毎年、シーズンの最後の釣行は、できるだけ人を避け、のんびりと渓魚たちにお別れを告げに渓に入ることにしています。とある情報から、今年はちょっと趣向を変え、新潟県まで遠征してみました。この時期は、去り行く季節を惜しみ、景色や山の空気を楽しみに行くのが目的で、釣果などもうどうでも良いのです。しかし、なぜか今年は最後の最後に今年一番の大物が全く予期しない状況下で釣れてしまいました。有終の美を飾ってくれたのは、渓流育ちの47cmもある大イワナでした。 【9月28日(土)】 渓流釣り師にとっては、シーズン最後の土日には特別の意味があります。普通なら金曜からの夜討ち朝駆けなどする元気も無いのですが、この日は金曜夜から移動し、土曜の朝一番でとりあえず実績のある堰堤プールに入りました。最終釣行は、とにかくのんびりと一人で釣りたいのです。この堰堤プールは、盛期には沢山のルアーマンで賑わうのですが、さすがに9月にもなると、誰もやって来ません。しかし夏でも干上がらない堰堤プールであれば、型はあまり大きくはなくとも、魚は釣れるものです。 早朝5時ころ、まだ薄暗い中でルアーを投げ始めると、すぐに27cmほどの丸々と太った非常に綺麗なイワナがヒットしてきました。丁寧に写真を撮影・リリースし、その後も場所を少しづつ変えながら、いつもより大きめのWavyS65を強いトゥィッチングで誘います。この時期は透明度が非常に高いため、普通に引いていても全く釣れませんが、ミノーを上下左右に狂った様にキックして泳がせることで、かろうじてヒットしてきます。少し大きめのミノーの方がより動きが大きく、魚の目をあざむくには都合良い様です。 そうやってルアーを投げ続けていると、ときおりイワナのトレースが見られるのですが、明るくなってくるとそれでもなかなかミノーを咥えてくれません。そして、それでもなんとかヒットしてくれたのは、予想通りに尺足らずのイワナばかりでしたが、良く太っていてパワーには不足はありませんでした。7時ころまでの2時間ほどの間に、28・27・20cmの3尾の釣果。もう十分満足です。
昼食をゆっくりとレストランでとりながら、午後はいよいよ本命の渓流に移動しました。実は今回の新潟遠征は行き当たりばったりの旅ではありません。掲示板でもおなじみの新潟のBuuさんから、事前に幾つかの情報を聞いていたのです。全く初めての渓流では、どこから攻めてよいかも判らないままゴールデンタイムが終わってしまっていたりするものですが、ほんのちょっとした情報でも事前に入手していれば、随分と助かるものです。そして、午後から何気なく入ったポイントで、Netの有り難さをしみじみと味わう結果が待っていたのでした。
この日は前夜にかなり強い雨が降っていて、写真上中央の様にかなり強い濁りが入っていました。地元の人に聞くと、この釣り場は透明度の高い時は底が丸見えのポイントらしいのですが、この日の透明度は50cm程度しかありません。もうすっかり涼しくなった9月の末ともなると、こういった濁った日は、朝夕よりもむしろ非常に明るい真昼間の方が釣れるものです。時間は2時ちょっと過ぎでした。まさか釣れるとは思ってもみないで、Buuさんに教えてもらったとある堰堤の下へ、ウェーダーも履かずにズック靴のままロッドとルアーケースだけを持って降りて行きました。
そうです。全くのマグレでした。第2投目で根掛かりかと思ってロッドをあおると、強烈なパワーがロッドに伝わってきました。間違いなく大物の感触です。ところが、ウェーダー無し、ランディングネットも無し、しかも釣り座は1mほどの岩の上、万事休スです。しかし、幸運の女神様が確実に微笑んでいます。ラインはフロロカーボンの1号。慎重に空気を吸わせて大人しくさせ、思い切って抜き上げるという荒業で手にした大物は、渓流育ちの47cmもある立派なイワナでした。岩の上でバタバタと暴れる獲物を見て、久し振りに足が震えました。 実のところ、流水域で釣ったイワナでは、この魚が自己最高記録でした(止水では53cm)。この日はもうこの一尾だけで十分過ぎるほどの満足感にどっぷりと浸り、まだ午後の2時過ぎだと言うのにすっかり戦意を消失してしまいました。夕方はまだまだたっぷりと時間が有ったのですが、そのままビールをあおり、たまたま出合った福島市・いわき市から来たという源流釣りのパーティーの人たちとひとしきり歓談し、そのまま近くの広場で寝てしまいました。
【9月29日(日)】 さて、今回の最終釣行でこの釣り場を選んだのは、人に邪魔されず一人でのんびりと釣りがしたいからでした。さすがに禁漁間際の9月最終週ともなると、どこの渓流釣り場も人で溢れ、釣り人と合わないことなどまずあり得ません。しかし、フローターを使ってゴルジュ帯をのんびりと進めば、誰にも合うことはありません。実は昨年も同時期に、別の渓流で同様の釣り(フローターでゴルジュ突破)で良い思いをしていました。Buuさんから、この渓にはフローターで攻めれそうなゴルジュ帯が豊富に有ることを知らされていたのです。今釣行の本命は、実はこの釣りでした。
強烈なU字谷となっているこの渓流では人の入れる場所が限られているのですが、入渓点から少し上流に移動すると、普段は誰も攻めていないポイントが連続します。情報通りにこの渓流は素晴らしいゴルジュの連続で、一つの淵を越えてもすぐにまた遡行不可能な深い大きな淵が現れます。この日もやはり濁りが取れておらず、どうせ早朝からは釣れないだろうと、朝8時ころフローターを担いで河原に降り立ちました。(写真右上は全長4cmほどのカジカ。こちらはルアーで釣れた(?)魚の自己最小記録です。スレ掛かりのため釣れたとは言えないかも。) 案の定、釣り始めて最初の2時間余りは、小さな小さなカジカがスレで掛かって来ただけで、イワナの姿は全く見えません。相当な釣り人が入っていて釣り切られてしまっているのかと迷ったのですが、なにせプカプカとたった一人で真昼間のフローター三昧です。まだ午前中だと言うのにビールを呑みながら、のんびりと誰にも邪魔されることもなくロッドを振り続けます。気持ちはもうすっかり秋の空。釣れようが釣れまいが、まぁ、どちらでも良いのです。 そして、もう諦めて引き上げようかと思い始めた11時近くになって、大きな淵の流れ込みに何気なく投げたWavy50Sに1尾のイワナがヒットしてきました。サイズは25cmほどとそれほどでもありませんが、魚を見てしまうとそれまでダレていた自分に、俄然、力が入って来るのが判ります。やはり9月の濁った渓流では、朝夕よりも良く晴れた昼間の方が良く釣れるようです。この1尾を皮切りに、イワナのトレースがときどき見られる様になり、ポツポツとイワナがヒットしてくる様になってきました。 そして正午ころ、明るい日差しがまぶしい中で、小さな沢の入り込む細長い淵まで来たとき、写真のイワナが足元まで追いかけて来るのが見えました。一度はヒットせずにUターンして行ったイワナですが、なんと3回目に追いかけて来た時に、ロッドチップの30cmほど先で大きな口をパクリと開けてミノーを咥えてしまいました。35cmでした。恐らく非常に濁っていたために、何度追いかけてきても私の姿に気づくことがなかったのでしょう。活性がピークに達すると、疑いもなくルアーを追いかけるさまは、まるでオモチャにじゃれる子猫の様に見えました。 午後からはもう釣りはほとんどどうでも良くなっていました。また半年間、渓魚たちに会えなくなることを思うと、もう寂しくてどうしようもないのです。その後はずっと下流部の開けた渓に移動し、小さなヤマメ達に遊んでもらいながら、渓魚たちに今年最後のお別れを告げてきました。帰り道、道端には野生の猿たちがのんびりと毛づくろいをしている姿が見えました。もう既に山の木々は紅葉を始め、遠く仰ぎ見る飯豊山の中腹は、ほんのりとサビ色に染まり始めていました。 【今回使用のタックル】 Wellner8ftTroutRod、シマノBioMasterXT2000、呉羽シーガーエース1号(6lb)、Wavy50S鰯、同65S緑/鰯、MissThetisSD、改造MMminow48Sハヤ、RexDeep50、他 |