山形渓遊会の春季釣行のあと、足を痛めてしまった私は、それでも釣りがしたくて仕方なくダム湖の釣りを選びました。このダム湖は毎年4月の中旬に決まって訪れている実績の有る釣り場です。しかし、ここでもやはり「早すぎる春」に悩まされる結果となり、思わぬ苦戦を強いられてしまいました。おりしもこの日は土砂降りに近い雨の中、それでも最後には、釣りの女神様が、ほんの少しだけ微笑んでくれました。 ![]() 4月29日の朝、山形渓遊会のメンバーと別れた私は、ご覧の様に素晴らしいお天気にも関わらず、前日からの足の痛みに耐えかねて、結局その日は小国町の温泉に逃げ込みました。普通なら、ここで一旦は自宅に戻って養成するのところでしょうが、そうは行きません。トラウトルアーフィッシャーにとってゴールデンウィークは特別な日。なにせ、1年で一番大物の釣れる確立の高いダム湖・堰堤プールの釣りの最盛期なのです。温泉にゆったりと浸かっていると、昨日の山行きの疲れもジワジワと抜けて行き、足の痛みもいつの間にか、和らいでくれるのでした。
ただ温泉でリフレッシュしたとは言え、幾らなんでもこの状態できつい山歩きはできません。結局、実績のある某ダム湖の大物釣りに挑戦することにしました。なぜなら、このダム湖は足場もとても良く、ズック靴でも普通に釣りが可能だったからです。午後2時ころに釣り場に到着し、まだ時間があまりにも早いのでビールを飲みながらくつろいでいると、どこかで見覚えのある車が近寄ってきます。あれま、掲示板でおなじみのHaruさん(サイト:Trouter Haru)ではないですか。
Haruさんはこのダム湖で、2週間ほど前にも40cmオーバーのイワナを2尾も連続で釣り上げていて、近い事もあってこのポイントに通っていたらしいのです。実を言うと、Haruさんが現れる前、このポイントで先に釣っておられた2人の釣り人(Buuさん、たかちゃん)と情報交換をしていたのですが、良く聞いてみると、私とHaruさんの両サイトを随分前からご覧になっていて、この釣り場に来られていたとのこと。世の中、ホント、狭いんですねぇ。 この付近のダム湖は例年、4月の初旬から5月の連休のころまでがルアーフィッシングの最盛期となります。中でもこのダム湖は漁協の放流が特に盛んで、毎年この時期に大物イワナがコンスタントに釣れるため、私も4月から5月初にかけて年に数度訪れています。しかしどうした事でしょう、この日は何も全く釣れず、しかも釣り場の足元には、写真右上の10cmほどのウグイの稚魚が群れ遊んでいるのです。大物がいれば稚魚たちはノンビリなんかしていません。はて、魚達はいるのでしょうか?
答えはすぐに判りました。表層の水温を計ってみると、なんと15℃もあったのです。例年なら5月の初旬ころであれば、水温は6〜10℃程度の筈です。どうやら、ここでも「早すぎる春」が魚達の行動様式を変えてしまっていた様子。実は先ほど出てきたウグイの稚魚を餌にして、ムーチング(生餌の泳がせ釣り)もやってみたのですが、3時間ほど放置していたにも関わらず、まるでさっぱりでした。
この日の夜は、またまた渓遊会のメンバーがこのダム湖の駐車場にやってきました。彼らは私を置き去りにして小国町の某沢に入っていましたが、尺前後のイワナが随分と釣れたとのこと、くやしいったら有りません。彼らの収穫して来た山菜やイワナをオコボレ頂戴し、早速山菜パーティです。しかし3日連続の野営も疲れますネ。連日の酒びたりで、足の痛みだけではなく、肝臓の方まで痛み出しそうでした。翌朝こそは夜明けと同時に起きて大物を狙おうと心に誓っていたのですが、結局は深酒をしてしまい、翌朝の釣りが疎かになってしまうのでした。
さて、翌朝すっかり明るくなって起き出してみると、またまたどこかで見覚えのある人が近づいてきます。おやおや、今度は2年ぶりの再会となる関川村の大沼君でした。彼とは一昨年のゴールデンウィークに、風の又三郎さんと一緒に、この付近でミニオフ(荒川ミニオフと連休釣行・00年5月5日)で楽しんだ仲でした。そういえばあの時もこのダム湖に案内し、結構なサイズのイワナを爆釣したものです。大沼君はそれ以来、このダム湖に時々来ているそうで、毎回、結構な釣果を上げていたらしいのです。2年前は高校生だった彼も、今では大学生になり、車の運転免許も取得して、すっかり大人びて立派になっていました。
昨日のHaruさん、Buuさんらの情報や、今日の大沼君からの情報で、幾つかの重要な事実が判明しました。今年は下流部のいつものポイントでは4月の中旬までは良く釣れたものの、ゴールデンウィークの前週あたりからサッパリ釣れなくなっているとのこと。そして、1kmほど上流にある足場の良い釣り場では、この日の早朝に50cm近いイワナがヒットしたが、惜しくもバラしてしまった人がいたとのこと。釣れているのは殆どが重いスプーンで、深いところからの早引きに主にヒットしているとのことでした。
さて、上記の情報は一体、何を意味するのでしょう? 表層の水温が15℃と異常に高いことを考え合わせると、答えは一つしかありません。「早すぎる春」のせいで上昇してしまった水温のため、魚達は既に深いところに移動してしまい、表層近くではもう普通には釣れない状態になっていたと考えられたのでした。堰堤プールの様な小さな水系では問題になりませんが、長さ数kmにもおよぶダム湖では、通常、下図の様に魚たちの泳層(ブレイクライン)が形成されているものです。 この時期の水温は表層ほど暖かく下層ほど冷たくなっていて、流れのあるバックウォーター付近を除けば、魚達は自らの適水温に近い層を回遊しているものと考えられます。例年のこの時期なら表層の水温は10℃以下のハズであり、ブレイクラインは表層もしくはごく浅いところ(黄色いライン)に有ったと考えられます。ところが今年は水温が早期から上昇してしまい、ブレイクラインが予想以上に深いところ(赤いライン)に移動してしまったと考えられるのです。つまり非常に深いところに魚達は移動していて、岸からは普通にはもう釣れないのです。(これがダム湖での釣期の終了を意味していると考えられます)
実際、銀山湖などのレイクトローリングでは、4〜5月ころは比較的浅い層(レッドコアラインで2〜5色)にルアーを流しますが、夏が近づくにつれ次第に深いところ(10色以上)を流さないと釣れなくなってしまうのです。さて、こうなったら方法は一つしかありません。そうです、フローターを漕ぎ出して、バックウォーターに近いところまで行き、表層近くにまだいるイワナを釣り上げてしまう手です。しかし私も相当な釣りキチですね。足が痛いのに、こうと決めたらやってしまわないと気が済まないのです。ネオプレンウェーダーの下にスキーウエアとネオプレンのソックスを履いて、これ以上の重装備は無い状態で上流へと向かいました。
幸いにもプカプカとやっていると意外にも楽チンで、足の痛みも殆ど感じなくて済みました。そして、両岸を切り立った崖に囲まれたバックウォーター付近まで行くと、やがて上の写真の様な異様なゴミ(流木)の固まりに出くわしました。この時期は上流から沢山の細かな流木が流れて来ていて、流れが消えるあたりにゴッソリ溜まっているのです。そして案の定、このゴミの手前では水温は15℃もあるのに、ゴミの向こう側は川の流れそのもので、水温はただの6℃しかありませんでした。
折角バックウォーター近くまで苦労して漕いできたので、一応は釣ってみると、上の写真の様なおチビちゃんがしっかりと2尾だけは釣れてくれました。でも、これでは全く納得できません。足ヒレの動きが大物に察知されない様に流れに全く身を任せる形で上流から釣り下がって行くこととし、ゴミの溜まっていた下流部付近から丹念に周囲のブッシュ周りなどにルアーを投入して行きました。そして、ゴミの溜まっていた場所から150mほど下流にあったブッシュの下から飛び出して来たのが、下写真の立派なイワナ44cmでした。正に執念の1尾でした。
上記のイワナがヒットしたのは、上写真の岸辺のブッシュ脇でした。20mほど離れた上流側からMMミノー48Sをこのブッシュぎりぎりに投げ込み、少し沈めてから、トゥィッチを掛けた瞬間にガツンとヒットしてきました。大きなダム湖でも水温が低ければ、こういったブッシュの周りに魚が定位していることが多く、過去にもこのダム湖で同じ様なポイントで釣れたことが何度かあります。それにしてもこの写真、良くご覧下さい、水面に波紋が沢山ありますね。そうなんです、実はこの時、土砂降りに近い雨が降っていて、我ながらここまでするか!と、感心するほどでした。
さて、今回は幸いにも釣りの女神様が最後に微笑んでくれた訳ですが、やはりダム湖でのルアーフィッシングでは、表層の水温がある程度(15℃程度)まで上昇してしまうと、岸からの釣りは難しくなってしまう様です。5月1日には雨でかなり強い濁りが入ったそうですが、雨後で条件の上がった5月2日〜3日にかけて、大沼君が41cm、大沼君の友達が45cmのイワナを上流側のポイントで釣り上げたのが最後の大物だった様です。私も再度、5月5日に同じダム湖に向かいましたが、残念ながら柳の下には2尾目のドジョウはいませんでした。非常に良いお天気で、フローターを浮かべていてもすこぶる気持ち良い一日でしたが、水温の高い表層付近は、小さなウグイ君たちの天国でした。
【今回使用のタックル】 Wellner8ftTroutRod、シマノBioMasterXT2000、呉羽シーガーエース1号(6lb)、Wavy50S緑、同65鮎、改造MM-Minnow48Sハヤ、RexDeep50、他 |