単独釣行レポート

秋の渓流ルアーフィッシング(9月1日)


このところ、ミニオフやクラブ釣行の記事ばかりお伝えしていましたが、久し振りに渓流での単独釣行の模様をお伝えします。あと半月を残した今年の秋の渓流ルアーフィッシングですが、意外にも魚影の濃いフィールドで、まだまだたっぷりと楽しめそうです。このところの釣り人の減少で、数年前には殆ど釣りにならなかった人の多い渓流でも、結構な魚影が見られる様になっているからです。渓流では大物にこそなかなか出会えませんが、久々の入れ食い状態を堪能することができました。

注:場所の特定を防ぐため、風景画像の一部に大幅な修正を加えるか同イメージの別の写真を使用しています。



釣行日は9月1日。異常に長引いた今夏の猛暑も、9月の声を聞くとさすがに秋の気配です。この日は久々にたった一人でごく普通の渓流に繰り出すことにしました。前回の大さんとの釣行で、とても人の多いなんでもない渓流にも、随分と魚影が残っていることを実感し、久し振りに普通の渓流釣りをしてみたくなったからです。早朝はとある源流を釣り登り魚止めを確認することとし、午後からは、別の下流部で魚影を確認することにしていました。


この日は前日から釣り場に移動し、車で仮眠しながら、早朝5時ころから釣り始めです。スタート地点にはちょっとした堰堤があったのですが、まずはこの堰堤の下の落ち込みで小手調べのつもりでルアーを投げてみました。この付近は数年前までは、異常とも思えるほどの釣り人でごった返し、一時は全く魚影の見られなくなっていたところなのですが、驚いたことに、第一投目で上写真の34cmもある立派なイワナがヒットしてきました。この一尾がこの日の運勢を物語っていたことを、この時点ではまだ私も気付いていませんでした。


秋の気配とは言うものの、8月の後半から殆ど雨が降っていなかったためか、渓の透明度はご覧の通りのジンクリアそのものでした。正直言って、渓流釣りには最悪の条件です。それでもその堰堤の上部から釣り始めると、すぐに反応が出始めました。非常に透明度の高い状態にも関わらず、ほんの5mほど離れたところからキャストしたWavy50Sに、イワナがトレースしてくるのが良く見えました。私の姿は数十mも遠くから確実に見えていたはずなのに、不思議なことにまるで警戒心の無いごとくの状態です。

キツリフネ(黄釣舟) 白花のキキョウ(桔梗) ツリフネソウ(釣り舟草)

この渓流はところどころにご覧の様な大石を配した渓相となっており、ルアーでは釣りづらいテクニックの要求されるポイントが連続しています。しかし小さなポイントからもイワナが飛び出してきて、飽きることなくヒットが続き、2時間ほど釣りあがる間に20〜28cmのサイズもバラバラなイワナたちを10尾ほど釣り上げることができました。実際にルアーを追いかけてきたイワナの数は更にこの倍以上にもなりましたが、なにせ狭いポイントのため、なかなか実際のヒットにはつながってくれません。


しかしそれにしてもこの日は良いお天気で8時ころにはもう既に汗だくでした。そうこうするうちに、左下写真の小さな滝のポイントに到着してしまいました。両岸に大きな岩があり、中央に平な岩が挟まった形をしていて、高さはほんの2mほどしかありません。しかし、中央の平な岩からは水がハングして落ちており、この状態ではイワナはジャンプしても上流へは行けそうもありません。どうやら魚止めの様な気がしました。案の定、ここではこの付近で最大の31cmがヒット。更に上流を1時間ほど釣り上がりましたが、この滝から上では魚影は見ることができませんでした。

ミゾホオズキ(溝酸漿) ダイモンジソウ(大文字草) 二色のゲンノショウコ(現の証拠)

昼寝を十分に楽しんだ後は、夕方から件の堰堤の下流部を釣りました。3時頃から釣り始めようと林道を歩いていると、やっといました、本日初めての私以外の釣り人です(写真左下)。しかしどうやらルアーフィッシングはまだ不慣れな様子で、大きなスプーンを明るいところで投げていて、とても釣れそうもありません。ミノーの使い方などを少々伝授して、私もこの堰堤下で28cmを1尾釣り上げ、彼を残して別のところから釣り上がることにしました。あの後、彼はイワナを釣り上げることはできたのでしょうか?


そして、ここからがこの日のハイライトでした。釣り始めるや否や、型はそれほどでもないのですが、ポイントというポイントから、必ずと言って良いほどイワナがヒットし始めました。水は写真の様に相変わらずジンクリアで、日もまだ高いので条件はあまり良くありません。それでも結局、夕方6時ころまでの2時間半ほどの間に、最大33cmを頭に20尾以上のイワナがヒットし続け、休む暇もありませんでした。おおよそ10分に1尾の割り合いで釣れたことになり、写真を撮影してリリースを繰り返すだけで、あっと言うまに夕暮れになってしまいました。


しかし不思議ですね。この渓流は、ほんの3〜4年前まで釣り師がごったがえす超有名なポイントだったのです。堰堤の下には数名の餌釣り師が陣取って竿を並べ、釣れた魚は全て当たり前の様に虐殺され、魚篭に入れられていました。下手にルアーを投げようものなら、回りの釣り師からまるで犯罪者を扱うような眼つきで睨み付けられたものです。なのにこの3年ほどで釣り人は激減し、魚影はまるで釣り堀のごとくです。

ヤマルリトラノオ(山瑠璃虎の尾) オオハンゴンソウ(大反魂草) イワアカバナ(岩赤花)

以前にも紹介した矢野経済研究所のスポーツ産業白書によると、釣り具売り上げの2002年の予測は、96年の売上げピークを100%とした時の実に60%にまで落ち込んでいます。釣り具の売上げがそのまま釣り人口に比例している訳ではありませんが、恐らく96年ころのピーク時に比べれば今年の釣り人の数は2/3〜半分程度にまで落ち込んでいるのではないかと思われます。しかし、それでも不思議だとは思われませんか? 釣り人が半分になっただけで、こんなにも魚影が回復するのでしょうか? 魚の数は数年前には殆どゼロでした。なのに今はこんなにも魚影の濃い渓があちこちに存在しているのです。


この現象には様々な理由が考えられますが、私の推測は以下の通りです。釣り人は確かに半減したと思われるのですが、その釣り人の質の問題です。ブームの真っ只中にいたころは、実は初心者がとても多かったのです。彼らは釣りの初心者であると同時に、釣りのマナーの初心者でもありました。あなたが釣りを覚え始めた頃の事を少しだけ思い起こして見て下さい。訳も分からずに釣れたらとにかく嬉しくて、魚の命など気にも留めずに虐殺し続けていたのではないでしょうか。実は私自身も30年前は全くその通りでした。幾らでも魚は釣れ、そして何も考えずにその魚を全て殺していました。


バブル崩壊後に始まった釣りブームも今は去り、渓流に降り立つ釣り師の大部分はベテランの腕の立つ人たちが中心になっています。彼らの多くは、そう、キャッチ&リリースが当たり前なのです。長年にわたって釣りを続ければ普通は魚を多くは殺さなくなります。つまり、釣り人口は半減しただけかもしれませんが、虐殺される魚の数は、恐らく1/10、或いはもっと少なくなっていると考えられるのです。釣り人を啓蒙することだけでも、十分に魚影は保たれる可能性が有るのです。


もちろん初心者に罪をなすりつけるつもりなど全く有りません。私もそうでしたが、最初はマナーなど誰も教えてはくれなかったのです。釣りの初心者にまず、マナーを教えることの意義がここにあるのです。そして私の希望する「穏やかなキャッチ&リリース」も、こんな考え方がベースに有るからなのです。

今シーズンも残すところあと半月ほどになってしまいましたが、今年は上記の様な魚影の濃い素晴らしい渓がまだまだ残っている様です。その一方で、雑誌などで紹介され全く釣れない渓流・源流も確かに存在します。様々な条件を考え合わせればあなたにもその理想郷はきっと見つかるでしょう。残り半月を、悔いの無い様に有意義に楽しんで頂きたいものですね。(本ページ中の風景写真は実際の釣り場のものではありません。)

ミソハギ(禊萩) ハンゴンソウ(反魂草) オクトリカブト(奥鳥兜)

【今回使用のタックル】
Wellner8ftTroutRod、シマノBioMasterXT2000、呉羽シーガーエース1号(6lb)、Kルアー5cm緑、Wavy50Sヤマメ、MissThetisSD、改造MMminow48Sハヤ、他