そもそも渓流にフローターを持ち込んだのは、恐らく日本でも私が最初ではないでしょうか。もともとフローターはバス釣りや止水でのフライフィッシング用に開発されたもの。流れのある渓流や、堰堤上のプールにそれを持ち込んだのは、無謀の誹りを免れないことかもしれません。しかし、使い方さえ間違わなければ、こんなに安全でしかもこんなに良く釣れる道具はありません。そろそろシーズンオフの近づいた今回は、殆ど釣り人の入らないゴルジュ帯を、のんびりフローターを浮かべながら釣ってみようと言う試みでした。そして、やはり人の入り辛い場所には、良型のイワナ君が残っていてくれました。 【9月23日(日)】 毎年、シーズンオフの近づいたこの時期になると、もう寂しくて釣りそのものには力が入りません。野山や渓流に深めゆく秋の色を眺めるだけで、もう満足なのです。禁漁まであと2回の週末を残すのみとなったこの日、誰にも邪魔をされずにのんびりと釣りたくて、フローターを用いたちょっと変わった釣り方を試みてみました。この方法は過去にも何度かやってみたことがあるのですが、思ったほどは釣果に恵まれることはありませんでした。でも、そんなことはどうでも良いのです。誰にも邪魔されること無く、のんびりと去り行く季節を楽しめればそれで良いのです。 釣り方の基本は、誰も入れない大淵を擁したゴルジュ帯を、フローターを浮かべて突破すると言うものです。ゴルジュ突破というといかにも体力勝負の危険な釣りに思えますが、実はフローターを使えばまるで楽チンで、しかも安全です。ただ、時期的なものがあり、年中できるものではありません。渓が渇水して流れが殆ど無くなってしまう8月〜9月のお天気の良い日だけが狙い目となり得ます。雪代の豊富な時期や雨後の増水時は、自殺行為にしかなりませんので、絶対にマネをしない様にお願いします。 概ね渇水した非常に透明度の高い時期の釣りとなりますので、フローターを使えどもそれほど大物が釣れる訳ではありません。ただ、イワナは大水の出た時などに渓流を大きく移動しますが、普段は案外同じ所に留まっている様なのです。人の余り入らない場所には、やはりそれなりに魚たちも残っていて、しかもあまりスレていないのが普通です。そういったウブなイワナ達を相手に、のんびりと、誰にも邪魔されずに釣りを楽しむのが、この釣り方の醍醐味だと言えます。 この日選んだ釣り場は、ゴルジュ帯の多いことで有名な新潟県内の某渓流でした。特に下流部には大淵をいくつも連ねたゴルジュ帯が連続していて、フローターには打って付けのハズでした。土曜の午後から移動し3時間ほどかけて到着したその渓流は、しかし予想とはまるで違うことに驚かされることになりました。渓全体で様々な工事が行われていて、夕刻だと言うのに明々と発電ランプが灯され、砂で埋まってしまった流れがあちこちで見られました。翌朝、最上流部の取水堰堤から始め、4ヶ所ほどを下りながら釣ってみましたが、砂で埋まった渓には、残念ながらフローターを浮かべて釣る様な所は殆どなく、場所の選定が大きく間違っていたことに気付かされました。
仕方なく普通の釣り方で渓流を遡行してみることにしましたが、これがまた釣れません。人が余りにも多く、しかも魚の活性が異常に低いのです。実を言うとこの日、山形県の大井沢では今年初めての氷点下を記録したそうで、この渓も早朝の異常な寒さに、魚たちの活性が著しく落ちていた様でした。魚はきっと沢山いるのでしょうが、結局、朝6時前から14時ころまで釣ってトレースする魚影が1尾も見えないという、数年振りの惨憺たる結果となってしまいました。ちなみに大井沢地区に入渓した我が渓遊会の渡辺会長は、2時間以上も歩いて源流部の魚止めまで行き、1尾も釣れなかったとのこと、この日はどこも同様の低活性の様でした。 【9月24日(月)】 仕方なく翌日は全く別の渓流に入渓することに決め、早めに切り上げて大移動です。ちょうど飯豊山をグルリと1周する様な形で、またまた2時間ほどの移動をすると、そこにはいつも私の通い慣れた峪が有りました。ここにはフローターに打って付けのちょっとしたゴルジュ帯が有ることを知っていたからです。どうせ活性は低いだろうと、日の高くなる8時ころまで車でぐっすりと熟睡し、のんびりと出漁です。お天気は最高に良く、水温の急上昇する9時頃から実にのんびりとゴルジュ帯に入渓です。 この日の透明度はご覧の通り、日の高くなった時間帯のため底石の一つひとつが手に取る様に見える状態でした。渇水で流れは殆ど無く、しかも水はクリアに青く、まるでフローターで空中に浮いている様な錯覚を覚えるほどでした。そして人の余り入らない場所までフローターを漕いでくると、徐々に魚の反応が表れはじめ、岸釣りでは届かない距離のちょっとした駆け上がりに、20〜25cmのイワナがぞろぞろと追いかけてくるのが見えました。透明度が高いため、Wavy50SとRexDeep50SPを頻繁に交換しながらルアーを投げ続けると、やがて小さなイワナがヒットし始めました。
このゴルジュ帯は両岸が切り立ったU字谷になっていますが、ザイルを用いて懸垂下降でもすれば入れなくはありません。また、上下からヘツリで有る程度は入っても来れます。しかし河原の状態を良く調べてみると、中央部に3つだけ全く足跡の無い淵が存在しました。そしてその3つの淵のうちの真中の小さな淵でRexDeepをトゥィッチングしてみると、予想通りに1投目でイカツイ顔をした良型のイワナがヒットしてくれました。他にも尺ちょうどの可愛い顔のイワナもヒットしてくれ、まずは目的を達成して満足感に浸ります。あとはもう釣れようが釣れまいが、どうでも良くなってしまいました。 そして更にゴルジュ帯を進むと、やがて河原に足跡が見え始め、同時にイワナのヒットはピタリと止まってしまいました。どうやらゴルジュ帯上部からヘツリで相当な人が入って来ている様です。こういったゴルジュの中では当然、漁協による放流は行われてはおらず、逆に魚は釣り切られ易いのです。結局、ごく狭い範囲の人の入りづらいポイントだけに魚がかろうじて残っていて、そのすぐ近くの上下流には全く魚影が見られない状態でした。雨で増水し、魚が移動してしまうとここもやがては魚影が無くなってしまうことでしょう。正に風前の灯火の魚たちでした。 さて今回の釣行では、非常にクリアな青い水と快晴の明るい光に恵まれました。この時期はある程度の釣果が有れば、あとはもうのんびりしたものです。ちょっと可愛そうだったのですが35cmと30cmのイワナ君にモデルになってもらい、じっくりと時間を掛けながら、様々な角度から実に沢山の泳ぐイワナの写真を撮影することができました。青い水とイワナの茶色い斑点のコントラストが実に綺麗で、まるで峪の宝石の様です。そのうちのベストショット数枚を、写真館に壁紙として掲載していますので、ぜひご利用下さい。 その後、近くの堰堤の上下のポイントを幾つか釣り歩きましたが、この日も活性が低いのか、或いは禁漁間際の釣り人の多さからか、魚の姿を見ることはほとんどありませんでした。遠く飯豊山を仰ぎ見ると、中腹付近がぼんやりと錆び色に染まり、秋が山から確実に降りて来ているようでした。移ろい行く季節が、やがて到来するであろう冬の季節を予感させました。
【今回使用のタックル】 Wellner8ftTroutRod、シマノBioMasterXT2000、呉羽シーガーエース1号(6lb)、Wavy5S鮎(AJ)、SugarDeep50SP、RexDeep50SP、Athlete55S鮎、他 |