマスと33cmのイワナだけで、他は下の源流部で釣れていたのと変わらないおちびちゃんでした。

ヤマハハコ タテヤマウツボグサ ミズギク

結局この沼で私に釣れてくれたのは、写真上の23cmほどのイワナと18cmほどのヤマメだけ。これには参りました。なにせ汗だくで3時間も山道を登ってきて、釣れるのは最初の10分だけなのです。失楽園しそうでした・・・。

そして、釣れた魚たちを見て思ったのですが、ニジマスとヤマメは当然誰かによって放流されたものであることは間違いありません。イワナも下の源流部で釣れた頭部に殆ど斑点の無いものとは異なり、目の中間部あたりまで斑点のあるどうみても異種の放流の様にしか見えませんでした。つまり誰かによって魚が放たれるまでは、これらの沼地には渓魚は生息していなかったのではないかと思われました。今回我々はその放流魚によって楽しませて頂いた訳であり決して大きなことは言えませんが、本来は魚のいないこの様なところに、外来のニジマスも含めた魚たちを勝手に放流して良いものなのでしょうか。少々、複雑な気分にさせられました。

ハクサンフウロ ダイモンジソウ

さて、釣りのほうはこの様なオマケ付のお話でしたが、それでも付近の雄大な景色や高山植物のお花畑の美しさにはなんら変わりなく、その後は山や花の写真撮影に没頭していまいました。草原には心地よい秋風が吹き抜け、3時間あまりの登山の疲れを吹き飛ばしてくれます。美しい自然にただ囲まれるだけで人は十分に幸せになれる様ですね。なんとも言えぬ幸せな気分に浸りながら、楽園を跡にしました。

アキノキリンソウ トウゲブキ ウゴアザミ

【今回使用のタックル】
KenCraft SuperTroutSpecial60LT(Telesco.PackRod)、シマノSensiLiteMG2500、呉羽シーガーエース1号(6lb)、Wavy50S/65S/ヤマメ、D-contact50Sヤマメ、他