単独釣行レポート

最終釣行は一人気ままに(9月28日)


毎年、そのシーズンの最後はたった一人でのんびりと渓魚たちにお別れを告げに出かけることにしています。最終釣行はもう釣果などどうでもよく、だただた去り行く季節を惜しむばかりなのです。禁漁間際の渓の混雑を避けようと、と或るゴルジュ帯にフローターを一人浮かべ、誰にも邪魔されずに気ままに思う存分にロッドを振ってきました。禁漁間近のこの時期だけに許されたそんな貴重な時間を、今年も楽しんできました。

注:場所の特定を防ぐため、風景画像の一部に大幅な修正を加えるか同イメージの別の写真を使用しています。


禁漁も間近となった9月末のこの時期は、既に高い山肌はサビ色に染まり始め、今年のシーズンの終わりをその風の香りとともに告げていました。例年、この時期の渓流釣りは、寂しさばかりが募ってしまい、もう釣果など気にする余裕もありません。意に反した禁漁間際の渓流の混雑を避けようと、どうしてもこの時期は、誰にも邪魔をされない釣りを選んでしまいます。今年も最後の締めくくりは、某ゴルジュ帯にたった一人でフローターを漕ぎ出すことになってしまいました。


この渓流は過去にも何度か訪れたことはあるのですが、フローターを浮かべてのんびりと釣りを楽しめるのは、実は禁漁間際のこの時期だけに許された貴重な時間なのです。豪雪の東北地方日本海側では、春は深い雪に閉ざされ立ち入ることもできません。やがて煌く陽春の季節には、その轟々と流れる雪解け水が、人を川面にすら近づけることはありません。そして夏の渇水期は、アブや蚊などの攻撃にさらされ落ち着かないだけでなく、いつやってくるか判らない夕立の増水に、フローターを浮かべることなど自殺行為にしかなりません。

ススキ ニガナ ダイモンジソウ

そのため、秋雨が落ち着きを見せ始めた9月の後半のほんの1〜2週間だけが、水量も落ち着き、増水の危険も殆ど無い、唯一のフローターでのゴルジュ帯遡行の時期となり得ます。ちょうど季節は禁漁間近となり、普通の渓流には釣り師たちが俄かに溢れ出します。一人静かに渓魚たちにお別れを告げるには、このフローターのゴルジュ帯遡行は、正にうってつけなのです。水はジンクリアに透明度が高く、大した釣果は望むべくもありませんが、この釣りには、この時期ならではの魅力があります。


この渓は数Kmに及ぶ長大なゴルジュ帯を擁していて、その何箇所かは普通には人が立ち入れない様です。釣り場へ降り立つことのできる道は数箇所しかありませんが、今回はその最も下流側から入渓することにしました。まずは普通に岸からルアーを投げ始めますが、予想通りに魚影は全く見られません。入渓地点付近は普段から相当な釣り人に攻められ続けていて、この時期には既に釣り切られてしまっている様子でした。川面には秋空から零れ落ちた日の光が眩しく(下写真)、魚影は無くても心はなごみます。


緩い流れの中にフローターを漕ぎ出すと、クリアな水は人の立ち込むことの出来ない程の深い淵の底にある岩や石ころを、手に取る様に映し出してくれます。波の無いところでゆっくりと足ヒレを漕いでいると、まるで空中を浮遊しているかの様です。多少不謹慎ではありますが、フローターを漕ぎ出すときには必ず缶ビールをそのポケットに忍ばせていて、昼間からチビリチビリと楽しんでいます。ほろ酔いとゆったりとした波が、あたかも自らが宇宙遊泳でもしているかの様な錯覚に陥らせてくれます。


こんな風に大きな淵を一つ超え、2つ目の小さな淵でルアーを投げると、やがて写真の様な小さなイワナが姿を現し始めました。岸から無理をすれば入渓できなくはないのでしょう、近くの木の枝には釣り糸と鉤が引っ掛かっていましたが、やはりそう簡単には入渓できない分、魚はまだ残っていてくれる様でした。3つ目の淵でも同サイズのイワナが4回ほどトレースしてくるのが見え、そのうちの2尾がなんの抵抗もなくルアーを咥えてくれました。ジンクリアな条件でも釣り人の少ない所では、初心なイワナたちがお相手をしてくれます。

ノコンギク アキノキリンソウ アザミとこがね虫

淵から淵への移動は毎回、足ヒレを外しフローターを担いで歩かなければなりませんが、ボートとは違ってU型の軽いフローターなら苦にもなりません。やがて4つ目の淵尻の岸からルアーを投げると、やおら大きな魚影が見えましたが、残念ながらこんなにも丸見えの状況ではヒットはしてくれません。それでも仕方なく、フローターを静かに漕ぎ出し、淵の奥へとSSミノーを大遠投すると、この日一番の31cm(上写真)がようやくヒット。餌が豊富なのか、まるで堰堤のイワナの様に丸々と太っていました。やはり居るところには居るようです。


しかしこの大きな淵を超えると、どこかに降り口があるのでしょうか、やがて砂地に真新しい足跡が見えてきました。次の淵でも小さなイワナをヒットしたものの、その後は魚影がまた消えてしまったのです。良く見ると、河原の大きな石の上から、なにやらハシゴの様なものが掛かっていて、道路からは遥か深い谷底なのですが、やはり釣り人が頻繁に入っている様子でした。どうやらこういった渓では、イワナたちはその場をあまり動かないのか、人の入れない場所に限って魚影が保たれている様でした。

オトギリソウ ゲンノショウコ(神輿草) ママコノシリヌグイ

その後も幾つかの淵を越して釣り上がりましたが、釣れたのはごく小さなイワナが1尾だけ。先ほどの入渓点からはなぜか急に浅くなってしまった様子で、岸沿いにヘツリながら遡行が可能なのかも知れません。それでも前後には全く釣り人は見当たらず、たった一人で深い峪を歩いていると、周りの草花や木々の風のざわめきが気持ちよく、釣果などもうどうでも良くなってしまいました。帰り道は下流へそのまま流されて戻るだけであり、釣り上がる時の数分の一の時間と手間で、あっという間に最初の入渓点に戻ってしまいました。

カメバヒキオコシ ゲンノショウコの紅葉した果実 リンドウ

こうやって今年も無事、渓魚たちに最後のお別れを告げることが出来ました。納竿の夕暮れ時に気が付くと、山の季節はもうすっかり秋の気配。辺りにはヒキオコシなどの秋特有のシソ科の植物の香りが立ち込め、川面の草花たちも、やがて来るであろう白い季節に向けて準備に余念の無い様子でした。

【今回使用のタックル】

Wellner8ftTroutRod、シマノBioMasterXT2000、呉羽シーガーエース1号(6lb)、Zaurus SuperSinkingMinnow50アユ/ハヤ/ヤマメ、Wavy50ヤマメ/イワシ、D-contact50Sヤマメ/ハヤ、スプーン各種、CreekCompanyUBoatU(2.5kg)、他