日ごろ仕事の非常に忙しい私ですが、珍しく長期の休暇を得ることができたため、思い切って北海道まで一人で足を伸ばしてみました。休暇は１０月１日からの１１日間。この間、様々な渓魚たちとの巡り合いがありましたが、今回より３編に分けて、その様子をお伝えしたいと思います。第一回はアメマス編。道東の大地に広がる小河川群には、本州では考えられないような大物たちが、大挙して押し寄せていました。まさに格闘の世界でした。 （北海道での釣行には経験が浅く、以下の文中には誤解や思い違いが有る可能性があります。その場合にはどうぞご指摘下さい。）  我が社にはリフレッシュ休暇制度と言うものがあります。勤続２５年目の今年、ご褒美として連続した１０日間の休暇と、ちょっとしたお小遣いを頂けます。ご褒美を利用して、当初はカナダあたりにでも遠征して・・・と考えていたのですが、英語を流暢に話せない私は結局、海外をあきらめてしまいました。また、２５年の労をねぎらって、カミさんと旅行でも・・・とのアイデアもありましたが、どうも家内は長期には仕事が休めないらしく、結局は私一人の北海道への遠征釣行に落ち着いてしまいました。
山形から北海道へは様々なルートがありますが、少しでも時間のロスを少なくするため、今回は八戸港からフェリーで苫小牧へと入りました。写真上左はフェリーから見た苫小牧の町並みです。八戸航路は本数が多く、３０日深夜３時ころに山形を出て、朝８時半のフェリーで熟睡していれば、午後４時には北海道に到着しています。めざす道東方面へは更に車で５時間程度を要しますが、夜９時ころには最初の目的地へ到達でき、翌朝には竿を出せると考えたからです。北海道へはこれで３回目ですが、いつ見ても北の大地は広々として、牧草地の広がる風景は、なぜか心が和みます。 註：北海道の遊漁規則 （詳しくは「フィッシングルール２００５」参照） サケ、サクラマス・カラフトマス・ベニマス・ギンマス・マスノスケについては河川内では周年禁漁、海岸線および外洋では地域により秋に解禁される。ヤマメ（ヤマベ）については４～６月に河川ごとに禁漁期間が設定されている。アメマス・ニジマス・オショロコマについては、原則として禁漁期間は設定されていない。河川・地域ごとに、こまかな禁漁区間・期間・魚種が設定されている。
２日早朝、アメマス釣りでは非常に有名な、道東のとある小河川の河原に私は立っていました。小河川と言っても川幅は寒河江川と同規模の、しかし北海道らしく非常にゆったりとした流れの河川であり、流程は４０ｋｍ以上にも及びます。この地では、これでも小河川の部類の様なのです。そして、はたして初めての地で思った様に魚たちはお相手をしてくれるのか、非常に不安な中、数投目には写真上中央の２３ｃｍほどのイワナが釣れてくれました。記念すべき１尾目の渓魚です。しかしその後はこれまで経験したことのない不思議な出来事にでくわしました。
２尾目には４３ｃｍほどのアメマスがいとも簡単にヒットし、その次には1.5号のフロロカーボンをミノーとともに一瞬で引きちぎって行くヤツが現れました。或いはＤコンタクト６３のフックを伸ばして逃走する魚もいました。かと思うと写真上中央の様な、ミノーとさして変わらない小さなイワナも相変わらずヒットしてきます。本州であれば５０ｃｍまでは1号のフロロで十分耐えられるハズなのですが、はて？ここの魚達は一体？？ と不思議に思っていると、やがて写真下の様なちょっとした淵に大型の魚たちが群れているところが見えてきました。最初はウグイ？かとも思いましたが、良くみるとこれらの魚影はすべてアメマス、それも小さなもので４０ｃｍ、大きなものは６０ｃｍをゆうに超える個体が１００尾以上も群れていたのです。これには驚きました。
そして更に良くみると、アメマスたちの群れの後ろには、１５～３０ｃｍほどのイワナたちが何十尾もビッシリと砂底に張り付いています。ただ、アメマスの群れは産卵の準備なのか、数ｍまで近づいてもゆらゆらと固まったままで微動だにしません。もちろん、ルアーを投げても、一瞬群れが散らばるだけで反応せず、全く釣れません。どうやら大遠投した場合に限り、この群れの中のほんの一部の魚だけが反応し釣れていた様です。 しかしそれにしても不思議ですね。山形や福島あたりにこんな釣り場があったなら、すぐに餌釣り師たちが大挙して押し寄せ、やがてガラ掛け針で乱獲するヤカラが現れ、最後は投網で群れごと一網打尽にされ、２～３年もすると魚の殆どいない川になってしまうところでしょうね。ここ北海道の人々は大らかなのでしょうか、超有名河川でありながらこんな状態が未だに保たれていることには、驚きと同時に、この地の人たちの自然に対する愛情さえも感じてしまうのでした。
なお、この時期、アメマスやイワナは釣っても法的な問題はありませんが、数は少ないものの河川内禁漁となっている鮭も釣り場内には混棲しています。混在している以上は鮭が釣れてしまう確率はゼロにはならないためか、その場で即リリースすれば大目に見て頂いているようです（河川によっては厳しく取り締まられる所もあります）。私もアメマスを釣るうちに写真上左の６５ｃｍほどの産卵を終えたばかりの鮭を釣ってしまいましたが、写真を１枚撮影し、慌ててリリースしてやりました。この鮭ですが、なぜかしっかりとＷａｖｙ６５Ｓを口に咥えていました。産卵後でも餌を食べるだけの元気が残っていたのでしょうか。この地は何が釣れるのか、さっぱり予測がつきません。
イワナや５０ｃｍ以下のアメマスは大遠投さえすれば比較的簡単に釣れることは判りましたが、さて、６０ｃｍや７０ｃｍといったより大型のアメマスはどうやって釣ればいいのか、この時まだ私には判っていませんでした。それに1.5号のフロロカーボンでは５０ｃｍを超えるとどうやら太刀打ちできないことも判ってきました。海で大型に育ったせいか、彼らの馬力は本州で釣れるイワナの比ではないのです。広いところで育った彼らは、掛けた瞬間に大きな波を立てながら左右に走り回ります。しかもその馬力は同サイズのイワナの何倍にも感じられるほどです。この日は弟子屈に民宿を予約していたため、夕方４時には一旦納竿し、やむなく移動となりました。
３日と４日は阿寒湖や知床方面で釣りを楽しみましたが、その様子は次の第２編でお伝えする予定です。しかし、根っからのイワナ釣り師である私には、このアメマスの感触がどうしても忘れられず、当初は北へ北へと移動する予定だったにもかかわらず、急遽予定を大きく変更して、３日後の１０月５日に、再びアメマスの河川へと舞い戻っていました。そして、知床の海鮭釣りのために用意した、ＰＥ＋２０ポンドショックリーダーに９ｆｔのロッド、３０００番のリール、フックを頑強なものに取り替えたミノーを用意し、今度は大物をなんとしても釣り上げる意気込みで望みました。
５日も雲一つないとても良いお天気でした。ここ北海道では観光客が餌付けをしてしまうらしく、あちこちでキタキツネの人懐っこい姿を見ることができます。この日の朝もご覧の通りで、なんのためらいもなく私の車のすぐ横を通り過ぎていきました。平和ですね。しかしこの平和な風景とは裏腹に、私には相変わらず５０ｃｍ以下のアメマスしか手にできず、かなりイライラしていました。どうやればこの時期の大型アメマスを釣り上げることが出来るのか？ この２日間で、地元の釣り人や民宿のご主人、釣り好きの呑み屋さん、釣り道具屋さんなどから、様々な情報を集めていました。ここでご当地のアメマス論をまとめてみたいと思います。
１．北海道のアメマスも、超大型が釣れるのは道東の太平洋側に流れる河川群に限られ、他の地区ではせいぜい６０ｃｍ程度までが限界とのこと。特にオホーツク海側に流れる河川では、鮭の放流が盛んであり、鮭が優勢となっていてアメマスは殆ど姿をみることが無い様です。また禁漁河川も多いとのこと。 ２．のぼりアメマスの釣期は８月中旬から１０月一杯とのこと。しかしながら、１０月に入るとアメマスたちは恋の季節に入ってしまい、小魚などをほとんど捕食することはなくなるとのこと。もっぱら鮭の産卵による卵だけに反応し、フライではエッグ以外には殆ど反応しなくなる様です。
３．そのためか、ルアーフィッシングに向く時期は８月中旬からせいぜい９月の半ばまでとのことで、その時期であれば、大型のアメマスもミノーやスプーンで普通に釣れる様です。残念ながら、１０月に入ってしまうと、河川でのルアーでの大型は「至難の業」とのこと。地元のルアーマンたちはこの時期、河口付近のまだフレッシュなアメマスを狙っていて、上流部へはほとんど釣りに行かないとのこと。 ４．使用されるタックルは、ロッド８～１０ｆｔのＭＬかＬ、リールは３０００番クラス、ラインは最低でも１６ｌｂで多くは２０ｌｂ前後を使用、ミノーは７ｃｍ前後のもの、スプーンであれば７～１４ｇ程度のもの。ルアーカラーはイワナと同じで緑系に反応が良い。ちなみにフライでもチャートルース（若草色）のエッグやニンフが良く使われる。  ５．今回の釣り場での最近の記録は８５ｃｍであり、この地では５０ｃｍまでは小物、６０ｃｍを越えてまぁまぁ、７０ｃｍで大物と認定され、８０ｃｍを超えて初めて賞賛を受ける対象となる様です。比較するならば、道東のサイズの０．６倍程度で山形のイワナのサイズに相当する様です。今回多く釣れた４０ｃｍ台のアメマスたちは、感覚として、山形の２５～３０ｃｍ程度のイワナにしか相当しないのです。
今回、フライでも試しています。エッグでも良いのですが、私はＫフライ（タコフライの改良版）を使用しました。群れの見える淵に数ｍまで近づき、インジケーター付きでＫフライを群れに投入すると、最初は驚いて群れは散らばりますが、すぐにまた元の位置に戻って群れを作ります。何度かフライを投入するうちに慣れて群れは散らばらなくなり、更にフライを投入し続けると、やがてフライに反応するアメマスが現れはじめます。２０回もＫフライを投入したころ、インジケーターに明確な反応が出て合わせると、釣れて来たのが写真上左の４８ｃｍでした。
ただ私としては、猛然とルアーに襲い掛かってくる魚を釣りたい訳でして、こんな風にだましだまし魚を掛けるのはあまり好きではありません。２尾釣ったところで、フライは止めてしまいました。また、釣り場には写真上左の様な「生け簀」があちらこちらに作られていて、恐らく雨上がりなどの条件の良い時には、１つの淵でかなりの数のアメマスが釣れていたものと想像できます。ただ、これらの生け簀のサイズはせいぜい内径５０ｃｍほどであり、やはり大型のアメマスはそうそう釣れるものではなさそうでした。フライや餌で５０ｃｍ程度までのアメマスを１つの淵で数尾から十数尾、釣り上げていたのではないかと思われました。
この日５日も、朝マズメ４時間、夕マズメ２時間を頑張りましたが、なかなか大型は出てくれません。２日と５日の２日間で４０ｃｍ台は既に１２尾に、総数では３０尾以上にもなっていましたが、なぜか５０ｃｍオーバーはまだ１尾もいません。２日には５０ｃｍを超える大型がヒットし、ラインを引きちぎられたケースが有ったのですが、５日はそれもなく、日によって大型魚の餌に対する活性のかなり異なる様子が伺え、翌朝のアメマスの気分が気にかかります。翌６日は再び北へと移動の予定を立てており、翌朝の残り半日に望みをかけるしかありません。
しかし、この時期にルアーで大物を釣り上げる方法はないのか？ この時期に淵に群れる魚たちは恋に夢中になっていてルアーに反応が殆ど無く、釣れてもせいぜい５０ｃｍまでに限られます。しかし、２日にラインを引きちぎっていった魚の様に、瀬に出ているアメマスは盛んに餌を取っている証拠であり、中には「やる気」のある大型のアメマスも数少ないながら存在するらしい。つまり、淵の群れを狙って場を荒れさせてしまうのではなく、最初から瀬の流芯をダイレクトに遠投して狙い続けることで、大型が稀に釣れる可能性があるのではないか。２日目にして、そんな風に考える様になっていました。
翌朝もご覧の様な快晴となり、釣りにはあまり良い条件ではなさそうでしたが、いくぶん前日よりは温かく、やや期待が持てます。ただ、最初に入渓しようとした上流部のポイントでは、河原に降りようとした時に写真下中央のヒグマの足跡を見つけてしまい、いきなり出鼻を挫かれてしまいました。足跡は周辺がまだ湿っていて真新しく、たった今歩いたばかりの様にも見え、さすがにこのヒグマの恐怖は無視できず、すぐに下流部の民家の多い地区へと大きく移動を余儀なくさせられました。ただ、この移動が結果的に次の良い結果につながるとは、この時点ではまだ私も知りませんでした。
下流部のポイントは川幅も広く開放的で、倒木などの障害物もそれほどありません。平日のため釣り人は皆無です。４日前にもこの付近を釣っていましたが、その時は緩い流れの淵ばかりを攻めていました。しかし今回はそんな場所には目もくれず、瀬尻の少し下流に腰を低くして近づき、緑に着色したＤコンタクト６３Ｓを３０ｍ以上も大遠投し続ける作戦です。数回投げて釣れなければ、次のポイントへの移動は数百ｍも歩かなければならず、体力的にも結構辛いものがあります。しかも瀬には魚影は極端に薄く、たまにチビイワナがヒットしてくるくらいで、メゲそうになります。
歩き疲れてそろそろメゲそうになったころ、いきなりひったくる様なアタリがロッドにあり、波を蹴立てて魚が上流へ走り出しました。その引きは過去に釣ったイワナやアメマスには全く無かった強さであり、あまりの引きの強烈さに９ｆｔのロッドが折れてしまうのではないかとヒヤヒヤしました。幸いにも付近は障害物の殆どない広々としたポイントであり、ラインやフックも強靭なものに変えています。ドラグを鳴らし、糸鳴りをもさせながら暴れていた魚も、数分のうちには落ち着いてきてやがて降参してくれました。河原は水平に近い砂利の斜面になっていて、魚を岸へズリ上げるのは簡単です。６６ｃｍとこの釣り場では決して大物とは言いがたいサイズではありましたが、同種としてはこれまでに経験したことのないサイズであり、十分に満足できるものがありました。
しかしこの６６ｃｍ、図体はとてつもなくデカイのですが、ご覧の様にまるで幼い顔つきをしています。恐らく海で急速に大型になり３～４年でこのサイズにまで成長したのではないかと思われますが、東北の釣り場であれば、こんな広々とした透明度の高い丸見えの釣り場では、大型魚はまず相手にしてくれなかったでしょう。やはり人に対する狡猾さでは東北の大物にはかなわない様です。８～９月の盛期には、もっと大型のアメマスがこんな釣り場でバカスカ釣れているのかと思うと、目の前の釣果に反して、なぜかとても平和で静穏な気持ちにならざるを得ないのでした。
北海道釣行記は、「北の大地の渓魚達、第２編、オショロコマ他」に続きます。 【今回使用のタックル】 10/2：Wellner8ftTroutRod＋シマノSensiLiteMG2500＋呉羽SeagerAce1.5号(9lb)、 10/5･6：ウエダTroutPluggingSpinGS902H＋シマノAERLEX3000C＋PE30lb＋ショックリーダー20lb、 Wavy65Sヤマメ/緑、D-contact50/63Sヤマメ/アユ/緑、他 |
