ダム湖・湖水のルアーフィッシング
初版93年10月20日、最新版08年12月1日



1.ダム湖・湖水のルアーフィッシングとは

東北で大型のイワナやヤマメを狙うのであれば、ダム湖や湖水のルアーフィッシングが最も適しています。その広大なエリアは餌も豊富で釣り人のプレッシャーもそれほどは高くはなく、魚たちは渓流域とは比べ物にならないほど大型に育ちます。しかし釣り場は非常に広く、広範囲を探らなければならないため、ルアーフィッシング以外の釣方ではほとんど釣りになりません。超大物を狙うなら、この釣りに限ります。

なお、ダム湖と大型の堰堤プールでは、その外見は良く似ていますが、水深の違いとベイトフィッシュの存在の2点で魚の付き場や行動が大きく異なり、釣りに関する考え方も大幅に異なります。ダム湖と堰堤プールの違いについての詳細は、「堰堤プールのルアーフィッシング:堰堤プールとダム湖は似て非なるもの」をご覧下さい。以下の説明は、水深がありワカサギの放流されているダム湖や湖水についての解説になります。

2.釣り場となり得るダム湖・湖水

2-1.湖水、ダム湖に穴場はない

湖水でも、幾つかの点で渓流と共通した考え方で釣り場を考える事ができます。

(1) 都市からの距離は遠いほど良い
(2) 緯度は高いほど良い
(3) 雑誌以外の情報網を持つべき
(4) 前年の渓流魚の放流実績を参考にする

しかし、非常に沢山の釣り場の存在する渓流とは異なり、数の少ない湖水・ダム湖の釣り場は十分に開発されていると言えます。雑誌やTV、釣り具店などの情報から、実績のある釣り場を選んで釣行される事をお薦めします。こういった釣り場では、渓流の様に釣り人が殺到し魚が釣り切られて全くいないという事は、まず有り得ません。

2-2.湖水の典型的な釣り場

(1) 山上のダム湖

釣り場となるのは、建設されてから2年以上たっているダムで、上流に渓漁が棲息している(放流している)事が条件になります。又、ダムにブラックバスなどの、渓魚より優位の魚食魚が放流されている所はあまり釣れません。従って、中部地方以西の水温の高い地方にはこの様な釣り場はあまり見られません。逆に東北地方や北関東では、古いダムでブラックバスがいなければ、大抵の場合、釣果が見られます。ブラックバスの生息しているダム湖でも、水温6℃程度までの早春はブラックバスの活動が抑えられるため、釣期と成り得る場合があります。

東北においてもダム湖は沢山建設されていて、その殆どが釣り場と成り得ますが、釣れる渓魚の平均サイズや魚影の濃さには大きなバラツキがあります。ダム湖の渓魚も基本的にはその源流部の渓魚が降海して来たものであり、源流部の状況がそのダム湖の状況を決めていると考えています。そのため、以下の様な条件の整っているダム湖が有望と考えられます。

・源流部に深く長いゴルジュ帯などの釣り人の入り辛い場所が有る
・源流部の林道が奥まで整備されていないか、入り口にゲートがあり、一般の釣り人が容易に入れない
・漁協の放流活動が活発で、上流部の渓魚の魚影が常に濃い
・すぐ上流にもダム湖があり、上部ダムの放流によって夏でもダム湖間の渓流の水温が低く保たれる
・標高が非常に高く、夏でも水温が低く保たれている
・ブラックバスが居ない

(2) 標高の高い湖水

渓魚の放流されている湖水は、主に北関東〜北海道にかけて沢山有り、殆どが雑誌等で詳しく紹介されています。釣期はダム湖に順じますが、禁漁期間が設定されていない終年釣り可能な湖水もあり、真冬〜雪代期に大物が狙える釣り場もあります。釣り場は雑誌などで紹介されている実績の有るポイントを選ぶと良いでしょう。

2-3.超大物イワナの育つ条件 (2008.12.1)

渓魚は冷水性のため、ダム湖・湖水で釣れるイワナの最大サイズは高緯度ほど、また標高が高いほど大きくなります。しかしながら、緯度や標高が同程度でも個々の湖水・ダム湖によって最大サイズに大きなバラツキが見られるのも事実です。イワナが巨大化する条件には、1.水温、2.餌の量、の2つが考えられ、また、年間を通じてこの2つの条件が整っていることが重要であると考えています。

・年間を通じて、適水温(10〜15℃)が長く保たれていること。
・年間を通じて、餌の量が非常に豊富であること。

イワナが最も巨大化する例としては、北海道のアメマスがあります。彼らは年間の殆どを水温の安定した海で過ごし、また非常に豊富な餌に恵まれています。道東の一部の河川では、3〜4年で80cmを超え回帰してくる個体が確認されていて、その成長速度は年間20〜25cmにも達します。一方で関西地方の源流では、夏の高水温と少ない餌のため、30cmを超えるイワナは殆ど釣れません。その成長速度は年間10cmにも満たないと考えられます。東日本の多くの渓流では夏の高水温と冬の餌不足から、上記の成長のための条件が整っている期間は年間の数分の一しかなく、成長が阻害されています。

東北の標高のそれほど高くない堰堤プール・ダム湖・湖水では、夏季に水温が上がり過ぎることと産卵活動のため、大物たちは夏〜初冬は源流部、晩冬〜初夏は湖水中か本流で生活をしていると考えられ、源流部での餌の量と水温に成長が大きく依存していると考えています。そのため、東北の殆どの堰堤プール・ダム湖・湖水では、通常50数cmまでのイワナしか釣れません。緯度が低くなるほどこのサイズは小さくなる様です。

しかしながら、年間を通じて水温と餌の量に恵まれている釣り場が、まれにですが存在する様です。東日本で更なるイワナの巨大化が期待できる釣り場として考えられるのは、以下の通りです。

・標高が非常に高く、夏でも適水温を上回らない巨大なダム湖・湖水
・湧水が豊富あるいは、標高の非常に高い源流を擁していて、夏でも適水温を上回らないダム湖・湖水
・2連のダム湖で、上のダム湖から常に底付近の水を放流している下のダム湖

大イワナのメッカとして有名な釣り場として、新潟・福島県境の大鳥ダムがあります。このダム湖では、すぐ上流の奥只見ダムから底付近の水の放流が常に行われているため、夏でも水温が上がらず冬は他よりも水温が高く保たれています。加えてワカサギの量が豊富な上に、上流の奥只見ダムのワカサギが大量に流されてくるため、餌が常に非常に豊富に存在します。そのため、年間を通じて安定した成長が可能になっていると考えられます。

3.渓魚の付き場

3-1.ベイトフィッシュ(ワカサギ)

産卵期を除けば、渓魚たちは殆どの場合、餌を捕食するためだけの活動をしています。渓流や堰堤上のプールには、ベイトフィッシュが一切放流されておらず、渓魚たちは主に泥底の水棲昆虫を捕食するために活動しています。しかし、ダム湖や湖水では殆どの場合、ベイトフィッシュであるワカサギが放流されていて、渓魚の主たる餌となっています。ワカサギの行動が、そのまま渓魚の行動を支配していると言っても過言ではありません。

ワカサギは本来、海中で生息する魚ですが、淡水中でも汽水域でも生息可能であり、生息域は北海道から九州まで日本全土に及びます。そして、その適水温は0〜28℃と広く、環境への適応能力の高い魚です。食べて非常に美味しいことも手伝って、多くのダム湖や湖水に広く放流されている理由となっています。多くは1年魚(一部2年魚となる)であり、サケ目キュウリウオ科に属する彼らは、サケやイワナ・ヤマメと同様に、産卵のために母川に遡上する性質を持っています。

産卵の時期は地域によって大きく異なる様ですが、東北では概ね4月中旬〜5月末であり、インレット部の水温7〜8℃が遡上のタイミングとなる様です。この水温よりも低い時期は、広く湖水の中に群れをなして回遊しており、イワナやヤマメたちも回遊するワカサギを待ち伏せる形で行動している様です。しかし水温の上昇とともにワカサギたちはインレット部へと集まり始め、渓魚達もそれに吸い寄せられる様にインレット近くへと移動して行く様です。ワカサギの産卵後は、大型の渓魚たちもインレットから姿を消してしまい、小物が僅かに狙える程度になってしまいます。

3-2.水温と渓魚の付き場

ダム湖や湖水は面積が広く、場所によって大幅に水温が異なるものです。河川からの流入水の温度は、早春の東北では4〜6℃と低く比重も重たいため、多くの場合、流入水はインレットから数十m、まれに数百m離れたところで、湖水の暖かく軽い水の下に潜り込む様に消えて行きます。インレットが非常に広い場合にはその地点は判りづらいものですが、水の色が僅かに異なることや、ゴミが帯状に集められていることでかろうじて見分けることができます。


以下の説明で「水温」とは、上図の★印の付近での、表層の水温とお考え下さい。なお、インレット付近の流れは通常、非常に複雑に入り組んでおり、岸辺のどの部分で測定するかによって水温は大きく異なってしまうことも事実です。また、雨後や寒波の後には急激に水温が低下することも多く、水温は必ずしも上昇しつづけている訳ではありません。以下の説明での水温はあくまでも目安であり、一箇所の水温を測定して全てを判断する様なことの無い様にお願いします。

3-2-1.厳寒期(水温4℃以下)

東北の場合、多くの山上湖では、4月初ころまでは結氷していて、全く釣りにはなりません。氷の解け始めた一瞬がこの水温4℃以下の時期になりますが、水温4℃で水の比重が最も高くなることから、底ほど4℃に近く表層はより冷たい状況となり、渓魚もワカサギもルアーの届かない様な深い層を回遊していると考えられ、ほとんど釣りになりません。厳寒期のこの時期は、少しでも暖かい場所に餌が集まるため、魚たちも同様の場所に集まると考えています。


しかし、インレット直下の早くから結氷の開放されたごく狭い範囲で、水の淀む様な浅瀬があれば、その付近だけは水温が高くなっている可能性があり、僅かに渓魚を狙える場合があります。

3-2-2.早春(概ね水温4〜7℃)

結氷から湖水が開放されるころ、水温は4℃を超え始めます。湖水の水は深部と表層の間で大きく循環を開始しますが、水温は概ね深部で4℃となっていて、表層ほど暖かい状況に変化します。そのため、ワカサギや渓魚たちも、より暖かい浅い場所に移動してくると考えられます。山形では概ね4月中旬から5月の連休のころがこの時期に当たります。また、当地で山桜が咲き始めるころまでがこの時期に当たります。

この時期の渓魚達は、岸寄りの浅場を回遊するワカサギを待ち伏せる形で、様々な場所で狭い範囲を回遊していると考えられ、岸からの手軽な釣りを楽しめます。渓魚の付き場は、ワカサギを待ち伏せるに適した場所全てであり、概ね、以下の様なところが考えられます。ただし、浅場と言えども、水深数mと、渓流や堰堤プールに比べると遥かに深いことに注意して下さい。

・水深数mの棚状の台地、水没した田畑や道路跡など
・斜度30度程度までの緩やかなカケアガリ(斜面)(小さな岬の先端などがこの条件に当てはまる)
・埋没した立ち木や岩の付近
・小沢の入っている所
・水深1〜2mのワンドの中の陽だまり(水温が他より高い)
・その他、餌の集まる所

ダム湖では特に、水中に埋没した水深4〜5m程度までの棚状の台地で、そこに古い木や岩・くぼみや溝などのストラクチャーが存在すれば、ほぼ間違い無く渓魚たちが定位していると考えて差し支えありません。細い道路跡や田畑の跡なども水中に水平な場所を作っていて、非常に良い渓魚の付き場となっている様です。

この様な地形に渓魚が定位する理由は、浅くて水平に近い地形は渓魚からは見通しが利きやすく、ワカサギの群れが通過する際に浅くて逃げ場も少ないため、餌を摂るには良い場所になっているからではないかと考えています。

ダム湖では夏期の渇水時に水位が下がりますので、写真を撮るなど湖底の状態を把握しておくと良いでしょう。水没した田畑や道路・カケアガリ、立ち木や岩などのだいたいの位置を知っているだけでも、随分と釣果に差が出ます。また、これは根掛かりによるルアーの損失を少なくしてくれます。

3-2-3.ワカサギ遡上期(概ね水温7〜8℃)

ワカサギの遡上に適した水温に近づく頃には、インレットから遠く離れた湖水の水温は10℃を超えるほどに暖かくなっていて、ワカサギや渓魚たちは水温の低いインレット付近へとしだいに移動をはじめ、前項3-2-2で示したポイントでの魚影は急速に薄くなり、釣れても小型の渓魚ばかりが目立つ様になってきます。山形では5月の連休明けころがこの時期に当たります。

ワカサギの移動に伴って、渓魚たちもインレット付近に多く見られる様になり、湖水の釣りで最もエキサイティングな時期を迎えます。この時期はインレット直下で大型のイワナやヤマメが狙えることから、多くのルアー・フライアングラーが狭い釣り場に集結することになります。特にこの時期の大雨の直後は、まだ濁りが完全に取り切れていないほんの一瞬(透明度1m前後)に、大型のイワナがまとめて釣れることがあり、ルアーアングラーとしては絶対に見逃せない時期となります。


インレット直下の流れの強いところを釣る人が多いものですが、少し下流部の流れが淀む場所、つまり、河川流入水が湖水下に潜り込むラインの少し下流側に、大型魚が回遊していることも多いものです。ワカサギや渓魚たちは流れの緩い場所で待機し、上流を目指すタイミングを見計らっていると考えられるからです。特にイワナの場合には、障害物周り或いは岸辺の付近で比較的浅い場所を回遊しています。

3-2-4.初夏〜秋(概ね水温8℃以上)

ワカサギの産卵後、渓魚達は深場に戻った一部のワカサギを追って湖水内に広く散らばるか、もしくは河川をそのまま遡上して陸封型の渓魚となって行く場合もある様です。また、ワカサギの産卵の季節がちょうど湖水の水温の急上昇する時期でもあり、ブレイクライン(適水温の深さ)が大きく深場へと移動して行くため、渓魚達はルアーの届かない深いところを回遊し始めます。そのため、岸からの釣りでは不可能になってしまい、唯一、深いところを広く早く探れるレイクトローリングだけが、この時期の釣りになってしまいます。

4.釣れる日、時合

渓魚は餌の不足する冬期間、湖底などでじっと耐え、春とともに活発に捕食活動を始めると考えられます。雪代(雪融け水)の入り込む4月〜6月に、季節感のある釣りが楽しめます。早春ではなくとも、非常に長い期間(数日間)に渡って洪水が続くと、濁流がダム湖に溜まり続ける結果、餌が不足して早春と同じ条件が生まれる事があります。洪水が治まりかけた頃、インレット付近だけが笹濁りになる一瞬があり、大型のイワナやヤマメを狙える場合があります。

(1) 渓流との共通点

湖水やダム湖における時合は、水生昆虫の羽化時間とあまり関係のない事を除けば、渓流での考え方となんら変わり有りません。この釣りをする時期は水温が非常に低く、時合を見る上で最も重要なポイントは水温の変化になります。魚類は変温動物ですので、絶対的な水温はあまり関係なく、水温の変化が問題となります。低水温状態から僅かに温度が上昇した時に活性が高くなります。しかしながら、5月の最盛期には、水温も比較的安定して上昇しており、朝夕のマズメを中心に、終日に渡って釣りの可能な日が多いものです。

・水温は上昇中が良い
・気圧は上昇中が良い
・水の透明度(水中の視界)は2〜5mと低めが良い
・マズメ・曇天など、外界は暗い方が良い

(2) 時合は短い

渓流と異なる点は、釣れる日が少なく、時合も極端に短いという事です。多くの場合、朝夕のごく限られた短い時間帯に集中して釣れ、その時間を逃すとピタリと釣れなくなってしまいます。その時間帯は、日の出や日没時とは限らず、突然やってきます。上記の水温の変化と気圧の変化が時合いを決める主たる原因と考えていますが、今の所、気圧に関しては明確なデータは得られてはいません。

5.アプローチ

湖水やダム湖では移動する事も少なく、ポイントも遠くにある事が多いので、渓流ほどアプローチを気にする必要はありません。大物が釣れない理由としては、以下のものが考えられます。

(1) 魚に警戒心を与える音を出さない

音は非常に遠くのポイントまで届いてしまう場合が多く、湖水では注意が必要です。近くに釣り人が多くいる場合がありますが、お喋りな釣り人が近くにいる時は、静かにする様に注意を与えるか、場所を移動した方が無難です。できればたった一人で釣りができる様に、場所を選ぶべきです。他の釣り人が話し掛けてくると、ピタリと釣れなくなる事が良くあります。またガサガサと音を立てて歩き回ることも魚に警戒心を与えてしまいます。

浅瀬でポイントまでの距離を稼ぐ必要のある場合でも、なるべく岸辺に立ち、遠投すべきです。立ち込むと水中で大きな音がするため、急に釣れなくなることがあります。近くに立ち込んで釣りをしている人がいる場合も、ウロチョロと動き回る人の場合は、やはり場所を移動した方が得策です。

(2) 微動だにしない、服装の色など

湖水のポイントは遠くにあることが多く、人の動きや服装の色をあまり気にする必要はありません。しかし、水辺のカケアガリなど近くを狙う場合には、渓流と同様に注意が必要になります。釣り場をウロウロと動き回る事はもちろん、手や足を大袈裟に動かしたりする事はできるだけ避けて下さい。近くにガサガサと動き回る釣り人がいる場合は、やはり場所を移動した方が無難です。特に透明度の高い釣り場では、渓流と同様に服装の色には気を付けたいものです。原色系の服装は避けるべきです。

6.タックル

6-1.湖水用のタックル

ロッド・ライン・ルアー以外は渓流用のタックルをそのまま用いても問題ありません。ここでは渓流用タックルとの相違点について述べていますので、渓流用のタックルについては「季節の釣り:トラウトルアーフィッシング入門−ルアーフィッシングのタックル(道具)」をご覧下さい。ルアーについては項を改め詳しく解説しています。

(1) ロッド

ダム湖・湖水での獲物は渓流(20〜40cm)よりも一回り大型(30〜60cm)となりますので、ロッドも大物に耐えうるサイズを選びます。一般的に用いられるロッドは、カーボン製8ft前後のL(ライト)かML(ミディアムライト)のもので先調子のものです。このサイズのロッドはあまり市販されておらず、探すのに苦労する場合が多いものですが、サクラマス用ロッドの中から小ぶりのものを選ぶ方法もあります。

(2) リール

渓流用をそのまま流用しても差し支えありませんが、渓流用よりもやや番手の大きなものを使った方が無難です。スピニングの2000番前後のクラスで、ドラグのしっかりしているものを選ぶと良いでしょう。リールの価格は廉価版から高級品まで実にさまざまですが、1〜2万円程度のリールであれば概ね問題ありません。なお、大物に備え、釣行前にドラグの調節をしっかりと行っておくべきです。

(3) ライン

これも渓流用よりも一回り太いものを使用します。ナイロンかフロロカーボン製の6ポンドテストライン(1号)前後のものが適当です。また、PE製ラインの先端にショックリーダーを連結したシステムを使用する方法もあります。

6-2.ルアー

(1) ルアーの種類

湖水では主にスプーンかミノーを使用し、場合によってジグを使います。直線的な動きしか出来ないスピナーは、止水域ではブラウントラウトなど一部の渓魚を除き、殆ど釣りになりません。イワナの場合にはワームでも釣果は見られますが、あまり効果的ではありません。ニジマスの場合にはワームも効果的です。

水温が低い早春及び夏季の水温の高い時期には、非常に深い所でなおかつ底付近を探らなければならない事から、主にスプーンを使用します。湖水の場合には、遠投が利き、かつ急速に沈降させる目的から、渓流で使用するものよりも一回り大きなものを使います。

上記以外の場合には、シンキングミノーを使用することが多くなります。湖水では基本的に深く沈める釣りが一般的となるため、フローティングやサスペンドミノーはまず使うことはありません。ここ数年は重量のある早く沈降するヘビーシンキングミノーが多数市販される様になり、湖水の釣りのメインルアーとなりつつあります。非常な遠投を要求される様なケースでは小型のジグを使う場合もあります。

過去のデータより、イワナでは体長の約1/10、ヤマメで約1/8の長さの餌を最も好むと考えられます。これは魚の口の大きさと形状で、最も食べやすい大きさが決まるからではないかと考えています。その釣り場で釣れる魚の最大サイズを想定して、その1/10程度のものを選ぶと良いことになります。通常はスプーン・ミノーともに、5〜6cmのものが最適でしょう。

(2) カラーの使い分け

湖水でのルアーカラーの使い分けの基本的な考え方は、遠くにいる魚を広く集めるために、渓流域よりもやや明るい色を使用することです。しかし場荒れした釣り場では、黒っぽい色を試してみます。また、透明度が高い場合には暗い色を、濁りの強い場合には良く目立つ反射率の高いものを使用します。しかし、ダム湖や湖水の場合は、透明度が比較的安定していて3〜5m程度の場合が多く、特にミノーではナチュラルカラー(鮎・ヤマメなど)のものを多用します。

ヤマメやサクラマス・ニジマスの場合には、赤系統の色の混在したものが効果的な場合があります。金赤・銀赤やピンクなどのカラーをタックルに幾つか忍ばせておくと、思わぬ所で役に立つものです。イワナの場合には、赤系統のカラーはあまり釣果には関係なく、緑系統もしくはナチュラルなカラーを多用します。

(3) 実績のある古典的なスプーン

十数年前までは7〜10gの輸入物のスプーンが主流でしたが、現在では3〜5gの小型のものが非常に数多く市販され、主流になってきています。下記のリストは古典的なスプーンで実績のあるものの代表であり、現在は数百種類のスプーンの中から好みのものを選択できる様になってきています。厚みが有り早く沈降するものであれば概ね釣果は見られますので、色々と試してみると良いでしょう。
・山女魚ルアー コータック社製   500円前後 3g、5g
・ハスルアー  米エバンス社製   500円前後 4g、7g
・CONDEX SPOON コータック社製   500円前後 3g、5g
・チヌーク   ダイワ社製     500円前後 7g
元来ルアーはスェーデンや米国など、50cm以上の大型魚を相手にする釣りを対象に開発されたものが多く、日本の様な小型魚が中心となる釣り場では、輸入物は大き過ぎたと考えられます。実際、小型スプーンが出回る様になってから、湖水での釣果は飛躍的にアップしました。

(4) 実績のあるシンキングミノー

最近は比重の非常に重くて急速に沈降するヘビーシンキング(HS)ミノーが多数市販される様になり、湖水でのスプーンの主役の座をHSミノーが奪いつつあります。下記のリストはそれらの中でも特に重いミノーで、スプーンの代用と成り得るものです。なお、ミノーは新製品の開発が活発で、下記の製品を凌ぐものが今後もどんどん発表されてくる可能性が高いため、常に新しい製品に目を配って下さい。(2006年1月)
・Dコンタクト50/63S 深場から浅場まで万能に使える
・トラウトチューン55S  重く良く飛ぶ、深いポイントを狙える
・MarkBate55S  ワカサギカラーが効果的、沈降時にヒットする
・Denseミノー55S  重く良く飛ぶ、非常に深いポイントを狙える、動きは派手
上記以外にもシンキングミノーは多数販売されていて、深さ5m程度までの比較的浅い場所に限り十分な結果を得られます。また、ごく普通のシンキングミノーの腹部に鉛板を貼り付けて重くし、深場を狙える様に改造したものも良く利用します。


7.釣り方

通常、レイクトローリング以外の釣りでは、厳寒期および夏季はほとんど釣りになりません。そのためここでは、早春およびワカサギ遡上期における釣り方のみを説明します。以下の説明で「早春」は3-2-2項の季節、「ワカサギ遡上期」は3-2-3項のワカサギの遡上期を意味します。

7-1. 渓魚の活性を判断する

結氷が融けたばかりの、水温が4〜5℃の低い時期は、釣果に当たり外れが大きいものです。ルアーを投げ始めたら、魚が追い掛けてくるかどうかを意識して観察して下さい。いくら投げても魚影が見えない様な時は、あまり期待できません。私は2〜3ヶ所場所を変えながら100回程度投げ、全く魚影がなかったら釣れない日と決めて退散する事にしています。

里でサクラが咲き終わるころ、徐々に水温が上がり始めると釣果も安定し始めます。この時期は水温が上昇中の、とあるタイミングに、にわかに活性が高くなることがあり、魚影すら見えない状態が数時間も続いた後に、急にバタバタと釣れだすこともありますので、気を抜けない我慢強い釣りを要求される季節でもあります。

ワカサギ遡上期が近づく5月以降は、気候も大きく変化することなく水温も安定してきますので、上記の限りではありません。むしろこの時期は、太陽が明るく輝き出すと、活性が有ってもラインや人影を見破られてしまい、釣りにならなくなることが多く、朝・夕のマズメが概ね狙い目となります。よく晴れた日の昼間はロッドを納めることにしています。

7-2. ロッドワーク

7-2-1. 早春

(1) カウントダウン

渓魚たちは比較的浅い場所に移動してきている時期ですが、それでも水深数mと、普通の渓流や堰堤プールと比べると遥かに深い所を魚たちは回遊しています。そのため、しっかりとカウントダウンを行い、泳層をつかまなければ釣りになりません。濁りの強い日や日の出や日暮れ時などの薄暗い時以外は、できるだけ底付近を釣らなければなりません。

思いっきり遠投し、ルアーが着水したら頭の中で一定のスピードで数字を数えながらルアーを沈めます。ラインに弛みをもたせて開放しておき、水面上を引っ張られてゆくラインの動きでルアーが底に着いたかどうかを判断できます。深さがある程度判ってきたら、底に着く直前にリーリングを開始する様にします。

(2) リーリング

早春の時期は底を確実にトレースするため、通常の平坦なリーリングは殆ど行いません。水面上を引っ張られてゆくラインの動きを見ながら、ルアーが底に着いた瞬間に2〜3回ほど竿をあおってルアーを泳がせ、また底まで沈めるといった操作(ストップ&ゴー)を繰り返し、ルアーが底からせいぜい1m以内の範囲を上下もしくは水平に近く泳ぐ様にリーリングします。


ある程度深さと底の形状が判ってきたら、ルアーが着低する寸前に竿をあおってルアーを泳がせ、底ギリギリをトレースする様にします。ルアーの比重によってリーリングスピードは異なりますが、概ね、ハンドルを2〜3秒に一回転させる程度の非常にゆっくりしたリーリングとなります。水温が低く魚の動きが遅いため、強いロッドアクションはこの時期、あまり必要ありません。

なお、湖底にブッシュや根がかりし易い障害物が沢山ある釣り場では、この様な操作をするとルアーのロストが激しくなるため、お勧めできません。その場合は、減水時に写真を撮影しておくなどして、湖底の形状を把握しておくことをお勧めします。また、個々のルアーの沈降速度をカウントダウン法で小まめに測定しておき、湖底の形状と合わせて、その釣り場の大よそのリーリングスピードを決めると良いでしょう。

7-2-2. ワカサギ遡上期

この時期はインレット付近の比較的狭い範囲に魚たちが集まってくるため、深さにあまり関係がなくなってきます。しかも、水温上昇で魚たちの遊泳速度も上がってくるため、ごく普通のロッドワークで釣りが楽しめる様になります。深い場所ではカウントダウンも必要になりますが、概ね、浅い層をトゥィッチを掛けたりストップ&ゴーを繰り返すなどして、普通に釣れます。

トゥィッチとは、竿先を鞭を叩く様に強く早く小刻みに動かして、主にミノーを左右上下に激しく泳がせながらリーリングしてくること。ストップ&ゴーとは、ミノーやスプーンをカウントダウンした後、大きく竿をあおってルアーを1〜2mほど素早く引き、その後1秒程度止める、を繰り返すことを言います。特にイワナにはストップ&ゴーが効果的です。

7-3. 魚が追い掛けて来た時の対処法

魚が追い掛けて来るのが見えた場合は、釣れる可能性が有ると見て、すぐに諦めないで下さい。なかなかルアーを咥えてくれない様な日の対処方法としては、以下の様な方法があります。

・ルアーの種類や色を変えてみる
・ロッドアクションをいろいろと変えてみる
・細目のルアーを使って、竿先を水中に突っ込みながら、途中から速く引いてみる
・魚が見えたら、急に速くルアーを引いてみる、もしくは左右にルアーを泳がせてみる
・魚が見えたら、リーリングを止め、ルアーを少し沈めてから、急に引いてみる
・投げる方向を変えてみる

7-4. 向こう合わせでは釣れない

リーリング中に少しでも竿先に変化を感じたら、とりあえず竿先をあおって合わせて下さい。止水域では流水域に比べてバレる確率が高く、向こう合わせではなかなか釣れません。また魚がヒットしたらできるだけ早く魚を回収して下さい。もたつく事は魚をバラしてしまうことにつながるだけでなく、場を荒らしてしまって続けて釣れなくなってしまいます。

8.ダム湖・湖水のボートフィッシング (2008.12.1)

釣り場となるダム湖や湖水は、標高が高く周囲の険しい場所に多くあり、そういった釣り場では岸部に立てる場所が限定されているため、狙えるポイントも限られてしまいます。そのため、最近はゴムボートを使って釣りを楽しむ機会が増えています。特に電動船外機(エレキ)付ゴムボートは移動速度も適度で、騒音も無く、広大なエリアを素早く移動しながらポイントを探ることが可能です。

8-1.ボートフィッシングの注意点

非常に便利で良く釣れるボートフィッシングですが、東北・北関東では、レイクトローリングやボートの使用を禁止しているダム湖や湖水が沢山あります。特にガソリンエンジンの船外機は、その排気による水質汚染の問題から、多くのダム湖で使用が禁止されています。釣行される場合には、事前に現地の漁業組合・ダム管理事務所などに確認されることをお勧めします。

山形県内と近隣の湖水でのボートなどの規制状況は、「釣り場Map:渓流釣り・堰堤釣り解禁情報」内に一部記載しています。なお、海面でのトローリングは殆どの県で禁止されていますが、内水面でのトローリングについては、県単位あるいは漁業組合単位で規制が行われており、新潟県・山形県における内水面でのトローリングは禁止されていません。

ボートは大がかりな装置ゆえ、他にも気を付けなければならない点も幾つか存在します。

・搬入・搬出する場所が限られる。多くのダム湖では、ボートを搬入するための通路はありません。
・搬入・搬出のための時間は、ゴムボートの場合で、それぞれ20分前後必要となる。
・小型のエレキ付きボートでも総重量は50kgを超え、1人での搬入・搬出には限界がある。
・巨大なダム湖・湖水では、移動距離が大き過ぎてエレキ付きゴムボートでは全てをカバーできない。

また、水上で完全に命を預けるボートは、ちょっとした判断ミスが命にも関わる事態を招きかねません。無理な行動は死に直結していることをお忘れなく。

・必ずライフベストを着用する。
・ゴムボートは風に流されやすく強風下は危険、手漕ぎの場合は強風が吹き始めたら引き上げる。
・バッテリーの消費時間を計算に入れて移動する、風が強い時は、手漕ぎでは戻れなくなることがある。
・ゴムボート・カヌーなどはフローターよりも安定性が悪い、立って釣るなどは危険。
・空気漏れや低水温による内圧の低下に備え、エアポンプ・補修キットは常に搭載しておく。

8-2.免許不要ボート、エレキ、バッテリー、魚探の選び方

数年前までは高価で高嶺の花だったボートも、2003年11月の船舶免許基準の改定以降、状況が大きく変化しました。改正により登録長3m(全長3.33m)未満で2馬力(1.5kw)未満の船には船舶免許と船体検査が不要になりました。そのため一気にボートユーザーが増え、それに伴って免許不要ボートやエレキの価格急低下と品揃えの増加が起きたのです。免許取得のための費用も含めると、以前は30〜50万円程度も必要だったエレキ付きゴムボートも、今では10万円以下で手に入るまでになっています。

ごく普通のダム湖・湖水の釣りでは大型のボートや強力な船外機は必要ありません。ここでは手軽に利用できる免許不要ボートについて紹介します。また、ガソリンエンジン船外機については、使用を禁止されているダム湖・湖水が多く、ここでは扱いません。

8-2-1.ボート

免許不要な全長3.33m以下のボートは数社から発売されていて、今ではその種類は100を超えます。大きさも1.5m程度から3.33mギリギリのものまで様々なものが発売されています。ゴムボートの素材は主に2種類あり、ハイパロンは軽くて耐候性に優れる半面、高価で大型のものが多く、5人くらいまでの多人数での釣行に向いています。PVC性は重いですが、安価で小型のものが多く、1・2人での釣行に向いている様です。

ゴムボート以外にも、アルミボート、FRP、インフレータブルカヌー、フロートボート、ポーターボートなど選択枝は幾つか存在します。しかしながら、渓魚を対象とする釣り場は険しい場所にある山上のダム湖や湖水が多く、搬入・搬出の利便性を考えると、折り畳めるボート・カヌーかポーターボートがお勧めです。お金に十分な余裕のある方であれば、折り畳めて軽く、速度も出て、なおかつ安定性も非常に高いポーターボートの8ftか10ftを最もお勧めします。

手漕ぎでも釣りは可能ですが、後述するハンドトローリングを行える様、船外機対応型のものをお勧めします。また、ゴムボートは風に弱く、手漕ぎでは強風下では大変危険となるため、この点からもエレキの使用をお勧めします。

小型ゴムボートやポーターボートでも、エレキやバッテリーまで含めると総重量50kgを軽く超えてしまいますので、普段メインに釣行されるダム湖・湖水の規模と、釣行人数を十分に考慮して、ボートの全長を決められることをお勧めします。私の場合、単独釣行が多く、船内スペースはそれほど必要ないことと、一人でも持ち運びが可能なように2.2m長のPVC性で船外機対応のゴムボートを使用しています。

ZehpyrBoatZR-220MH・MinnkotaRT40S(28in)・Voyager105A  これだけで24kg+8kg+24kg=56kgにもなる

8-2-2.電動船外機(エレキ)・バッテリー

エレキについては、どの製品を購入してもそれほどの差は無い様です。現在市販されているエレキは、全て2馬力以下(多くは0.5馬力前後)であり、どの製品を購入されても免許は必要ありません。

エレキを動かすためにバッテリーが必要ですが、現状ではVoyager(ACデルコ社製)の105Aが最もお勧めです。充電器も同時に必要ですが、製品の中には、繰り返してフルに充電できないタイプのものがありますので、注意が必要です。また、メインバッテリが完全に放電した場合を考え、小容量の予備バッテリーを搭載しておくことをお勧めします。

8-2-3.魚群探知機(魚探)

ダム湖や湖水の水深は100m以内であり、海釣り用に開発された深さ数100mに対応する魚探は必要ありません。むしろ水深2〜3m程度の湖底の様子が明確に判断できる性能が求められます。そのため、バスフィッシング用に開発された水深100m以下の探査を目的とする魚探がボート釣りに向いています。また、水温計があると表層の水温をリアルタイムに把握でき、便利です。

ちなみに、イワナはストラクチャーに隠れてワカサギなどを待ち伏せている場合が多く、イワナの魚影を魚探で直接見ることは普通できません。そのため、水深の把握と湖底の様子・ストラクチャーの有無を確認する事が主な目的となり、魚探は無くても十分に釣りは可能です。

8-3.釣期

ここで述べる釣法は渓魚が水面下数mを遊泳する時期を対象とするため、釣期は、3-2-2項で述べた「早春の釣り」の時期になります。3-2-3で述べた「ワカサギ遡上期」でも、インレットから少し離れたポイントであれば、この釣法が可能です。

8-4.地合い、付き場、タックル

地合い・渓魚の付き場に対する考え方・使用するタックルについては、岸からのキャスティングとなんら変わりはありません。

8-5.釣り方

ダム湖・湖水でのボートフィッシングには、普通のキャスティングによる方法とトローリングの2種類に分かれます。また、トローリングには一般的なレイクトローリングと簡易なハンドトローリングがあります。

一般的なレイクトローリングにはレッドコア方式、ダウンリガー方式などがあり、いずれもブレイクラインの深くなった初夏以降に、数m〜十数mの深い場所を探る釣り方に向いています。これらの釣り方については、長い歴史の中で既に研究し尽くされています。こういった古来よりのトローリング技法については、専門の解説書が多数出回っているほか、専門に解説するサイトも多数存在しますので、そちらをご参照下さい。

8-5-1.キャスティング

ボート上からごく普通にルアーを投げて釣る方法です。使用するロッドやルアーなどのタックルも、ポイント・魚の付き場に対する考え方も、岸からのキャスティングとなんら変わりはありません。ここでは、岸からのキャスティングとの相違点のみを記載します。

・沖合から岸に向かって、ストラクチャー周辺や小さな流れ込みを狙ってルアーを投げるのが基本となる。
 時には岸近くに停泊し、岸と並行に水深数mのラインをストップ&ゴーでルアーを泳がせる。
・岸沿いのカケアガリや沈んだ藪を沖合から釣るため、カウントダウンの必要性は少ない。
 カケアガリでは、ルアーを徐々に沈めながら底付近をトレースする様にリーリングする必要がある。
・渓魚たちは普段から岸辺の動物や上空の鳥に脅かされていて敏感だが、沖合のボートに対しては
 警戒心が薄い。そのためアプローチにそれほど気を使う必要は無い。
・岸からの釣りでは狙うことが不可能な、垂直に切り立った岩盤の下が良いポイントになる。
 ルアーは、岩盤に並行に、水深数mの深さで、ストップ&ゴーで泳がせる。

カケアガリ・ブッシュ周り垂直に切り立った岸壁の下

8-5-2.ハンドトローリング

「ハンドトローリング」とは仮に私K++が名付けたものであり、本当は何と言う名前の釣法なのかは定かではありません。この釣法は普通のキャスティングタックルで流し釣りを行うものであり、エレキが必須となります。早春における小型ボートの釣りでは、一般的なレイクトローリングよりもこのハンドトローリングをメインの釣法とすることが多くなります。

(1) タックル

使用するロッドやルアーなどのタックルは、キャスティングで使用するものと全く同一で構いません。1本のロッドと同じルアーで、ある場所ではキャスティング、別の場所ではハンドトローリングと、使い分けが可能です。

(2) アクションはストップ&ゴー

何もアクションを加えずに真っ直ぐにルアーを引いているだけでは、あまり釣果は上がりません。キャスティングでも多用するストップ&ゴーを併用します。最初、岸辺から5〜10mほど離れた位置にボートを移動し、軽く岸沿いにルアーをキャストします。遠投の必要は無く、20〜30m程度の距離で十分です。そしてすぐにキャスト方向と反対側にボートをゆっくりと走らせ、片手でハンドエレキのレバーを操作し、岸沿い数mを走行しながら、もう一方の手でロッドを前後に扇状にゆっくりと動かしてルアーにストップ&ゴーのアクションを加えます。

この時、ロッド先端ができるだけ長い距離をもって動く様に操作します。また、ロッドを後方に送るときはラインテンションがゼロになる様にロッドの移動速度を調整します。これはルアーをフォールさせて、できるだけ深い所まで沈める必要があるからです。ルアーが水面下1mから3m程度の範囲をノコギリ歯状に泳ぐのが理想的です。ハンドトローリングによって釣果の上がらないのは、ルアーの沈みが足りない場合が殆どです。

また、ミノーの場合は確実にウォブリング(ミノーが首を振って泳ぐ)を行わせて下さい。ウォブリングはロッドに伝わる低周波の振動で判断できます。ウォブリングしない状態では、幾らミノーを流していても、大抵の場合、何も釣れません。


(3) ボートの操作

ボートは岸に沿って水深3〜5m程度のラインをトレースするように操作するのが最も釣果が上がります。ただし、切り立った岩盤や土手の際を釣る場合は、岸から1〜2mの範囲をルアーがトレースできる様にボートを操作します。イワナは岩や藪・木の根元などのストラクチャーに付いていますが、そういった場所からルアーが十分に見える距離をトレースすることが肝要です。

ミノーの場合は、ルアーを引いている時(ロッドを前方に動かしている時)に、ミノーが確実にウォブリングを行える速度でボートを走らせます。これは普通、人が早く歩く程度の速度となります。エレキやゴムボートの種類にもよりますが、5段階の変速式であれば2段階目前後での走行が最も釣りやすく、釣果も上がる様です。

ちょっとした岬の先端や沈んだ藪の上を通過する時に魚がヒットすることが多く、そういった場所は夏の渇水時に写真を撮影しておくなどして、覚えておくと便利です。また、魚探があればルアーがポイントを通過する直前に大よそのポイントの状況が判断でき、大変便利です。

9.ダム湖の減水直後の釣り(居残りイワナ釣り)(概ね6月) (2008.12.1)

北関東や東北の殆どのダム湖は5月初のゴールデンウィークのころに満水となりますが、その後は梅雨の洪水に備え、6月初にかけて人為的に急速に水位を下げます。ダム湖内での釣りではありませんが、この水位の急速な低下が、ダム湖上部の渓流で、我々トラウトアングラーに大物狙いのビッグチャンスを与えてくれます。(注:天然の湖では以下の考え方は当てはまりません)

9-1.釣り場

水位の低下はダム湖によって異なりますが、山岳部の周囲の険しいダム湖ほど変化が大きく、10m〜30mにも達します。水位が低下するとインレット(流れ込み)が上流部から下流部へと大きく急速に移動することになり、満水時には湖であった場所が、ある日突然、流れの早い渓流に変化することになります(下図)。

南東北ではちょうどこの頃にワカサギの産卵時期を迎えるため、ダムの減水と時を同じくしてインレットにワカサギが集まり始め、そのワカサギを狙って大イワナたちがインレット付近に集まってきます。そういったイワナたちの多くは、急に水位が低下してその場所が渓流になっても、そのまま同じ場所に留まり続けている様なのです。その結果、満水時のインレットから減水完了時のインレットの間のごく短い区間に、大物が点々と生息する状況が生まれることになります。

満水時のインレットの場所は、周囲の崖や斜面に生える草の状態や泥の付き具合で容易に判別が付きます。多くの場合、ダム湖の水面下にあった場所は草があまり生えておらず、岩や枯れ木に新鮮な泥が沢山付着しているものです。減水完了時のインレットから満水時のインレットまでの区間は、数百mから1km程度のダム湖が多い様です。満水時のインレットより更に上流部へ釣り上がると、通常、小さなイワナが僅かに釣れるだけに変化します。


9-2.釣り方

この区間での釣り方はごく普通の渓流での釣り方に近いですが、40cmを超える大物が中心となるため、以下の様な特別な考え方も要求されます。

・大物は落ち込みの泡の下よりも、淵尻の流れの緩い場所に多く定位している。
 普通の渓流釣りの様に、安易に淵尻に立って釣ることは禁物。
・大物は警戒心が強く、また目も良いため、通常のイワナよりも遠投と忍び足を要求される。
 また、この時期は透明度が高くなっていて、これも遠投を要求される一因となる。
・淵尻の流れの緩い場所では、ルアーを底付近まで沈めたストップ&ゴーが有効となる。
 通常の落ち込み下の獲物に対しては、普通のトゥィッチングによる釣りが可能。
・ウグイもこの区間の一大勢力となっていて、餌釣りではウグイがヒットしてしまうため、釣りにならない。
・小さ過ぎるミノーやスプーンでのスローリトリーブはウグイを先にヒットさせてしまう。
 5cm前後のシンキングミノーが最適。

9-3.釣期

6月も末ころを迎えると梅雨の大雨による増水がやってきて、闘争力の強い個体は産卵準備のために源流部へ遡上し、弱い個体は再びダム湖へと降海してより大型のアメマスへと成長してゆくと考えられます。北海道のアメマスや堰堤プールのイワナも、7〜8月の大雨の増水が遡上のトリガーとなっていることは良く知られています。従って釣期は6月の初から末頃までの1ヶ月程度となる様です。

9-4.その他

ちなみに、堰堤プールでは人為的な水位の低下が無く、降雨により水位が上下し、インレットも盛んに移動します。また、水位の変化は通常0〜4m程度と少なく、インレットの移動距離もダム湖ほどは大きくありません。加えて、ワカサギが放流されておらず、産卵のための遡上準備としてだけインレットに魚が集まります。そのため、インレット上部に大物が残る現象は見られますが、釣れる範囲も狭く、釣れる尾数も少ないのが普通です。天然の湖では水位の変化が殆ど無い場合が多く、同様の現象は見られません。