渓流のルアーフィッシング
初版1993年10月20日、最新版2010年1月12日


このページは、これから渓流・源流域でのルアーフィッシングを始めてみたいと思っておられる人のために、渓流での考え方、釣り場、釣り方、タックルなどについて紹介しています。また、渓流だけでなく、流水域でのルアーフィッシングの基本的な考え方も併せて説明しています。この内容は餌釣りやフライ・テンカラ釣りの人にも、きっと役に立つことでしょう。

1.渓流のルアーフィッシング

1-1.釣り人の腕前を考える

釣り人の腕前とは何でしょうか。竿や仕掛けを操作する技術だけで語れる様なものでは決してありません。腕前として考えられる物を、プライオリティの高い順に書き出してみました。この手引書では、以下の順に重点を置き、また解説の順序とします。

(1) 釣れる渓(釣り場)を探す技術

どんな名人でも魚のいない場所では絶対に釣れません。実際に日本の渓流を見てみると、全く魚のいない渓流が数多く存在します。魚影の濃い場所を見つける技術こそが、釣りの腕前の最も重要な要素だと考えます。

(2) 釣れる日、時合いを見分ける技術

ルアーフィッシングには全く何も釣れない日が比較的多く存在します。釣れそうな日に釣れる時間帯に竿を出し、それ以外の時間は野山を楽しんだり昼寝に当てましょう。

(3) 歩く技術、アプローチの技術

渓魚は非常に警戒心の強い魚ですがその反面、非常に貧欲です。警戒されない様にポイントに近づく事ができれば、あとは釣れた様なものです。

(4) ポイント(魚の付き場)を見分ける技術

ルアーは広い範囲を一気に探る事ができるため、あまりポイントについて意識する必要はありません。しかし大物を釣るためには、付き場の知識も大変重要になります。

(5) 竿、仕掛けを操作する技術

これは他の釣りと比べてそう難しいものではありません。上記(1)〜(3)の条件が揃えば、適当にルアーを投げてもある程度は釣れるものです。

(6) 釣れる道具を作る技術、探す技術

(7) 楽しく釣る技術、釣りを楽しくする技術

項目(6)(7)については、詳しい解説は行いません。

2.釣れる渓を自分で探す

2-1.いろいろな条件を多角的に考える

(1) 釣れる地域、都市からの距離

一般的に人口の過密な地帯から遠くなる程、魚影は濃くなります。考え方としては、東京や京阪神・中京など、大都市から1泊2日で釣行できる範囲(通常片道5時間程度)を、高速道路などの交通の便を計算に入れて割り出します。又、県庁所在地などの中都市から日帰りできる範囲(通常片道2時間程度)を割り出します。

これらの範囲内の釣り場では、全く魚のいない渓流が数多く存在します。しかし、この範囲を越えて釣行に出掛けるのは実際には困難ですので、以下の方法を参考に、少しでも魚影の濃い釣り場を見つけ出して下さい。

(2) 緯度/平均気温

ここで対象としている魚種は全て冷水性の魚です。アマゴは中部以北、ヤマメ/虹鱒は東北地方が最も棲息環境として優れていると考えられます。又、イワナやアメマスは北海道など、より北の地方が棲息環境として優れていると考えられます。一般的に、南方へ行く程、大きさ(型)、数ともに見劣りする傾向が有ります。

(3) 釣れる年と釣れない年

同じ釣り場でも、釣れる年と釣れない年ができます。特に都市近郊の釣り場でこの様な現象が良く見られます。釣れると口コミなどにより釣り人が殺到し、その釣り場の魚は釣り切られてしまいますが、その後「釣れない場所」として多くの釣り人から認知され、釣り人が激減します。その結果、3〜4年を周期に魚影が復活します。

普通、一度良く釣れた場所へは何度も通いがちですが、釣り人が急に増加し、同時に釣果が落ちて来た場合は、資源量のピークを迎えたと考え、別の釣り場を探します。最近2〜3年、話題にも登らなかった様な渓で、過去に良く釣れた渓が有望です。

また、景気の動向や釣り・アウトドアのブームによっても釣況が変化します。景気の悪い時期には安価なレジャーである釣りやアウトドアがブームに成りやすく、それに伴って釣り人口は爆発的に増加するため、魚が釣り切られやすい状況が生まれます。「景気の底」と言われる年から1〜2年後に、釣り人口がピークを迎える様です。

(4) 有名過ぎる釣り場は避ける

雑誌やTVに取り上げられた釣り場は、殆どの場合、魚影は薄いと考えて間違いないでしょう。取材時には濃かった魚影も、極く短い期間に多くの釣り人が殺到し、魚は釣り切られてしまいます。釣り雑誌などを時々チェックし、頻繁に取り上げられている釣り場は避ける様にした方が無難です。

しかし、有名な釣り場は餌の状態や魚の放流量が良い場合が多く、逆にこれらの中から最近1〜2年、雑誌やTVに取り上げられていない釣り場を探すと、思わぬ良い釣果に出合える場合があります。

(5) 雑誌以外の情報網を持つ

雑誌などとは違うメジャーでない情報網を持ちましょう。例えば、仕事先の釣り仲間、漁業組合の人、釣り好きな商売人、釣り好きな医師、渓流釣りのブログやホームページなどです。これらの人達から積極的に情報を集めて下さい。釣り道具屋さんなど、その地区でメジャーな存在からの情報は当てになりません。

(6) 前年の渓流魚の放流実績を利用する

大抵の漁業組合では、前年の渓流魚の放流実績を公表しています。多くの場合、印刷物が出回っています。年により放流実績が異なりますので、参考にして下さい。

(7) ルアーフィッシングのできる渓流

一般的にルアーフィッシングは、川幅の広い本流で行うものと考えられている様ですが、そうとは限りません。ルアーフィッシングに向く渓相は確かに有りますが、釣り人が嫌う薮だらけの源流部から餌竿の全く届かない様な本流の大川までルアーで釣る事が可能です。自分で釣り場を固定せずより広い範囲を考慮に入れる様にしましょう。

2-2.地形図を見て渓流を読む

国土地理院発行の2万5千分の1地形図を見て、釣れそうな場所の見当を付ける事ができます。地形図は大型の書店などで販売されているほか、ネット上でも閲覧サービス(国土地理院「地図閲覧サービス」など)を利用することが可能です。


(1) 山の高さと水量

高度1500m前後の山を源頭に持つ渓が最も渓流釣りに適します。2000m超の源流を持つ渓は多くの場合、いわゆる「荒れ川」が多くかえって魚影は濃くありません。逆に1000m以下の場合は、水量が安定せず、大型の魚は育ちません。

(2) 流域面積と険しさ

釣り場の上流部の流域面積を求める事により、その釣り場でのおおよその水量を知る事ができます。また、渓を横切る等高線の密度からその渓の険しさを知る事ができます。おりに触れて地図を見る事で、水量と険しさの程度を判断できる様になります。

険しく水量の少ない渓では大物は育ちません。大物の釣れる渓は、5万分の1地形図の場合、等高線の密度はせいぜい1cm(500m)当たり2本(40m、等高線1本は20m)、つまり1kmで80m登る斜度までで、ルアーフィッシングに向く渓は、2cm当たり1本(1Kmで20m登る斜度)程度の極く緩い斜度が理想的です。

(3) 谷の深さ

地形図の水線の太さや、その脇の山の等高線の密度から、谷の深さが判ります。水量に反して狭過ぎる渓では遡行するのに困難な上、ルアーフィッシングには向きません。

(4) 堰堤など

渓流のルアーフィッシングでは典型的な釣り場が幾つか存在します。その代表である堰堤などを地形図から読み取り探す事ができます。釣りをする時間の少ない時などは、地形図から堰堤など好ポイントだけを探しだし、拾い釣りをします。

2-3.ネットの航空写真から渓流を読む

Google Earth(グーグル社)など、航空写真を無料で提供しているネット上のサイトを利用して釣れそうな場所を探すことが出来ます。

(1) 解像度

ネット上の航空写真は、山岳部では解像度が低い場合が多いのですが、大まかな渓流の太さ、滝や堰堤プール・瀬・淵の存在を確認することができます。地区によっては解像度が高い写真が用意されていて、高度500m程度の高さからの図では、詳細な道路の位置、堰堤プールの状況、滝壺の形状までもを自宅に居ながらにして確認することができます。

(2) 航空写真の撮影時季

航空写真は地区によって撮影された季節がさまざまですので注意が必要です。山の木の葉の色や積雪の状況をみて、撮影時季を判断します。水量は4〜6月ころは雪解け水で多くなっていますが、8月になると水量は数分の一以下に減ります。また、淵などの水の濁り具合から増水の状況を判断し、実際の釣行時の水量を推測して下さい。

2-4.穴場を探す

穴場は人から聞いたのでは、なかなか見つかりません。上記の項目を参考にして、自分の足で探して見て下さい。穴場の候補となる場所として考えられるのは以下の通りです。しかし、この様な釣り場は往々にして水質や景観の好ましくない場所が多く、必ずしも釣りの楽しさが大きいとは限りません。釣果と釣りの楽しみとのバランスを欠く事のない様に心掛けて下さい。

概ね下記の様な釣り場は下流部の里川に多く見られます。いかにも釣れそうな渓相の釣り場は、概して魚影が薄いものです。釣れそうもない所でルアーを流してみて下さい。大物が思わぬ所から飛び出してくる事があります。

(1) 餌釣り師が嫌う場所

・薮に覆われていて、餌竿が出し辛い所。
・川幅が太過ぎて、竿が届かない所。
・2段になった堰堤の中段のプールで、餌竿が出せない所。
・渓流魚よりもウグイなどの外道が先に釣れてしまう所。
・瀬が連続していて、餌釣りではポイントがはっきりしない所。
・芦原の中を真っ直ぐに流れている所。
・水量が異常に多い所。

(2) とても魚がいるとは思えない場所

・護岸された用水路。
・ダムの下など、夏期に水がなくなってしまう所を増水時に狙う。
・大きな町の中を流れる渓。
・高速道路の真下やいつも人通りの多い所。

(3) いくら魚を釣っても、釣り切れない様な場所

・芦原が沢山ある所。芦原の中の渓魚が補給される仕組みになっている。
・川幅が数十mもある本流や、超大型堰堤の下。
・イワナやヤマメの養殖場の近く。

(4) 典型的なルアーフィッシングに向く穴場の一例

「1500m前後の山を源頭に持ち、上流にダムか大きなプールが有り、その下流部に低い堰堤が短い間隔で連続し、堰堤と堰堤の間が芦原で埋め尽くされている所」

この様な渓では、水量が多くしかも安定しています。ダムで水の流れが引き伸ばされ水中の栄養分が多くなり餌も多くなります。芦原のため餌釣り師に嫌われ、釣り人が比較的少なくなります。堰堤下で餌釣り師が釣りますが、近付き過ぎなければならず、多くの場合小魚しか釣れません。しかも魚は芦の根元に沢山隠れていて、釣っても釣っても魚が芦原から補給される仕組みになっています。

渓魚の適水温はヤマメ・アマゴで12℃前後と言われます。イワナはこれよりも更に低いと考えられます。中部地方以西の真夏の水温が高くなり過ぎる渓では、上記の条件を満たしていても渓魚がいるとは限りませんので注意して下さい。このタイプの釣り場の代表として、山形県最上郡の最上白川があります。ここはTVや雑誌に頻繁に紹介されている非常に有名な渓ですが、魚影は非常に濃いのです。

2-5.釣り場に着いてから状況を判断する

(1) ゴミの量など

ゴミの量で釣り人の混雑度を判断しなければならないのは大変哀しい事ですが、誰もが駐車しそうな場所や入溪点に餌箱やジュースの空缶が散乱している様な釣り場には、たいていの場合あまり魚はいません。

(2) 道の状態/足跡

入溪するための道が幾つも付けられている様な釣り場も同様です。入溪点の草の折れた状況をよく見て下さい。特に草の折れた部分が新鮮な場所は避けて下さい。また、砂地の場所を見つけて足跡の数(足型の種類)を数えて下さい。最後の増水の日から今日までに何人の釣り人の足跡があるかで、混雑度が判別できます。

(3) 水質

水が青く透明度の高過ぎる渓は、一般に水生昆虫の餌となるプランクトン等が少なく餌の状態が悪いため、魚影は薄いものです。この様な渓では大型魚の数はごく少ないと考えられます。

(4) 魚影を確認する

典型的なポイント(淵などの大場所)でまずルアーを投げてみて下さい。大型の魚が追い掛けてくるかどうかを最初に確認して下さい。数回ルアーを投入してみて、何の反応も無い場合は、そのまま釣り続けても期待の出来ない場合が多いものです。

3.釣れる日、時合

3-1.釣れるための2つの要素

同じ釣り場で、昨日は良く釣れたのに今日は全く釣れない、という事があります。又、良く釣れていたのに、時間の経過とともに、まるで魚がいなくなった様にピタリと釣れなくなる事があります。ルアーフィッシングにおいては、この様な現象が他の釣りに比べて特に多く見られます。魚が釣れるためには以下の2つの要素が考えられます。

(1) 渓魚が餌を捕食している状態である事(高活性)

東北地方ではこの状態を「餌(え)ばかけ」といい、ブラックバス釣りで言う「活性の高い状態」に当たります。渓魚の場合、捕食していない状態では魚は水底に静止するだけで、餌やルアーに反応しなくなってしまいます。

(2) 渓魚から釣り人の姿が見えにくい状態である事(低視界)

渓魚は他の魚に比べて上空の動く物に対して非常に敏感に反応します。釣り人や鳥の動きを捕らえると、岩陰などに隠れてしまいます。渓魚に姿を見られない様にする方法については次項の「アプローチ」で詳しく説明します。

3-2.高活性の条件

(1) 水生昆虫の羽化時間

渓魚の餌は主に水生昆虫(カゲロウの幼虫など)です。餌が頻繁に流れてくると渓魚は狂った様に捕食を始め、ルアーに対しても何のためらいもなく反応する様になります。そのため「餌ばかけ」は多くの場合、水生昆虫が羽化する時間と一致します。大型の魚も、水生昆虫に集まる小魚を捕食するため、同時に活性が高くなります。

水生昆虫の羽化時間は季節やその日の気温によって変化します。通常、早春や晩秋の平均気温の低い時は真昼の暖かい時間に、真夏の平均気温が高い時は朝マズメ(早朝の1〜2時間)と夕マズメのごく短い時間に集中して羽化します。

山形市の日の出/日の入時間、気温の平年値の年間推移とカゲロウ類の羽化(羽化時間のみ推定値)

横軸に季節(月)、縦軸に時間を取り、羽化する時間をプロットすると、グラフはちょうど人の唇のような形になります。これを「モンローのキスマーク」、東北では「馬の口型」といい、季節による渓流釣りの時合いの目安としています。このグラフは当然、地方や標高により異なってきますが、あなたの釣り場に合わせて「キスマーク」を想定し、時合いの参考として下さい。

(2) 水温の変化

魚類は変温動物のため、絶対的な水温はあまり問題とはなりません。イワナ・ヤマメでスピナーを使用した釣りの場合、5℃〜18℃の範囲で釣れた実績があります。又、ミノーやスプーンを使用した釣りでは、深く沈めることが出来ることから、より低い水温でも釣れ、1℃でも釣果を見ています。渓魚の適水温は12〜15℃と考えられ、イワナの方がより低い水温を好みます。

より問題となるのは、水温の変化です。殆どの魚類で、水温が適水温に近付く方向に変化した場合に活性が高くなります。早春にはポカポカと日の当たる日が良く、逆に真夏は雨などで水温が低下した時に活性が高くなります。水温の変化は観察しづらいので、天気予報の前日からの気温の変化や雨の状態を参考に、水温の変化を推定しながら最適な時間帯を見極めて釣りに出掛けると良いでしょう。気温の変化やピンポイントでの直近の雨量などは、ネット上の情報(川の防災情報など)から容易に得ることができます。

(3) 季節による変化

季節によっても魚の活性は変化します。流水域では水温が4℃を上まらないと殆ど釣りになりません。これは水温が4℃以下では、最も比重の重い4℃の水が深くて流れの弱い所に溜まるため、渓魚もそこに集まるからです。従って、水温4℃以下の場合は、大淵の底など、深くてなおかつ水流が殆ど無いところをミノーやスプーンを沈めて攻めることで、釣果が見られる様になります。

(4) 気圧の変化

水温と同様に、気圧が上昇中に活性が高くなります。魚は水温の変化よりもむしろ気圧に敏感に反応する様です。気圧は低気圧の通過などに起因する数日単位での変化のほか、数時間単位あるいは数十分単位の細かな変化もみられます。気圧の経時変化を見る事のできる気圧計や、気圧計付きの時計を利用すると良いでしょう。又、低気圧の移動状況などを、天気予報から知るのも良い方法です。

3-3.低視界の条件

(1) 水の透明度(水中の視界)

次項の「アプローチ」で詳しく述べますが、大物の釣れない最大の原因は魚を脅かしてしまう事です。水の透明度(水中の視界=魚から物を見ることのできる距離)が低いと、魚からは釣り人の姿が見えにくくなるため、魚の警戒心が薄れ釣果は上がります。餌釣りと違って、ルアーフィッシングでは目測で50cm以上の透明度があれば十分に渓魚は釣れます。むしろ透明度が2m前後の、かなり濁った時こそがルアーフィッシングの好機です。逆に透明度が非常に高い状態、例えば真夏の渇水時などは、数十mもの距離から、魚が逃げるが見えます。

竿先に銀又は金色のルアーをぶらさげ、それを水中に沈めてゆき、ルアーが見えなくなる深さを透明度として下さい。慣れるとこの様な操作をしなくても、水中の岩や砂などの見え具合いから、水中の視界を直感的に判断できる様になります。外界の明るさによっても視界は変化しますので注意して下さい。

(2) マズメ(朝・夕の1〜2時間)と天候

外界が暗い程、水中の視界は悪くなり、魚の警戒心は薄れます。朝マズメ・夕マズメと雨天や暗い曇天こそが渓流釣りの好機です。また、雨が水面を叩き付ける様な時は、水面が細かく波立ち、魚から上空を見えなくします。この様な時は、ごく細い沢や斜面から餌が雨水とともに入り込んで来ることにもなり、一時的に非常に活性の高い状態になります。夕立の一瞬に大型のイワナやヤマメがまとめて釣れる事は珍しくありません。

但し、早春の冷たい雨や山岳部の雪融け水(雪代水)が入る様な時は、水温が急激に低下し活性を著しく落としてしまうため、全く釣れなくなる事があります。源流部や深い谷などでは、急激な雨は土石流や急な増水につながり非常に危険ですので、十分注意して下さい。

3-4.良い時合の一例

初夏から秋にかけての、台風や低気圧が通り過ぎた後の曇天の朝・夕は最高の時合になります。低気圧が遠ざかりつつある事から気圧が上昇中であり、概ね気温も上昇中の場合が多いのです。加えて、雨で水の透明度が下がり、同時に餌が沢山流れてくる状態にあります。

3−1でも述べましたが、釣果を左右する主な要素は「魚の活性」と「水中の視界」であると考えられます。しかし、この2つの要素は、以下の様な人から観察する事のできる幾つかの要素により、ある程度客観的に知る事が可能です。

(1) 高い活性=魚が捕食中(エバカケ)=餌が多く流下

(2) 低い視界=魚から人影が見え辛い=濁りと明るさ

下記の表は、筆者の94年度渓流釣りデータベースを元に、種々の要素が釣果にどの様に影響を与えるかをまとめたものです。約300尾の釣果を釣れる確率から点数化しています。この表から、以下の条件下が最も大物を釣り易いと考えています。

天候     風速     水量     濁り     水温     気温    気温の
         (m/sec)   (cm)     (m)      (℃)     (℃)     変化
-------  -------  -------  -------  -------  -------  ------
 快  27    0 412  -50   6    1 107    3  13    6  16  上 231
 晴 148    2 146  -40   0    2 200    6 113    9  60  無 133
 雲 336    4  51  -30  24    3 130    9  91   12   9  下 257
 雨 122   10  25  -20  45    5  52   12 156   15  33  不  12
                  -10  22    8  52   15 199   18 206
                    0  38   10  92   18  50   21 104
                   10 246            21   4   24 155
                   20 189                     27   4
                   30  28                     30  45
                   40  28
                   50   1
天候:雲、風:無し、10〜20cm増水、透明度:2m程度、水温:15℃前後、気温:20℃前後

4.アプローチ

4-1.大物が釣れない最大の原因

(1) 警戒心の強い魚

渓魚は普通15cm程度までなら、それほど警戒心もなく餌をくわえます。しかし大型になればなるほど警戒心が強くなり、近付いただけで岩陰に隠れてしまいます。たとえ尺を越える様な大物でも、警戒心のない状態であれば、誰にでも簡単に釣れてしまうものです。「石化け木化け」という言葉がありますが、あらゆる角度から魚に警戒されない方策を常に考えて下さい。

(2) 魚の視力

「魚の目は色盲だから大した事はない」と言う意見がありますが、水中でカゲロウの様な非常に小さな虫の動きを数mも先から鋭く見分け捕食するという事実を考えると、色には鈍感でも動く物には非常に敏感な目(動体視力)を持っていると考えられます。これは、身長2m近い人間であれば、数百m先からでも見分けられる事を意味します。

又、一般に川魚は上空の鳥や獣から身を守るため、水上の動く物に対しては特に敏感な目を持っています。餌釣りの様に近づき過ぎなければならない釣りは、ルアーフィッシングに比べるとこの点で大変不利と言えます。

(3) 魚の視界

底の見えない深い緑色の淵の端に立って釣りをしている釣り人をよく見かけます。イワナは水底の岩などに隠れている場合が多いのですが、ヤマメやアマゴは中層に浮いており、人影には特に敏感です。この様な釣り人に釣れるのは、たまたま岩陰にいて人影が見えなかったイワナか、15cm以下のヤマメやアマゴに限ります。

水の屈折率の関係で、上空180度の光が水中に入ると約98度に絞り込まれます。そのため、空中から水中に入る光線量は濃縮されるが、逆に水中から空中に出てくる光線量は薄められます。プール等で潜って上を見てみると、ギラギラと異常に明るく上空が見える事に気が付くと思います。人からは暗くて水底が見えなくても、魚からは十分に明るく人影を判別できていると考えられます。

4-2.服装の色

真っ赤なベストや黄色いシャツを着た釣り人を見かけますが、これは魚に人の存在を知らせている様なものです。ウェーダーやベストは勿論、シャツ、雨具、帽子、竿の色にも気を配って下さい。暗緑色〜暗茶色の目立たない色を身に付ける様に心掛けるべきです。山菜を入れた白いビニール袋を腰にぶらさげ始めたとたん、釣れなくなった事が良くあります。

4-3.アプローチ

(1) 石化け木化け

服装に気をつければ、あとは魚に気づかれない様にするだけです。特に水の透明度の高い時は、無理をしてでも出来るだけ遠くからルアーを投げて下さい。不用意に近付き過ぎたり大きな動作をする事は、それだけで大物を逃がす事につながります。大きな岩や草、立ち木が手前にある場合には、出来るだけその陰からルアーを投げます。又、移動する場合も、この様な障害物で体を隠しながらポイントに近付いて下さい。

(2) 石河原の歩き方

魚は水中を伝わる音には大変敏感です。なるべく大きな平な石の上を腰を低くしてゆっくりと歩いて下さい。不安定な「浮き石」を踏むと、大きな音が水中に伝わり、魚を脅かし逃がしてしまいます。靴底にリベットの付いたウェーダーも同様の理由で使用しない様にして下さい。砂や草の生えている部分では、なるべくその上を歩く様にします。間違っても水の中をバシャバシャと歩く様な事は絶対にしないで下さい。

(3) 芦の中の歩き方

芦の中は歩きづらいものですが、水辺からできるだけ離れ芦の林の中を歩く様にして下さい。芦の折れる音がしますが、空中で発生する音はあまり気にする必要はありません。ポイントに近付いたら芦の中から竿だけをだしてルアーを投げます。芦林から水辺に出て立ち、ルアーを投げても、透明度の高い場合は殆ど何も釣れません。

4-4.先行者を常に意識する

いつも釣れている場所で時合いも悪くない。アプローチも完壁なのに釣れない事が良くあります。こんな時は先行者の存在を考えて下さい。いくら完壁なアプローチをしても先行者が魚を脅かしてしまっていては、ほとんど釣りになりません。

・岩の上に濡れた足跡はないか。これは晴天の日なら30分程度で消えてしまいますので、
 かなり近くに釣り人がいる証拠になります。日陰の足跡に注目して下さい。
・砂の上に足跡がないか。足型の周辺部の盛り上がった部分の砂が濡れていないか。
・草が倒れていないか。草の折れた部分に注目し、新しさを見極めて下さい。
・真新しい餌箱や空缶は落ちていないか。湿っていない空箱は先行者のものです。


5.魚の付き場

5-1.渓流の概念図

渓魚は普通、水底の石(底石)や水際の芦・エグレに隠れて餌の流れてくるのを待っています。太い流れ(水量が多い所)ほど餌も沢山流れてくると考えられますが、魚はいつも強い流れに逆らって泳ぎ続ける事はできないので、すぐ近くにある石の脇などの流れの緩い場所を探して定位しています。

典型的な渓流の形状

5-2.魚の付き場(渓魚の定位している場所)

(1) 淵、堰堤の下

淵や堰堤の下では、最も太い流れが必ず1本だけ存在します。流れが幾つに分かれていても、必ず最も太い流れに注目します。こういった流れの真下には大抵の場合、増水時に流れて来た大きな石が沈んでいますので、そのポイントの一番の大物がその周りに付いています。底石が全くない砂地の場合は、淵の周辺の芦や岩陰などの障害物に魚が付いていますが、この様なポイントでは大物は余りいません。

(2) 瀬

瀬では底に大小の石が不規則に散らばっていて、石で流れが分かれたり集まったりしています。流れが太く集まった所に水深の深い所ができていて、そのすぐ脇の石に比較的大きな魚が付いています。水面に波があって釣り人を見えなくするため比較的釣りやすいのですが、流れが強く定位が難しいためか、大物はあまり見られません。

(3) 淵尻、瀬尻

淵尻や瀬尻には大型の魚はいないと思われています。しかし、超大型の桜鱒などは、落ち込みよりもむしろ瀬尻や淵尻に多く定位していますし、釣り人の多いスレた場所では、大物がこういった所に退避している事が良くあります。また、イワナとヤマメやイワナとアマゴの混生域では、遊泳速度の速いヤマメやアマゴが淵の落込みを占領していて、遅いイワナが淵尻に退避している事が多いものです。落ち込みを真っ先に狙いに行く釣り人はこういった大物を何もせずに逃がしています。

5-3.付き場の変化

(1) 付き場は毎日変わる

5-2の(1)〜(3)は一般的な魚の付き場であり、渇水したり増水したりすると、微妙に付き場が変化します。付き場は毎日変化していると考えて下さい。

・増水時

ある程度水量が増えると、魚は水流に耐えられなくなり、より流れの緩やかな場所へと退避します。大雨の直後など、濁流に近い状況下では、落ち込み脇のごく小さな巻き込みや、ずっと下流の脇岩の陰など、 非常に狭いポイントに多くの魚が集まります。

・渇水時

活性の高い状態では酸素の多い泡の真下へ魚は集まります。非常に渇水した状況下では、普段釣りにならない様な本流の流心に魚が集まり、 良い釣り場になります。

(2) 季節による付き場の変化

水温や雪代水の状況によっても付き場は大きく変化します。特に初春と晩秋は全く別の釣り場であるかの様に付き場が変化します。

・初春

水温が低く魚の活性も低いため、水流の緩やかな深い所に魚は集まります。また、魚の遊泳力が弱くなるため、雪代の豊富な地域では、魚たちは次第に下流部へと流されてきます。そのため、堰堤の上部に出来たプールや下流部の大淵の流れの緩やかな場所に魚たちは定位していて、流れの速い落ち込みにはほとんど魚がいません。

特に水温が4℃以下の時は、水の比重が4℃で最も大きくなることから暖かい水が大淵の底など流れの少ない最も深い所に溜まるため、餌も同様の所に集まります。そのため、魚たちも同様の所に入り込んでしまい、流水域では殆ど釣りになりません。雪代水が消え、水の透明度が増すに従って、魚は落ち込みや瀬に移動して行きます。

・晩秋

産卵のため、一部の魚は上流へ移動し、堰堤の下や小沢に集まります。特に禁漁間近の堰堤下には、産卵のために遡上してきた大型の魚が数多く溜まり、非常に良い釣り場を形成します。逆に早春に堰堤上のプールや大淵にいた魚は、小型を除いて殆ど見られなくなります。

(3) その日の付き場を早く掴む

釣りを始めたら、まずその日の魚の付き場がどういった所であるかを意識しながら釣って下さい。2〜3尾の魚を釣り上げれば、その後は同様の場所を集中して狙う事により、釣果を上げる事が可能になります。

・淵の前の方か、後の方か、或るいは淵尻か
・浅瀬か深い瀬か
・泡の下か脇か
・どの程度の水量の集まった所か


6.ルアーフィッシングの操作

6-1.ルアーコントロール

(1) 竿の反動で投げる

軽いルアーを効率良く飛ばすには、竿の反動を利用します。肘から上を使い、手首を返す要領で竿を弾く様に操作します。腕全体で竿を振っても、思ったほど飛距離は出ないばかりで、大きな腕や肩の動作は、渓魚の警戒心をあおってしまうだけです。

(2) ソフトに着水させる

渓魚は警戒心の強い魚です。ルアーを派手に水面に叩きつけるのは良くありません。オーバーハンドキャストは避け、アンダーハンドやサイドハンドで投げ、山ボールの要領で静かに着水させる様にして下さい。20m以上の遠投の際にはどうしてもルアーの速度が上がってしまい、派手な着水になりがちです。この場合はサミング(リールから出て行くラインを指で押さえスピードをコントロールする手法)を行って、着水寸前に空中でルアーを止める様にします。

(3) リーリング開始時間

水深の浅いポイントや表層を釣る場合には、ルアーが着水する直前にリーリングを開始して下さい。着水を確認してからリールを捲き始めたのでは、空中にラインのたるみが有る為、実際にルアーに負荷が掛かる迄に時間が掛かり、ルアーが沈み過ぎます。この様にしないと、浅いポイントでは、頻繁に根掛かりします。通常は、ルアーを投げてから着水するまでの1〜2秒の間に、リールのベイル(糸巻きの金属製の環)を元に戻し、ラインの弛みを少なくする様に操作しておきます。

(4) 練習

初心者は薮のない水深のある所で投げる練習をして下さい。場所を変え、あるいはルアーを変えながら、20m程度離れた所から1m程のスポットの中に投げ込める様にして下さい。又、釣り場では右からも左からも自由にキャストできなければなりませんので、バックキャストでもコントロールが付くまで練習して下さい。またアンダーハンドで数mの距離にも正確に投げ込める様に練習して下さい。

最初は非常に難しく思えますが、1時間も練習するとだいたい思った所に投げ込める事ができる様になるものです。フライやテンカラと違い、ルアーのコントロールは以外と簡単なものです。ルアーフィッシングの場合は他の釣りと違って投げ直しがききません。一度失敗すると魚は逃げてしまう場合が殆どですので、狙いを外す事に対するプレッシャーがルアーコントロールを悪くします。自信を持てるまで練習しておいて下さい。

6-2.ルアーの使い分け

流水域では主にミノーかスピナーを使います。

(1) 色

スピナーに限らず、ルアーは普通、暗い時ほど明るく良く目立つ色を使い、明るくなるに従って目立たない色に変えて行きます。大体の目安を以下に示しますが、水中を泳ぐルアーをあなたの目で確認できる(目で追える)ぎりぎりの明るさのものを選んで下さい。遠くへ投げた時、ルアーがギラギラと良く見える様では目立ち過ぎますし、どこにルアーがあるのか確認できない様な時は暗過ぎると判断して下さい。

 ルアー色        水中の視界 大まかな判断の目安
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・銀色かナチュラルカラー 1m以下  雨直後、朝夕のマズメなど足元が見づらい時
・金色かナチュラルカラー 1〜3m  薄い笹濁り、日陰や曇天
・青、緑、茶        3m〜   晴天の昼間など
・深緑、黒        非常に高  炎天下など(ほとんど釣れません)
(2) 大きさ

スレた釣り場や明るい釣り場ほど、小さなルアーを使用します。逆に余りスレていない所や暗い場合は、大き目のルアーを使用する様にします。

(3) 実績のあるスピナー

スピナーはブレードの回転の良いものを選ぶべきです。ブレードが回転し始めるまでに掛かる時間が長くなり過ぎるルアーは、日本の狭い渓流では使いづらいものです。通常5g前後の金または銀を使用しますが、沢やスレた渓では3gを使用します。

ブレットンは金色と銀色しかありませんので、油性の緑や黒のマジックインキを携帯し、外界の明るさに応じてブレードやスピナー本体を着色しながら使用します。なお、マジックインキで一度着色したものは、市販の虫よけスプレーなどで簡単に色を落とせますので、外界が暗くなって来た場合などはルアーの色を元に戻します。

・ブレットン 300円程度、3、5、7g、色は金と銀のみ
・メップスアグリア 500円程度、2.5、4.5g、色々な色がある


(4) 実績のあるミノー

渓流ではミノーは5cm前後の大きさでナチュラルなカラーのものを選びます。特に透明度の高い状況下では、原色を多く配したミノーでは釣果が落ちます。イワナには鮎カラーや黄緑色を配したものに特に効果があります。また、ヤマメには赤を少しだけ配したものに効果が見られることが多いものです。

ミノーにはフローティング(浮く、比重<1)・サスペンド(比重≒1)・シンキング(沈む、比重>1)がありますが、早春の魚の動きが遅い時はサスペンドやシンキングタイプのものが使いやすく、特に深い淵などを釣る場合にはヘビーシンキング(概ね5g以上)を多用します。夏季の活性の高い場合を除き、フローティングタイプは殆ど使われなくなってきています。

・Dコンタクト50S 1500円前後、様々なカラーリングがある

今や日本の渓流では定番となってしまったミノーです。イワナには鮎カラーを最もお勧めします。ヤマメ・アマゴには僅かに朱や赤の配色されたものがお勧めです。ヤマメ・ハヤ・ニジマスなどのカラーでも、十分に魚はヒットしてきます。

(5) ルアーをラインに結ぶ

ルアーはできるだけラインに直結して下さい。サルカンなどを介して結ぶとルアーの動きが悪くなり、釣果を下げる事があります。また、スピナーは常にラインに撚れを加えますので、数十回キャストする度にラインの先端部をカットし、ラインを常に新しい状態にしておく必要があります。この場合はサルカン等の使用は邪魔になります。

(6) ルアーにも点検が必要

スピナーに藻やゴミが絡み付くとブレードが回転しなくなり釣れません。また、ミノーではフックにラインが絡んだり藻が絡みついたりしていると、動きが悪くなり釣れません。

加えて、どんなルアーでもフックの先端は岩などに当たって鋭利さが損なわれ(バカになり)ます。時々鉤先を指に当てて引っ掛かり具合いをみて点検します。一度使ったルアーを長い間放置しておくと同様に鉤先がバカになります。思わぬ所で大物をバラす原因につながりますので、小型の砥石などを使って常に鉤先を鋭利に保つか、新しいフックに取り換えて下さい。

6-3.キャスティング

(1) アップストリームキャスト

通常、斜め上流(流れの方向に対して45゚〜90゚)に向けて対岸ギリギリにルアーを投げほんの一瞬だけルアーを沈めてからリーリングします。水中のルアーが流れに押され、流心付近でJ字の様に弧を描きます(下図のピンクの矢印の線)。多くの場合、ルアーが方向を変える瞬間に魚がヒットします。

スピナーの場合は、流れに真っ直ぐに上流に投げても直線的な泳ぎしかせず、多くの場合、魚は追い掛けてくるだけでなかなかヒットしてくれません。そればかりか、ヒットしても流れに魚が乗っているため合わせが難しく、バレる事が多いものです。

沈み石の間や対岸の壁に潜む魚を誘い出す様に、障害物の回りをトレースしながらルアーを泳がせることが肝要

(2) ダウンストリームキャスト

真横か少し下流に向けて投げます。どちらかと言うとスプーンやミノーでこの方法を多用しますが、スピナーでも使用します。アップストリームキャストと同様にルアーがU字の様に弧を描きます。濁っていて流れの緩い場合や、岩のすぐ裏などを狙う場合などにこのキャスト方法を使います。

スピナーでダウンストリームキャストを行う場合は、スピナーが水面近くに浮き上がってしまいがちですので、できるだけ竿先を低くして下さい。水の透明度の低い状況では、岸辺まで近付き、竿先を水中に突っ込んでリーリングする事により、下層部をスピナーが泳ぐ様にします。

但しこのキャスト方法は、下流にいる魚から人影が見えやすく、下流の魚を釣るには、あまり適当ではありません。透明度の低い時や川幅の広い時は下流の魚も釣れますが、透明度の高い時は上流にいる魚をおびき出す方法として利用します。魚は釣り人よりも上流側で上流を向いて定位していますが、着水音で遥か下流のルアーを見つけ、突進してきます。

(3) 大物からまず釣る

淵などの大場所では、そのポイントでの一番の大物が付いていると思われる所をまず攻めます。よほど水が濁っていない限り、小物を先に釣ってしまうと、近くの獲物は全て釣れなくなってしまいます。但し、この場合手前の小魚を脅してしまわない様にアプローチに気を付けなければなりません。

(4) ルアーの投入点

魚の付き場(ポイント)を想定して、上流の対岸ギリギリにルアーを着水させ、付き場のすぐ脇か上をルアーが泳ぐ様に操作します。活性の低い場合に、ポイントの真上に落とすと、魚を逃がしてしまうことがあるので注意して下さい。

基本的な考え方は、魚が定位していると思われる場所から、その時の水の透明度分だけ離れた場所にルアーを投入する事です。透明度が3m程度の場合なら、そのポイントで最も大型の魚が定位していると思われる点から3m程度斜め上流、或るいは真横の対岸ぎりぎりにルアーを落とします。

非常に水の透明度の高い場合には、むしろ下流にダウンストリームにルアーを落とし、ゆっくりとリーリングする事で上流にいる魚を誘い出します。10mも離れた下流にルアーを落としても、魚は十分にルアーを見つけ、突進してきます。大型魚が突進し始めると周囲にいる小型魚は途中でルアーを追うのを止めるため、大型魚が真っ先に釣れます。この様な場合、当たりが出るまでに2〜3秒かかります。

釣り場の形態(淵、堰堤、瀬など)別の、投入点とリーリング方法については、この章の最後に説明します。

(5) ルアーを投げる回数

透明度が高く明るい時は、一つのポイントでは通常1尾しか釣れません。ポイントの隅々から、ルアーや暴れる魚が見えてしまうからです。4〜5回も投げて釣れなければポイントを移動した方が無難です。透明度が低くなるか或るいは暗くなってくると、下流の方から順次間隔を開けながら探って行きます。

透明度が1mくらいのかなり濁った状況では、1m以下の間隔で細かく何回も投げます。濁りのきつい堰堤の下などで、深さと場所を変えながら数十回も投げ続け、諦めかけた頃に大型の魚が掛かってくる事が良くあります。

(6) 透明度が非常に高く明るい時の対処法

この様な状況下では最初から良い釣りは望めないと考えて下さい。むしろフライやテンカラ竿に持ち変えるか、昼寝でもしている方が無難でしょう。それでも釣りをしたい場合は無理をしてでも大遠投を試みて下さい。ポイントから20m以上離れた河原のずっと手前に姿勢を低くして立ち、大型魚の定位する地点から下流部10m程度の所へルアーを真横から対岸ぎりぎりを狙って一発勝負をします。

この場合、ルアーは濃い緑か黒のものを使用し、ラインもできるだけ細いものに変えて釣ります。又、ルアーはサミングを駆使し空中で一旦止めソフトに着水させる必要があります。

6-4.リーリング

(1) 竿先(ロッドチップ)の位置

リールを巻く(リーリング)時は必ず竿先(ロッドチップ)を水面ギリギリの高さに保って下さい。竿先の位置が高いとルアーが水面近くに浮き上がってしまい、底にいる魚を逃してしまいます。深みのある場所やダウンストリームキャストでは、竿先を水中に突っ込みながらリーリングして下さい。竿先の高さの目安は、ルアーがそのポイントの中〜底層を泳ぐ様にする事です。

決して途中でルアーを上げないで下さい。魚は遠くからルアーを追い掛けていて、すぐ足元でヒットする場合が多いからです。

(2) リーリングスピード

基本的な考え方は、ルアーが中層から底層を安定して移動するようなスピードを保つことです。早すぎるとルアーが浮き上がってしまい、余程の活性の高い場合以外は釣れなくなります。遅すぎると水底の障害物に根がかりする可能性が高くなります。

上流と下流に投げる場合では、当然リーリングのスピードが異なります。速度の目安は、スレている場所や水の透明度が高い時ほど速く、水温の低い時や濁っている時ほど遅くし、いずれも中〜底層をルアーが泳ぐ様にします。なお、どんなに速くルアーを引いてきても、魚はもっと速いスピードで必ず追い付いてくる事を覚えておいて下さい。

スピナーの場合、ブレードが水中で回転していないと釣れません。ルアーが着水したら、まず竿を少しあおってブレードを回転させ、その後、回転を止めない様にリーリングを開始します。

(3) 魚が追い掛けて来た時の対処法

ヨレの少ない場所でミノーやスピナーをリーリングする場合は、竿先を前後に動かしてルアーにスピードの変化を与えてやると効果的です。また、魚が追いかけて来るのが見えた時もロッドを少しあおって速度を一時的に上げてやると慌てて食い付いてくる事があります。

それでも釣れなかった場合は、ルアーを色の違う別のものに代え、数分間待ってからキャストします。但し、追い掛けてきた魚から釣り人の姿が見えてしまったと思われる場合は、大抵の場合、何をやっても釣れません。

(4) 合わせ

リーリング中に少しでも手元に抵抗を感じたら、魚であろうがなかろうが、取りあえず竿をあおって合わせ(一時的に強くラインを引いて鉤を魚の口に食い込ませる事)て下さい。向こう合わせ(勝手に鉤掛かりしてしまう事)でも釣れますが、大型の魚では合わせの動作を確実にして、しっかりと鉤掛かりさせておかないと、バレてしまいます。根掛かり(岩や草にルアーが引っ掛かる事)を恐れていては釣れません。

(5) ランディング

ドラグの調節が適切でさえあれば、1号のフロロカーボンラインで50cm程度のイワナや虹鱒を簡単に寄せる事ができます。恐れずにどんどんリールを巻き取り、一気にランディングして構いません。虹鱒やヤマメ・アマゴの様に横に激しく走る魚では、むしろもたつく事が失敗の原因になります。

ランディングネットがない場合、大物が釣れそうなポイントでは、ルアーを投げる前にランディングの場所を想定しておいて下さい。近くに魚が暴れても逃げない様な凹地があるか確認しておく事です。

7.釣り場の形態と釣り方

7-1.淵

初夏〜秋にかけてのごく普通の状態では、対岸の巻き込み(渦を巻いている所)の対岸ぎりぎりにルアーを投入し、ほんの一瞬だけ間をおいてルアーを沈めます。流心の真下にある底石の付近をルアーが泳ぐ様に、竿先を低くして(濁っている時は近付いて竿先を水中に沈めて)ゆっくりとリーリングします。次に手前にある巻き込みのできるだけ上流側にルアーを投入し、少し沈めてから今度は素速くリーリングします。

透明度の非常に高い場合には、むしろ淵尻の対岸ぎりぎりにルアーを落とし深い所にいる魚を誘い出す様にします。この場合、人影を見付けられやすいので、警戒心をあおらない様に細心の注意が必要となります。透明度の低い時は、岸辺に近付き、淵尻から透明度に応じた間隔でルアーを投入しながら小刻みに探って行きます。この場合はむしろダウンストリームにルアーを投げ、竿先も水中に沈めてゆっくりとリーリングした方が効果的です。

大きな淵で水量が少ない時はスピナーではほとんど釣れません。ミノーかスプーンを使用して止水域での釣り方に準じて釣って下さい。

7-2.堰堤下、滝壷

最初に最も太い流れを見定め、その向こうの堰堤ギリギリにルアーを投入し、予想される深さギリギリまで十分に沈めてから淵と同様にゆっくりとリーリングをします。スピナーの場合、堰堤下ではヨレが少ないため、ロッドを前後に動かしてルアーにスピードの変化を与えてやると効果的です。堰堤全体から一様に流れ落ちている様な所では、最も深そうな場所を探し、そこから透明度分だけ離れた場所に堰堤ぎりぎりにルアーを投入します。やはり少し沈めてからゆっくりとリーリングして下さい。

透明度が低い場合は、端から間隔を開けながら順次探って行きます。透明度の更に低い時は、大きな堰堤や滝壷ではスピナーに重りを付けて底付近をリーリングして下さい。堰堤の下流に芦林がある場合は、スプーンなどをダウンストリームに対岸の芦ぎりぎりに投げ、ゆっくりとリーリングしてみます。芦の下についている型の良い魚が飛び出してくる事があります。

一通り堰堤下を探ったら、最後に堰堤に近い所で水面の比較的平な所に、ルアーを勢い良く叩き付けて下さい。そして少し沈めてから素速くリーリングしてみて下さい。堰堤の真下にいてルアーに気が付かなかった魚が音で飛び出してくる事があります。

堰堤下や滝壷はよほど水量が多く波が出来ている様な状況下でないとスピナーでは釣れません。ポイント全体にヨレが大きく出来ている様な状態でのみスピナーを使用します。水量が少ない時はミノーかスプーンを使用して止水域での釣り方に準じて釣って下さい。

7-3.ヨレのある瀬

下流から適当な間隔を開けながら対岸ギリギリにルアーを順次投入して行きます。石と石の間をルアーが奇麗に泳ぐ様に竿先を左右に動かしながらリーリングします。瀬の中に小さな落ち込みができている場合は、淵と同様の考え方で釣ります。

この様なポイントでは一つの方向からルアーを流しても魚が気付かない事があります。時々ダウンストリームにも投げ、投げる方向を変える事で魚を誘い出して下さい。

急な増水時や雪代水が大量に入り込んでいる時は、魚が水流の緩い所に退避している場合があります。その場合は落ち込みの流心の上を探っても釣れません。こういった場合は、淵尻の流れの緩やかな深みやちょっとした脇の巻き込み、岩の後ろなどを、丹念に探って下さい。