単独釣行レポート

猛暑と堰堤の釣り 2001年7月29日



「夏枯れ」でしょうか。このところ、渓流も渇水して釣り辛いせいか、あまり楽しい話が聞こえてきません。実際、この時期はこのHPへのアクセス数もガックリと減ってしまいます。真夏の渇水は渓流の釣り人の関心を他へとシフトさせてしまう様です。しかしこんな渇水の時期でも、場所を選べば楽しい釣りはまだまだ可能です。渇水の状況とその中での堰堤釣りの模様をお伝えします。なお、今回のレポートでは、釣りの最中にデジタルカメラを水没・故障させてしまったため、あまり写真が多くありません。写真枚数に比して文章が少々長ったらしいことをご承知おき下さい。

注:場所の特定を防ぐため、風景画像の一部に大幅な修正を加えるか同イメージの別の写真を使用しています。



今年は積雪が多かったにもかかわらず、4・5月の気温が比較的高かったため、残雪の消えるのはとても早かった様です。そのため、雪代も当初の予想よりかなり早く終了してしまいました。加えて、今年は梅雨明けが早く、山形県内も7月20日ころからほとんど雨が降らない状態になりました。その結果、数年に一度の深刻な渓流の渇水が引き起こされ、堰堤プールの釣りにも大きな影響を与えています。

まず最初に、下の2枚の写真を見比べてみて下さい。実は同じ堰堤のプールをほぼ同じ角度から撮影したものですが、渇水によって水位が極端に下がり、まるで別世界の様に変化していることがお判り頂けると思います。この堰堤プールは満水時には2km近くにも達する巨大な湖になるのですが、この日(7月28日土曜)に様子を見に行った時は、プールの長さはほんの30mほどにまで小さくなっていました。

最近のこの付近の天気を振り返ってみると、7月15日〜19日まで毎日強い夕立が降っていてプールは恐らく満水状態だったと思われます。この間に、どうやら雪代は完全に消えた様子でした。しかし20日から全く雨が降らない状態になり22日にはプール長は約半分に、そしてこの日(28日)には、ほぼ干上がってしまいました。もちろん雪代が残っていればこんな状態にはなりませんが、単に雨だけに頼っている様な状態では、1週間程度でこの堰堤プールの場合は干上がってしまいます。ちなみにこの堰堤プールがこの様な状態になったのは、この7年間で、2年前(99年)と5年前(96年)と今回の3回だけです。


通常こういった堰堤プールの底には、分厚いヘドロが堆積しているものです。渇水によって水位が下がって来ると、バックウォーターの位置がどんどんと下流側へと移動して行きますが、その時、プール底に堆積していたヘドロが舞い上げられ、写真下の様に極端に濁った、まるで泥水の様になってしまいます。しかも辺りはヘドロの腐った臭いで充満しており、近づくのも躊躇われる様な状態です。こういった堰堤の存在が渓流の魚や環境にとって如何に悪影響が大きいかが、良くお判り頂けるのではないでしょうか。

こういった問題を回避するための方策は実は簡単です。このHPでも何度か取り上げている「堰堤のスリット化」です。堰堤の中央に幅数mの切り込みを入れ、プールに水が溜まらない様にしてしまえば良いのです。水が溜まらなければヘドロも溜まらず、また魚も上下流へ行き来もできます。プールが出来ないので水温も低く保たれ、渓魚の棲息にも支障はありません。それでいて洪水時には一時的に大きなプールが出来ることで、下流への災害を防止できるのです。この堰堤も来年にはスリット化が行われると聞いています。堰堤の釣りをやっているこの私が言うのも変ですが、なぜ、今までこんな状態を放置していたのでしょうね? 私は堰堤のスリット化には、大賛成しています。


さて、こういった状態になると、プールに溜まっていた沢山の渓魚たちは一体どうなるのでしょう? これまで、同様の小さくなった濁ったプールでルアーを投げて確かめて見た事が何度かありますが、魚影は全く見えませんでした。恐らく、20℃を軽く越える高い水温と強い濁りと悪臭が、渓魚たちを上流へと遡上させてしまうのでしょう。このプールでは、数千尾もいたであろうイワナたちは今、上流部の水温の低い、透明度の高い渓流部に逃げ込んでいます。実際、こういった時期に源流部に入った釣り人から、「大釣りした・大物が束になって釣れた」といった話を耳にする事があります。もっとも、透明度が非常に高く渇水していて、雨でも降ってくれないと、そう簡単には釣れてはくれない様ではありますが。

そして、私の様な堰堤プールの釣り師にとって深刻なのは、一度この様な状態になると、秋雨などで大雨が連続して降らない限り、恐らく来年の6月ころの雪代の最盛期まで、もう何も釣れなくなってしまうと言うことです。大水や濁った雪代が渓魚を下流へ押し流しプールに溜める事をこれまで何度も説明してきましたが、渇水は全く逆の作用となる訳です。一度遡上してしまった渓魚たちは、何もなければもうプールへ戻って来る事は殆どありません。今年の渇水では、県内の主だった大堰堤の殆どがこの様な状態になってしまった様であり、来年の堰堤釣りはもう、諦めざるを得ないかも知れません。


ただ、全ての堰堤プールが同じ様に干上がってしまうのかと言うと、そんな事はありません。上写真の堰堤は、翌29日に行った別の堰堤ですが、裏側に大きなプールを抱えていてます。この日はかろうじて満水状態で、ごく僅かに堰堤の上から水が溢れ出ているのがお判り頂けると思います。しかしこの堰堤プールも、もっと強い渇水になると、やがて水位は下がってきます。具体的には、A〜Sの穴から流れ出ている水の総量よりも上流からの水量の方が少なくなると、まずラインXのレベルまで水位は下がります。更にF〜Sの総量よりも少なくなるとラインY、そして、L〜Sの穴から流れ出ている僅かな水量よりも流入水の量の方が少なくなると、完全にプールは干上がってしまいます。

殆どの堰堤は上写真の様な構造になっていますが、穴には土砂が詰まっているとは限りません。実を言うと、殆どの場合は、上流から流れてきた巨大な流木がまず穴に詰まり、その後小さな流木が隙間を埋めて行く形でだんだんと穴が塞がれて行きます。そのため、土砂がまだ堆積していないのに穴はどんどんと塞がれて行き、大きなプールが出来上がります。そして、この穴の塞がれ具合によって、その堰堤プールの渇水時の干上がり方が左右されるのです。つまり、猛暑の渇水時は、干上がりにくい堰堤プールを覚えておいて、そこで楽しめば良いと言う訳です。(写真下右は、濃い緑に鮮やかなピンクの映えるシモツケソウ[下野草])


この日は夜明けと同時に釣り場に到着し、まだ薄暗い中、まずはこの堰堤の下にある四角いプールを釣ってみました。もちろん堰堤上のプールを釣るのが目的ではありましたが、実は数年前に下のプールで結構な大物も釣り上げたことがあり、時々は釣ってみて魚影を確認していました。しかし、ここ3〜4年は釣り人が異常に多く、幾らルアーを投げても何も釣れない状態が続いていたのです。しかし釣り始めてすぐにここでも驚かされました。1投目で、なんと33cmのちょっと痩せてはいましたが、立派なイワナ(写真下左)がヒットしてくれたからです。


そして普通はこういうプールのポイントでは1尾釣れるとそれでおしまいになってしまうことが多いのですが、渇水で逆に濁りの入った状態だったためか、その後も適度に釣れ続け、結局、33・33・29・27・・・と、ほんの1時間ほどで全部で6尾の釣果となりました。ここ数年、サッパリ釣れなかったこの堰堤下も、やはり釣り人が減っているのでしょうか、すこぶる魚影の濃い状態に生まれ変わっている様でした。


さて、いよいよ本命の堰堤上のプールの釣りです。時間は既に6時近くになっていますが、慌てることはありません。こういうプールでは、渇水することによって逆に透明度が若干下がり、明るくなった方が反応が良いことが多いのです。フローターを浮かべて釣り始め、予想通りに、周囲のブッシュ周りから、次々とイワナがヒットしてきました。ただ、この時期のイワナはあまり大きくありません。産卵のためなのか、40cmを越える様な大物は既に上流へと遡上を始めてしまう様なのです。釣れてくるのは35cmくらいまでの、堰堤プールでは小型のものばかり。中には20cm足らずの、Wavyを咥えることがよく出来たなと感心してしまうほどのチビイワナまで、ぞろぞろとヒットしてきます。(写真下右は桜草の仲間のオカトラノオ[岡虎の尾])


また、この時期の堰堤プールでは「煙幕理論」はあまり通用してくれません。夕立などで時おりは濁った水が上流から流れては来るのですが、すぐに透明度が上がってしまい、魚たちは広くプール全体を活動の場とすることが出来るからでしょう。その結果、餌に依存したポイントを形成することとなり、多くの場合、バックウォーター周辺に殆どの魚が溜まってしまうことになる様です。それも、バックウォーターの流れ込みの脇の、水流の殆ど無い淀んだ浅い所に沢山のイワナが集まっていることが多いものです。

また、釣り場に近づくのも最大限の慎重さを要求されます。渇水で透明度が下がっているとは言え、それでも雪代期よりは透明度は遥かに高く、不用意に歩き回ったりするとそれだけでもう何も釣れなくなってしまうのです。フローターであれば音もなくポイントに近づく事ができるのですが、岸伝いにポイントに近づくときは、静かに背を低くして、石化け木化けで近づかなければ何も釣れてはくれなかったでしょう。


今回の釣行では、フローターを使ってプールの周囲をぐるぐると回る様にしてポイントを休ませながら、Wavyを遠投することで釣果を稼いでいます。残念ながら釣りの途中でデジタルカメラを水没・故障させてしまったために写真はありませんが、35cmを筆頭に尺上3尾・全部で18尾のイワナを釣り上げることができています。この様に渇水した釣り辛い時期ではありますが、釣り場と釣り方を工夫すれば、まだまだ楽しめる様です。


【今回使用のタックル】 Wellner8ftTroutRod、シマノBioMasterXT2000、呉羽シーガーエース1号(6lb)、Wavy5S鮎(AJ)、SugarDeep50SP、Athlete55S鮎、他