「堰堤プールの魚たちは一体どんな行動をしているのか?」 この疑問を解き明かすために、今夏は何度も源流に入りイワナ達の姿を追跡しています。あの堰堤プールのイワナ達は、いったいどこへ行ってしまったのか? お盆休みの喧騒がようやく静まった9月1日、このことがどうしても気になって、お盆休みに訪れたあの源流の更に上流部へと、再び足を運びました。また9月2日には、「一度干上がった堰堤プールには、魚が本当に残っていないのか?」を確かめるため、その下流部の堰堤プールにも出かけました。 【9月1日(土)】 この日入った渓流は、「山形渓遊会夏季釣行(1)、8月10日」でお伝えしたのと同じ渓流です。8月10日の釣行時には、途中でゼンマイ道を見失ってしまったこともあり、さほど奥へは入れませんでした。しかし堰堤から3.5km(堰堤プールのバックウォーターから2.5km)ほどの地点にある大きな滝の下には、それでも40cmクラスを含めて多数の尺上イワナ達が泳いでいたのを確認しています。実際に釣れたイワナも尺前後ばかり、しかも丸々と太っていて、その魚影の濃さに驚かされたものです。 今回の釣行では、奥に続くゼンマイ道の情報を新たに入手し、一気に堰堤から3kmを越えた地点まで移動して釣り始める事にしました。最近は釣り人が減っているせいか、ゼンマイ道は判り辛く、場所によってはほとんど踏み跡が消えてしまっている所もありました。しかし、今回も山形渓遊会の渡辺会長と同行です。彼の慣れた目で踏み跡を見つけながら、2時間ほどもひたすら歩きました(写真上左)。前回の釣行では下図の2km地点付近から魚影が見え始め、3.5km地点の滝壷(写真上中央)には、尺上が群れて遊弋していました。 今回の入渓点は前回引き返したその大きな滝の200mほど下流でした。3週間前に沢山の魚影を確認している我々は、入渓直後から勇んでルアーを投げ続けますが・・・はて、どう言う訳か、さっぱり魚影が見えません。そして、何も釣れないままに、件の滝壷まで来てしまいました。ここで私のルアーロッドに、ようやく尺ちょうどのイワナがヒット(写真上右)。まずはボ*ズ逃れをして一安心でしたが、しかし、3週間前にいたあのおびただしい数のイワナ達は、一体どこへ行ってしまったのでしょう? キツネにつままれたまま、滝右側を高巻いて上流部へと移動する事にしました。 滝上に出るとまるで別世界の様に開けた渓相(写真上左)が現れます。しかしここでもまだ魚影は余り見られず、小さなイワナが時おりヒットする程度です。時間は既に午前10時を回っています。更に上流へと釣り遡り、4.5km付近にある、沢が小滝となって合流する地点(写真上中央)まで来て、ようやくルアーに魚たちが反応を見せてくれる様になりました。しかし、数こそ増えて来ましたが、なぜか型はとても小さく、20〜25cmばかりなのです。3週間でこんなにも魚影が薄く、しかも型が小さくなってしまったのは、一体、なぜなのでしょう? その答は河原の脇にある、ちょっとした広場に見つける事ができました。まだ崩れていない真新しい焚き火の跡と一緒に、足跡だらけのテントサイトの跡が目に入って来ました。しかもそういったテントサイトの数は1箇所だけでは無く、遡行中に5〜6箇所も次々と見つかりました。焚き火の燃えカスにある炭の状態を見れば、大体の新しさが判別できるものですが、どのキャンプサイトもここ2〜3週間のものとしか思えない様な新しいものばかりでした。連休中だけでも、相当な数の釣り人が入った様でした。 実を言うと前回8月10日のレポートは、このHPを見て人が増えるのを避けるため、わざとお盆休みの終わった8月22日にリリースしています。つまり、お盆休み中のこの渓での釣り人の増加には、このHPの影響は全く無かったはずなのです。しかし、本当の事を言うと、実はこの渓は、某有名渓流雑誌に実名入りで掲載されていました。6月初に発売されたその雑誌の影響は凄まじく、私が6月〜7月初ころに下流の堰堤プールでフローターフィッシングをしている時、昨年以上に遥かに多い釣り人たちが湖岸の林道を歩いて行くのを目撃していました。 雑誌の影響は本当に凄まじいものがあります。多くの釣り人は情報が少なく、雑誌に頼らざるを得ないのは良く判ります。しかし、問題は「集中」です。ごく狭い範囲に釣り人が集中してしまう所に、その罪があります。雑誌を見て遠くからやって来る釣り人には、ある意味で沢山の釣り場が与えられている訳です。しかし、地元の釣り師や、気に入ってその釣り場に通っている人達には、他に掛け替えの無い貴重な釣り場なのです。余りキツイ事は言いたくありませんが、実名入りの有名雑誌記事への掲載は、いい加減に勘弁してもらいたいものです。もうそんな時代では無いのではないでしょうか。
さて話は少し本題から外れますが、最近の我がクラブの渡辺会長はその後もすっかり餌釣り離れが進んでいる様です。この日は下の写真の様に、ルアーを中心にテンカラをまじえて釣りを楽しんでいました。下の3枚の写真を良くご覧下さい。彼の持っているのは餌釣りのロッドではありません。今釣行の前の週に、彼は某有名人と新潟県内の源流に入り、すっかり意気投合していました。その時に譲り受けた貴重なテンカラ毛鉤を使って釣っている姿なのです。しかもその某有名人の目の前で、ミノーを使って49cmの丸太イワナも仕留めていました。もう、餌釣りなどすっかり忘れてしまった様なのです。 そして今釣行では、正直言って彼にルアーの釣り場を奪われた私は、ろくに釣れませんでした。今回もまた一番の大物(と言っても32cm)は彼の手中に収まってしまいました。餌釣りの中に一人ルアーで入った場合には、実はその飛距離から大場所はルアーの天下なのです。なのに、今回は二人占め。しかも魚影は有るものの型はいまいち。いつもよりフラストレーションが溜まるばかりでした。でもま、源流へは一人で中々入れず、こうやって付き合って貰っていますので文句は言えません。それにルアー嫌いだった会長がルアーロッドを振るようになっただけでも、山形渓遊会にとっては大きな進歩です。会長殿、どうぞ存分にルアーで釣って下さいませ。 さて、そろそろ話を元に戻す事に致しましょう。今釣行の目的は、堰堤イワナの追跡でした。そしてその後も上流部へと釣り遡り、堰堤から5.5km地点にある大きな沢の合流点まで釣って納竿しました。沢には大きな滝(写真下右)が掛かっているのですが、その滝壷でも大物の魚影は見られません。釣り遡るにつれて、むしろ上流へ行けば行くほど型は小さくなるばかりで、これ以上に上流部を攻めても「魚止めの滝」以外は恐らく大物は期待できそうもありませんでした。4.5km付近より魚影は急激に増えはしましたが、小物中心で大きくても尺ちょっとまでと、結局、3週間前のあのイワナ達の姿はもう見られませんでした。 【9月2日(日)】 翌2日の午後は、久し振りにフローターを担いで、下流部にある堰堤プールを釣ってみることにしました。ただ、雨はここ4日ほど降っておらず、減水のために湖底の泥を舞い上げて、バックウォーター付近はかなり強い濁りが入っていました。こういうときこそ「煙幕理論」の出番です。プールへの降り口付近に僅かに残った比較的透明度の高い部分を選んでルアーを投げてみました。そこには確かに魚はいましたが、ご覧の尺ちょっとのイワナが3尾釣れただけで、満水時には数千尾はいたと思われるイワナ達の姿は、やはりもう見ることは出来ませんでした。。 ではこの辺りで、この渓流と下流部の堰堤プールでの今年に入ってからの出来事をまとめてみましょう。まだまだ釣行回数が少なく、結論めいた事を言うことはできませんが、何らかの推測は可能だとは思われます。 1.下流の堰堤プールには5〜7月かけて数回釣行。40cm上を3尾、尺上を20尾以上も釣り上げている。 2.6月初、某有名渓流釣り雑誌に、源流釣りの記事が掲載された。 3.6月末ころから源流部への釣り人が増加し、7月中旬まで、沢山のザックを担いだ釣り人を目撃。 4.7月20日ころより渇水が始まり、7月末にはほぼ完全に堰堤プールは干上がった。 5.8月10日、堰堤より2.5km付近から3.5km付近を釣り多数の尺上の魚影を確認。40cmクラスも確認。 6.8月18日、下流に堰堤プールの無い源流に入るも、魚影は殆ど無し。 7.9月1日、堰堤より3.5km付近でも魚影は薄い。4.5〜5.5km付近で数は多いが小物中心。上流へ行くほど小型化。 8.9月2日、堰堤プールには31cmを限度に、イワナの魚影は僅かしか見られなかった。 9.某有名人の話では、この渓は奥へ行くより下流部の方が良く釣れるとこのと。 如何でしょうか。上の情報を見て、皆さんはどの様に解釈されますか? この渓の源流部には、恐らくお盆休みを中心に8月10日から9月1日にかけて多数の釣り人が入渓し、堰堤上部の4kmほどはことごとく釣り切られてしまったのでしょう。或いは、より源流部へと魚たちは移動してしまったのかも知れません。しかし、不思議だとは思いませんか? 雑誌に掲載され、釣り人が増えていたとすれば、6月以降増えた釣り人によってお盆休みよりもっと早い時期に釣り切られていたはずです。渇水するまでは水量も多く、奥地へは入れないと言う意見もあるかもしれませんが、私が堰堤の釣りをしながら見たこの川の水量は、今年は早くから梅雨が明けていたこともあって、7月初には楽に川を渡れるほどまでに落ち着いていました。
なのに、なぜ8月10日には、あんなに沢山の魚影が見られたのでしょう。それはもう、堰堤プールに生息していたイワナ達だったとしか考えられません。そして、遡上すると同時に多くの釣り人によって釣り上げられ、やがて魚止めの滝までの区間も含めて釣り切られてしまうでしょう。恐らく巨大な堰堤プールがイワナ達を温存し、時おり遡上することによって釣り人達を楽しませてくれていたのではないでしょうか。そして干上がってしまった堰堤プールの上は、もう暫らくの間は、何も釣れないことでしょう。釣り人の凄まじい釣欲は、ほんの2〜3週間でその渓のイワナ達を根絶やしにしてしまうほどの恐ろしさを秘めていたのです。 【今回使用のタックル】 KenCraft SuperTroutSpecial60LT TelescopicPackRod(9月1日)、Wellner 8ftTroutRod(9月2日)、シマノBioMasterXT2000、呉羽シーガーエース1号(6lb)、Wavy5S緑、SugarDeep50SP、他 |