薫製について詳しく研究してみたい方は、作り方や理論を紹介した書籍が沢山ありますので、是非1冊、購入をお勧めします。薫製を始めた数年前はこういった書籍が少なかったものですが、最近では実に沢山の薫製に関する書籍が出回っています。 ここでは「イワナ」だけに限定し、私の経験から得た「作り方のコツ」を中心にご紹介します。なお、ヤマメは水分が多いため、薫製には余り向きません。素材が薫製に向くか否かは、その脂肪分の高さで決まります。イワナは脂肪分が適度に多いため、渓流魚の中でイワナに優る薫製の適材は、恐らく他には見当たらないでしょう。 薫製作りは気温の下がる11月〜2月が最も良い時期です。外気温が15℃以上になると乾燥の過程でカビが生えたり虫が湧いたりします。また夏季は湿度が高く、乾燥に向かないからです。みなさんも、是非イワナの薫製に挑戦してみて下さい。
《スモーカー》 最近はアウトドアショップ等で5000円〜20000円程度で簡単に手に入れる事ができる様になりました。しかし自作する事もそう難しいことではありませんので、挑戦してみては如何でしょうか。 写真は私が6年前に自作したスモーカーです。壊れた業務用製氷機を譲り受け、改造しました。製氷機は中々見当たりませんが、古い冷蔵庫を改造する方法があります。大手の家電量販店では、新品を売った時に古い冷蔵庫を回収しています。回収された冷蔵庫は多数ありますので、手ごろな大きさの物を探しタダで譲り受ける事が可能なのです。 写真では下部に穴を空けて煙突を取り付けています。その先の金属製の箱には、これまた自作の電熱器が入っており、鍋を置いてスモークチップを燻す様になっています。下の写真右はスモーカー下部に取り付けた電熱器とファンで、サーミスタ(温度センサー・写真左/中)でこれらを管理して、室内を常に一定の温度(外気温〜70℃)に保てる様にしています。 しかし、ここまで凝って自作する必要はありません。冷蔵庫なら上下に小さな穴を空け、後ほど紹介する「スモークウッド」を仕込めば、立派な薫製機が出来あがります。どこまで自作するかは、その人の楽しみの問題であり、薫製を作るだけならそれほど手をかける必要もないでしょう。 《魚の処理》 薫製は夏の気温の高い時期は不向きです。そのため、通常は釣ったイワナを冷凍庫で数ヶ月間保存し、気温の下がる秋から冬にかけて薫製に仕上げます。お正月にその前のシーズンのイワナの薫製を味わうのも、また格別です。 魚を釣ったら、すぐに氷詰めにして素早く持ち帰ります。残念ながら、源流釣りのイワナは鮮度が落ちるため薫製には向きません。持ち帰ったら、水で良く洗い体表のヌメリをティッシュや布巾で綺麗にぬぐい取ります。次に肛門からエラブタの付け根付近まで腹を切り裂き、内臓とエラと血合い(背骨の下の血液の塊)を手でできるだけ奇麗に水で洗いながら取り去ります。血液が残っていると、解凍した時に傷みが早くなります。ラップにくるんで日付をマジックなどで記入し、冷凍庫へ入れておきます。 《ソミュール》 渓流釣りのシーズンが終わった頃には、漬け汁をたっぷりと作りましょう。私は3倍に濃縮した液を作り、使用するときに水や小量のワインで薄めて使っています。下記のソミュールの配合表は、数年前にパソコン通信Niftyの釣りフォーラムに掲載されていたものを自分なりに改良したものですが、味は最高で、私はこの配合を現在も使っています。出来上がった3倍濃縮液は、上の写真右の様にペットボトルなどに常温で保存しておくことができます。 3倍濃縮ソミュールの作り方 材料:水1.5L、粗塩600g、三温糖40g、黒粒胡椒4g、にんにく20g、クローブス2g、セージ20g、ジネーブル5g、シナモン10g、ローリエ2枚、ナツメグ半個、赤唐辛子2本、セロリ1/2本、ニンジン1/2本、玉ねぎ1/2個、パセリ少々 厚手の布袋を用意し、塩と三温糖以外のものを全部詰め込み口を紐で縛ります。大き目の鍋に水・塩・三温糖とこの布袋を入れ、30分程度沸騰するかしないかの火力で煮立てます。時々、布袋をシャモジなどで押さえて中の成分が良く溶ける様にして下さい。この時、かなり匂いが発生しますので、昼間の風通しの良い場所で作る事をお勧めします。出来上がった濃縮液は自然に冷まし、容器にいれて常温で保存します。使う時は3倍に薄める事を忘れない様にして下さい。 《薫製を作る》 では、いよいよ薫製の作り方に入りましょう。 〈漬け込み〉 まず解凍したイワナを再度奇麗に水洗いします。解凍はレンジなどを使わないで、時間を掛けて自然に融かして下さい。また、水洗いは丁寧にしないと、解凍後の魚は身が崩れやすいものです。大き目のバットやタッパに魚全体が漬かる様に多目のソミュールを入れ、冷蔵庫で12時間程度寝かします(写真上左)。冬期の気温が10℃以下の場合なら、屋外に放置して漬け込んでも構いません。この場合、フタをしっかりとしておかないと、猫などが食べにきますので、注意して下さい。 〈塩抜き〉 漬け込みは金曜か土曜の夕食後に始めると良いでしょう。翌朝起きた時にはちょうど良い時間になっているからです。漬け込みが終わったら流水できっかり1時間だけ「塩抜き」をします(写真上右)。これは魚の内部と外側の塩分濃度を平均化するための作業です。 〈風乾〉 塩抜きが終わったら、上の写真の様に、イワナの腹に割り箸をペンチなどで4〜5cmに折ったものを噛ませて乾燥しやすい様に腹を開いておきます(写真上右)。割り箸は切らずに折って下さい。折れた端のギザギザした部分がないと、うまく腹に立てる事ができません(写真上左)。 市販の網カゴに魚どうしが接触しない様に並べ、写真下の様に軒下などに吊るして乾燥します。乾燥を行う場所は、雨が当たらない事、直射日光が当たらない事、風が良く通る事、猫や子供の手の届かない事、の4つが条件になります。普通3〜4日間乾燥しますが、雨が降ったりして湿度が上がるとより長く乾燥に時間を割きます。また、魚が30cm以下の場合は2〜3日程度でも構いません。写真下右の様に魚の表面にシワができ、表面に手を触れてもベタベタしなくなったら乾燥終了です。 〈スモークチップ〉 チップは好みで使い分けますが、私は「ヒッコリー」と「サクラ」を半量づつ混ぜて使っています。他にクルミ(香りが強く肉に合う)やリンゴ(甘い香りで淡白な物に合う)などもありますが、香りはサクラが最も強く、脂の強いイワナには合う様に思います。ヒッコリーはオールマイティーなチップで、どんな種類の素材にも合う様です。 私は写真下左の袋入りのチップを混ぜて使っています。このチップは加熱のための装置が必要ですが、写真下右の「スモークウッド」を使えば、ただの箱だけでも簡単に薫製が作れます。フィルムを剥がし、端に火を付けるとちょうど蚊取り線香の様に1本で4時間程度煙を出し続けてくれます。最近は私もこちらを良く使うようになってきています。 〈薫煙〉 私の場合は魚が大き目のため、斜め右下の写真の様にスモーカーの棚の上に魚を並べて薫煙しています。当初、魚に太い針金を引っかけて上から吊るしていましたが、60℃以上の温度になると魚が軟化し、ドサドサと良く落下しました。魚の下には割り箸を敷いて並べて薫煙する様になり、失敗が無くなりました。30cm以下の魚で十分に乾燥したものであれば、針金に吊るして薫煙しても構いません。 薫煙の時間は、60℃なら4時間(温薫)、25℃以下なら2日間(冷薫)にしています。この中間の温度はいずれも細菌が発生しやすいため、避けて下さい。高温菌でも57℃を超えると死滅します。熱薫は100℃以上の温度で調理しますが、キャンプ地など以外では行った事がありません。
〈完成〉 薫煙が無事に終わったら、香りが逃げない様にビニール袋に入れ、冷蔵庫の野菜室などで保存します。1〜2ヶ月は日持ちがしますが、長時間置くと香りが変わったり、カビが生えたりしますので、早めに食べてしまいましょう。食べる時は、手で直接千切って食べても良いですが、少しだけ火で炙って食べると香りが立ち、美味しいものです。なお、手に触れると過敏症を起こす場合がありますので、子供さんや皮膚の弱い人には、直接手で触れない様に注意してあげて下さい。 それにしてもどうですか、この飴色の見事な輝きは。イワナならではの精悍な顔付きと魚体は、見る人を魅了して止みません。あなたも是非、挑戦してみて下さい。 |